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終わりのためのはじまり
聖剣
しおりを挟む精算を済ませて実は魔剣な腕輪を荷物につっこみ、ピアとレアルードの様子を窺ってみれば、どうやら結局ピアは自分で自分の装備を選ぶことにしたらしかった。
レアルードはピアから離れたところで、幾つかの装備品を物色している。
ちらちら視線を向けているピアに気付いているのかいないのか――あれは多分気付いてない。もしくは完璧にスルーしてるか。
……レアルードって、ピアを旅の仲間に加えるのを決めたわりに、結構扱いが突き放した感じだよね。実はひそかに想い合っていて、とか考えてたんだけど、この様子じゃ全くなさそうだ。
どうやらピアの防具選びはまだかかりそうだし、先に道具系を揃えに行こうかな。大体必要なものはわかってるし、ある程度は私だけでも大丈夫だろう。
「レアルード。私は先に他の店を見ていようかと思うんだが、いいだろうか」
「……シーファ」
声を掛けて先手必勝とばかりに用件を伝えると、手に取っていた品物を戻して、レアルードが私に向き合った。その碧の瞳には非難によく似た感情がちらついている。
……あ、なんか却下されそうな予感。
「タキと『教会』に行ったときも随分絡まれたって聞いたぞ。一人で行動するのは危ない」
「それは、タキと二人だったからだろう。一人で目立たないように行動すれば、それほどの危険はないはずだ」
「シーファは楽観的すぎる。自分の容姿がどれくらい目立つか分かってないだろう」
いやいや、十分すぎるくらい分かってると思うんだけどな。こんな凶悪なまでに整った顔、初めて見たし。あんまりにも人間離れしてるから現実味がないのは確かだけど、目立つのは分かってる……と思う。『シーファ』自身、結構面倒な目に遭ってきたっていうのは『記憶』にあるし。
それに、『シーファ』の記憶によれば、やりようによっては結構気付かれないはずなのだ。この尋常じゃなく整った顔も、煌めく銀髪も、透き通る白い肌も。
要は存在を極力気付かせなければいい。気配を消して道の隅を歩けばそうそう気付かれない程度の技術(隠密行動のための、というのが気になるけど。必要になる事態があるってことだよね……?)を『シーファ』は身につけてるし、その知識のある『私』もそれが可能なわけで。
それに、一人で行動するのがダメだって言われるほど、自分の身を守れないわけじゃない。少なくとも絡まれても逃げるくらいのスキルはある。
……っていうのを懇切丁寧に伝えても無駄なんだろうなぁ。この様子だと。
『シーファ』の身を案じるレアルードの視線は、単独行動を許してくれそうもない強さだ。これを丸め込むのに労力を注ぐくらいなら、ピア(とレアルード)の買い物に付き合った方がまだマシだろう。
「――この界隈なら、そうそう危険な目には遭わないと思うんだが……分かった。一人で行くのは止めておく」
「分かってくれたなら、いい」
表情を緩ませるレアルードに、やっぱり内心首を傾げる。
これまでの『旅』で、ここまで心配されたことって無い。というか今回の旅に出る以前の村での生活でも無い。
『シーファ』は旅の資金集めと、一応人間らしく生活を営んでるように見せるために薬師みたいなことをしてたんだけど、そういう時は別に心配されなかったし。いや、こういう街中じゃなかったからかもしれないけど。
とりあえず、一人で行動できないとなったら、ここでの用事を早く済ませてしまうに限る。つまりピアの防具選びが終わればいいわけだ。
とはいえ、私がピアに助言とかしても聞き入れてもらえるのかは微妙なところだ。むしろ反発されそうな気がする。
そうとなればレアルードに協力を仰ぐのが一番の近道なわけだけど――ついさっき、内容はもっともなんだけど空気読まない発言してたしなぁ。協力してくれるだろうか。
というかそもそも、レアルードは何か買うんだろうか。一応さっきは商品を見てたみたいだけど。
ちょっと気になったので訊ねてみると、買うつもりはないとのことだった。まだ必要ないらしい。
まあ、レアルードの身に着けてる防具は、この先三つくらい町を過ぎた辺りまでは現役で大丈夫なくらいの性能(シーファの記憶より)だからいいのかな。あれもこれも買いそうな雰囲気になってるピアとは正反対っぽい。
旅は何かとお金が入用になるし、節約は大事だと思う。うん。
