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終わりのためのはじまり
変わらない『筋書き』
しおりを挟むタキがシウメイリアに用件を告げれば、彼女はすぐに私達を奥へと案内してくれた。
「タキが他人と旅を共にするなんて」と、これまた『記憶』と相違ない台詞を告げて嬉しそうに笑ったシウメイリアに、タキはちょっと複雑な顔をしていた。多分、シウメイリアが子供の成長を喜ぶ親みたいな感じだったからだろう。
いろんな手順を省略して(タキが顔馴染み故のサービスみたいなものらしい)さくっと『診察』することになったわけだけど。
「――こんなこと、初めてです」
『心眼』で私を『視』たシウメイリアが、驚きに目を瞠ってそう言った。
私としては「やっぱり」としか思わない反応だったけど、タキは違う。「どういうことだ?」と疑問を投げた。
彼女――そして『シウメリク』の持つ『心眼』という異能は、いわゆる透視能力とか第三の目とかそんな感じのものだ。『教会』に帰属する人間は大抵が異能を持っていて、そういう人は基本的に魔法の素質なんかも高い。その例に漏れず、『心眼』を持つ人は、補助系統の魔法に高い素養を持つ人が多かったりする。
その中でも『シウメリク』の力の強さは飛びぬけていて――つまりその立ち位置に居る『シウメイリア』もまた、強い『心眼』を持っているはずで。
だからこそ、かつて『シウメリク』が言ったのと同じ台詞を『シウメイリア』は口にしたんだろう。
繰り返した、繰り返された、そのやりとり。それは、『シウメリク』が『シウメイリア』になってもやっぱり変わらない。
「本人――シーファさんに拒絶の意思が感じられないのに、きちんと診ることができません。そもそも『視』えにくいんです。まるで、何かに阻害されているみたいに……」
「阻害?」
「靄がかっている、と言えば近いでしょうか。輪郭はぼんやりと把握できるけれど、どの部分も正確には視えないんです。――身体に問題がないことだけは確証を持って言えるのですが」
より正確に『シーファ』のことが視えるからこその台詞。
あと少しでも力が弱ければ、『シーファ』に都合のいい情報だけを与えられるだけで終わっていただろう。他の人を視るときと同じようにきちんと視えたのだと認識させられて、何も不思議に思うことなく。
……こういうイベント(?)を毎回繰り返してたことを考えると、割と『シーファ』って綱渡り状態だったんだなぁ……。
絶対にばれたらいけないわけじゃないけど、『エルフ』であることを隠したいなら、『普通』でない証拠が積み重なっていくのは不都合だったはずなのに。
――これも決められた『運命』のうちなら、仕方ないのかもしれないけど。
「よくわかんねーけど、とりあえずシーファは健康体ってことでいいんだな?」
「はい。……というか、話を聞いたところでは、それは確定していたのではないのですか?」
「まー、見たトコ回復してんだろーとは思ったし、本人の申告もあったけど、イマイチ信用ならなかったんだって」
あっけらかんと言うタキ。
……それってつまり、レアルードだけじゃなくてタキも私の言葉信じてなかったってことだよね……?
そんなに私って無理しそうに見えるのかな。確かに元気溌剌とかそういうタイプじゃないから、完全回復したとしてもあんまり分からないかもしれないけど。
でもまあ、これで当初の目的である『レアルードを納得させるためのデモンストレーション』は完了だ。
あとは証明書(っぽいもの)を出してもらえばそれでOK。……なんだけど。
それだけじゃすまないんだろうなぁ、っていうのは、『記憶』から分かっていた。
過程が違っても、同行者が少なくなってても、『筋書き』は変わらない。
定められた『旅』が繰り返される、この現象が終わらない限り、それは絶対のことだ。
案の定、シウメイリアは、快く診断書(のようなもの)を作った後、『シーファ』の記憶にある『シウメリク』と同じ話を切り出した。
「――実は、タキに頼みたい仕事があるんですが」
「またか? 『使徒』サマ達は何してんだよ。『与えられた力で以て世界に尽くす』のが『教会』の教義じゃありませんでしたかねー?」
「……嫌味を言わないでください。あとその教義の解釈は大分簡略化されていますよ。本来の意味は――」
「アンタと『教会』の教義について議論する気はねえっての。ンで? 頼みたい仕事って何だ? 事と次第によっちゃ引き受けないでもないけど」
にやにやと笑いながら言ったタキに、シウメイリアは眉間に皺を寄せる。ちょっと機嫌が傾いたらしい。
真面目な話っぽいのに、相手に全く真剣味が感じられなければ不機嫌にもなるよね。
……そういえばここ数日タキのデフォルトっぽいにやにや顔がご無沙汰気味だったのはもしかして私を心配してたからとか――じゃないよね違うよねそうであってください。
『旅』を繰り返している自覚のある私はともかく、タキもレアルードも『旅』による信頼関係とか情とか絆とかそれ的なものの『積み重ね』はまるっとなかったことになってるんだから、そこまで心配されてると逆に怖い。なんかイレギュラーな力が働いてるとしか思えなくなる。
