異世界チェンジリング

空月

文字の大きさ
上 下
54 / 56
拍手再録

リクエスト小話・1

しおりを挟む
異世界チェンジリングにいただいたリクエストより。
「入れ替わった先で『私』として過ごすシーファ(困惑気味)の明るいギャグ風味の話」

……だったんですが、すみません。作者の力量により、何やら求められていたものとは大分違った何かになってしまったような気がします。少なくともギャグとは呼べなさそうです。
ちなみに作者はギャグシーンを書いた時、知り合いに「真面目なギャグを書くよね…」と生温い反応をされた経験があります。苦い思い出です。


※IFにIFを重ねた感じのパラレル話です。
※試行錯誤の果てに何やらよくわからない感じになりました。
※反応に困ってもいいので石は投げないでください。


+ + + + + +



 考えて考えて考え抜いて実行した、『チェンジリング』の魔法。
 それがきちんと発動した証左に異世界の少女の体を得た『シーファ・イザン』は、しかしうっかり自分の選択を後悔しそうになっていた。

(ある程度、断片的に知識を得ていたと言えど、まさかここまで『違う』とは……)

 自分の都合で『巻き込んだ』少女に対しては、色々な『補助』を用意することができたが、己の方にまで力を裂く余裕はなかった。故に、シーファにはこの『世界』――少女が生きる世界の常識が、ほとんど無いといっていい。
 『少女』の体に残る知識は、うまく己とラインをつなげていないために断片的にしか想起されない。つまり無いよりはマシ程度。

 力なく座り込んだベッドのシーツの手触りも未知なる感触としか言いようがないし、足裏に感じる敷物(『カーペット』と呼ぶらしい。材質は『ポリエステル』だそうだが、まずその『ポリエステル』がなんなのかわからない)もまた未知なる感触だ。というか自分(シーファ)が未知だと感じないもののほうが少ない。

 自分の居た世界と共通するものも確かにあるが、恐らく加工技術の違いだろう、同一のものだろうとは判断できても感情が納得しないという事態が起こっている。


 つまり一般的な宿の一人部屋より少し広い程度のこの部屋だけでも、『未知』と感じるもので溢れかえっているのだ。
 それに慣れきる(もしくは『知識』を把握しきる)までは部屋から出るという選択肢は無い。無いと言ったら無い。たとえそれが、『彼女』の家族の不審を買おうとも。

 そして知識の把握と共に行わなければならない必要性をひしひしと感じるのは、表情筋の制御である。
 この世界の人間がそうであるのか、それともこの体が特にそうなのかは未だシーファには不明だが、この――現在シーファのものとなっている体は大変表情が変わりやすかった。
 己の姿を映せるものを探し、見つけ、改めて覗き込む。その一連の流れで見事なまでに変化した己(もとい『彼女』の体)の表情に、「何だこのよく動く顔は……!」と思わず驚愕し、その驚愕した顔にさらに衝撃を受けたのは記憶に新しい。

 表情筋が緩いのかと最初は考えたものの、些細な感情の動きでこうもコロコロ表情を変えられるということは、逆に表情筋は鍛えられているのだろう。恐らく。

 ならば目に映るもの、手で触れた物に驚くたびにバリエーション豊かに驚愕を示すこの顔は、己の支配下に置かない限り他者からの不審を買う代物にしかならない。
 どうやら体に多少ひきずられているのか、数えきれないくらい『旅』を繰り返した故の精神の摩耗は大分修復されているらしい。シーファにとってはあまりいいことではないが。
 精神が退行しているにも近いその作用のおかげで、この部屋から出て少女の家族と触れ合えば、遠からずぼろが出る。彼女の知識や記憶をうまく把握できていない今の状態なら尚更。

 よって、やはりしばらくは少女の家族との接触を最小限にし、この部屋を出ずにこの世界に慣れることが最善だろう。


 そう思考に区切りをつけて、まずは部屋にあるものを片端から『知識』を伴う理解の段階へ持っていくことにしたシーファは、まだ知らなかった。

 ――その状態を、少女の生きる世界でなんと表すかを。


 のち、『知識』を己に馴染ませ、さらに貪欲に多くの知識を集めていったシーファは、それを表す言葉とそのあまりの不名誉さに心底少女に申し訳なく思った。叶うのなら土下座して謝りたいとすら思った。異世界文化に馴染みすぎだろうとツッコミを入れる者は残念ながら居なかった。


 しかしそれは、『彼女』の心配症な家族たちが連日連夜涙ながらに出てくるように説得してくるのに根負けしたシーファが万全と言えない状態で外界と接触を持ち、どうしても隠しきれなかった不自然さからベタに記憶喪失だと勘違いされた上にやはり心配症な『彼女』の幼馴染も交えてひと騒動起こった後、ようやく普通に学校に通えるようになってしばらくしてからのことであり――もちろん現時点での『シーファ』がそんな未来を予想できたはずもなかったのだった。



+ + + + + +

自分の部屋から出ず、他者との関わりを極端に避ける――いわゆるひとつの『引きこもり』。ついでに『不登校』でもあるよね、という話。
人によってはそんなに不名誉と思わないでしょうが、まあポジティブな言葉ではなかったのと参照した資料が悪かった模様です。

お待たせした挙句こんな出来で大変申し訳ありませんが、ほんの少しでも楽しんでいただければ幸い。
リクエストありがとうございました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

処理中です...