ゲームとかのお約束だと、新しいフィールドに辿り着く度に新装備が売られてたりしたような気がするけど、さすがにこの世界でそういうのはない。大きい町なら値段の割に質のいい防具とか武器とか売ってることもあるってくらいで。多分流通とか生産力とかの問題なんだろう。
旅が進めば、武器マニアとか防具マニアとかそんな感じの人からだったり国に行ったりで、普通には売られてないようなのも手に入れられるみたいだけど。
でもレア中のレアな武器はもう手に入ってるんだよね。私のじゃないけど。
レアルードの利き腕側に提げられている剣を見る。現状ただの荷物でしかないそれは、だけど捨てるわけにも売るわけにもいかない代物だ。
私の視線に気づいたレアルードが、それ――『聖剣』に軽く触れた。
「……そういえば旅に出てから『解析』してなかったな。するか?」
軽い調子でレアルードが訊いてくるのに、少しだけ考えて首を横に振る。
『解析』というのは、対外的には『聖剣』に興味があったシーファが、『魔法』によって性能やらルーツやら扱う条件やらを探ること、とかそんな感じになっている。実際やるのは『聖剣』の調整――調律? のようなもので、性能もルーツも扱う条件も、調べるまでもなく『シーファ』は知っているんだけど。
レアルードは『聖剣』に選ばれたから『勇者』になった。でもだからって、即座に『聖剣』を扱えるかといったらそうじゃない。
『シーファ』の記憶によれば、精神負荷が凄まじいからとか何とかいう理由でまだ装備(つまり戦闘用に使用)できないらしい。ステータスが足りないから装備できない、みたいなものだろうか。
『聖剣』の名にふさわしく何やら色々規格外な力を持つ代物なわけだけど、使い手の技量が追い付いていない段階では、その力はむしろ危険極まりない。
完全に封じられてた頃ならともかく、レアルードが『選ばれた』あとはちょくちょく私が力の調律をしないといけないという、結構面倒な一面もある。
……まあ、暴走させたくはないから調律するのは別にいいんだけど、もっと手のかからない仕組みにすればよかったのに、と思わなくもない。魔王の元に辿り着けるようにするためには、それくらいの力が必要だったってことなんだろうけど。
剣が内包する力を自分の支配下に置いて、その流れを整える。それが『シーファ』の記憶の中での『解析』だ。
……でもどう考えても『解析』とは呼べないよねこれ。実際やってることとしては。
本当のこと言うわけにはいかないから仕方ないんだろうけど……だって聖剣を支配下に置けるって、『勇者』のレアルードでさえ無理なのに不審過ぎる。
『シーファ』には聖剣が反応しない――聖剣は選ばれたものが鞘から抜くと刀身が輝くというオプションがあったりする――としても、おかしく思われるのは避けられないだろうし。
どうでもいいけど光る剣って、奇襲には絶対的に向かないよね。まあ勇者だからそんなことしないんだろうけど。
というか何のためにそんなオプション付けたんだろう……一目見て『勇者』って分かるようにするためなのかな。……うーん、大昔のエルフの皆さんの考えは分からない……。
考え込んでたら、何やらレアルードが気遣わしげな表情になった。何故このタイミングで。
……私の表情って基本無表情だから、無駄に深刻に見えたんだろうか。
「……大丈夫か?」
えーと、何その脈絡のない問いかけ。いやあるのかな。
でも何に対しての問いかけなのか謎だよレアルード。もうちょっと言葉を足してくれると助かります。
普通に考えれば体調についてとかかな、と思うんだけど、ちょっと考え込んでただけで体調を心配されるほど見た目不健康そうではない……はず。
だからと言って他の何についてかも思いつかないんだけど。
でもまあわざわざ何についてかとか聞くのもアレなので、無難に笑みを返しておくことにする。ごまかし笑いとも言うけど。
「…………」
納得したのかそうじゃないかは分からないものの、そのまま黙り込むレアルード。
……いや、無言は別にいいんだけど、意味ありげにじっと見つめてくるのは何なんだろう。謎すぎるよレアルード。
『シーファ』の記憶からするとこんな思わせぶりな行動するタイプじゃなかったと思うんだけどな……あの過剰なくらいの心配っぷりと何か関係があるんだろうか。さっぱり共通項は見つからないけど、なんとなくそんな気がする。まあ、関係があったからって、何の解決にもならないんだけどね……。
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