いや、『私』が『シーファ』であるってこと自体イレギュラーなわけだけど、それとは全く関係ない部分に変化があるのは困るし、……怖い。
その『記憶』との乖離が気にしなくていいレベルのものなのかそうじゃないのか、『私』じゃほとんど判断できないから。
もっと詳しく『記憶』を探れば、ある程度の判断はつくんだろうけど……そこまでするとなんかまたベッドに逆戻りするハメになりそうな気がものすごくする。多分『私』じゃ処理しきれない。
とか考えてるうちにタキに頼みたいお仕事についての説明が終わっていた。聞き流してたけど、『シーファ』の記憶にある内容とは変わりない感じだったのでとりあえず安心する。
シウメイリア――『記憶』では『シウメリク』経由でタキへと回ってきたお仕事の内容は、簡単に言えば調査依頼だ。近くの森に異常の兆候が見られるから、その原因を軽く探ってほしい、みたいな感じの。
『シーファ』の記憶では、この会話が為されるのはパーティメンバーで幾つかの依頼をこなした後だったんだけど、イレギュラーな流れ(主にレアルードの暴走による)を引き継いだ結果、色々段階をすっ飛ばしてしまったらしい。
……この『お仕事』、わりと重要と言うか、後々に響いてくるものだったと思うんだけど、『記憶』通りの流れになってくれるのかちょっと心配になる。
「――引き受けて、もらえますか?」
「……んー。どうすっかなー」
お仕事モードなのかこれが地なのか(『シウメリク』のことを考えると地なんだろう)かなり真剣な様子のシウメイリアに対して、タキはどこまでも軽い。
その二人がそれぞれ違うタイミングでちらりと視線を向けてくるのに、内心苦笑する。
タキが返答を渋るのが私を始めとする『仲間』ができたことによるものだと思ってるシウメイリアと、どうせなら仲間全員で仕事に当たった方が色々と都合がいいけどどうしようかと考えてるタキと。
『記憶』と同じ流れを汲んでいれば、私達もある程度の評価というか実績ががある状態だから話は簡単だったんだけど、あいにくと今回は違う。
タキがごり押しすれば私達を巻き込む、というか仕事に参加させる許可を得ることはできるだろうけど、タキはそういうことをするタイプじゃない。――きっと、『嫌な予感』もしていることだろうし。
『記憶』に近い流れにするために口を出すか、全面的にタキの判断に任せてしまうか。
私が答えを出す前に、タキは考えをまとめたらしかった。
「それ、期限とかあんの?」
「いえ、明確なものは。これは民間からの依頼ではなく、『教会』発のものですし。ただ、念のための調査とはいえ、不確定要素を放置しておくわけにもいきませんから、早い方が良いのは確かですが」
「ナルホドね。んじゃ、ちょっと保留にしてもいいか?」
「……保留、ですか?」
タキの言葉に、シウメイリアは不思議そうな顔をする。
即断即決タイプのタキにしては珍しい返答だったからだろう。『シーファ』の記憶の中でも、タキが答えとか選択を保留にしたことはほぼ皆無みたいだったし。
「そ。一応オレ、今は長期の単独行動はちょっと、な立場だし。不確定要素の多いとこに無計画に突っ込みたくないんだよな」
「……受けるのが難しいようなら、どうにか他に回しますが……」
「いや、難しいわけじゃないんだって。どっちかっつうと簡単な方だし。ただ、せっかくなら――」
言いながら伸ばされた手が、成り行きを傍観してた私を軽く引き寄せる。そのまま肩に手を回されて、タキの隣に並ばされた。
……別に引き寄せる意味ないよねこれ。視線で示すだけでいいと思うんだけど。
「『仲間』と受けたいと思って。別に『証』持ちじゃないといけないようなのじゃないだろ、今回のって」
「――ああ、そういうことですか。確かにこれは、『証』持ちに限定しないとならないものではありませんから、貴方が望むのなら構いませんが。『教会』が自発的に行うものなので、融通の利く貴方に依頼をしたというだけですし」
「だと思った。……んじゃ、他の奴ら――『仲間』と幾つか表に出てる依頼こなして一応の実績残したら、正式依頼として回してもらえるか? ……シーファ、いいよな?」
空気を読んで無言のままでいたんだけど、意見を聞かれたからには答えないわけにはいかない。
でも訊くの遅いと思うよタキ。ほぼ決定事項だったよね今の流れ。いや別に私としては都合がいいんだけど、ちょっとどうなのと思わないでもない。
「別に私は構わないが――一応、レアルードやピアの意見も聞くべきだろう」
「アンタがいいなら大丈夫だろ」
「……それは、どういう意味だ」
「アンタがいいって言ったならレアルードも間違いなくいいって言うだろうし、レアルードがそう言えばピアも反対はしないだろうって意味。……分かってんだろ?」
にやりと人の悪い笑みを浮かべたタキに、思わず深く溜息を吐いてしまったのは――まあ、仕方ないことだと思う。うん。
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