異世界チェンジリング

空月

文字の大きさ
上 下
10 / 56
終わりのためのはじまり

道筋

しおりを挟む



 「レアルード――それにピアも」


  戸を壊す勢いで開けたのはレアルード。遅れてその後ろにピアが現れた。
  ……えーと、なんで二人とも不機嫌そうなのかな?

  部屋に入ってきたレアルードが無言で近付いてくる。妙な威圧感を発してるけど本当に何がどうしたの……!?

  シーファの後ろに回って威嚇するようにタキを睨むレアルードに困惑する。あと前方から悔しげな面持ちでこっちを見てるピアにも。
  一体どういう流れでこんなことに……謎だ。

  まあ何も言わないってことはそう重要なことじゃないのかもしれない。
  せっかく二人も来たし、タキに確認したかったこととか言っておきたかったことはあらかた話し終わったし、これからの話をしちゃっていいだろうか。なんかそういう雰囲気じゃないっぽいけど、かといってこのままぼけっとしてるのもアレだし。


 「ちょうど良かった。今、旅の目的についてタキに説明していたところだが――」


  言いつつ立ち上がる。他に椅子がないから全員座ることはできないし、そんな中平然と座り続けるなんて芸当もできない。だって落ち着かないし居心地悪いよ絶対。

  どうぞお座りください、的な感じにレアルードの方に椅子を動かしたけど、相変わらずタキを睨んでて気づいてくれない。
  どうしようか考えてたらタキも立ったので、もうそのまま話に入ることにした。


  思い浮かべた魔法陣を指先で宙になぞりつつ、短い呪を口にする。
  そして現れるのは、この周辺の地図。通ったところ以外は簡易もいいところで、おおよその方角を見るくらいにしか役に立ちそうにない――まあRPGではわりとお馴染みな感じの代物だ。
  これまたお約束的に、自動マッピングシステム搭載だったりする。つまりこれから新たに行くところは、訪れた順に詳しい地図へ更新されるらしい。
  どこまでもRPG風なことになんだかちょっと微妙な気分になるけど、まあ便利は便利だ。

  地図を出したことで全員の注目が集まったので、机の上に地図を広げて本題に入る。


 「私達が今居る……リリスの町はここだ。そして魔王が居ると言われているのはこの辺りになる」


  言いながら、ちょうどリリスの町から正反対の場所にある広大な空白の部分を指し示す。
  地図上で見るだけでうんざりするような距離と種々様々な天然の防壁は見ないことにした。まともに考えると心折れそう。


 「ひとまずは、このまま次の町に行こうかと思うんだが――」

 「あ、ちょっと待ったシーファ」

 「……何か問題があったか?」


  遮ったのはタキだった。地図を覗き込んだタキは、行こうとしていた町とリリスの町のちょうど中間くらいの地点を指先でトントンと叩く。


 「この辺にひとつ村があるらしいんだよ。オレ、そこに届け物する依頼受けててさ。直接向かうよりちょっと遠回りになるけど、寄ってもらえるか? 品渡すだけの仕事だから時間はとらないし」


  そのタキの言葉にまたレアルードの機嫌が微妙に降下した気配がしたけど、それよりも問題は。


 「やっぱり変わらないのか……」

 「ん? なんか言ったか?」

 「……いや。大きく道から逸れているわけではないんだな?」

 「ああ、そのはずだけど。ただ、あえて立ち寄るには離れてるし、商売とかするにも村の規模が小さいから、あんまり行商人とかが寄りつかないんだと。だからわざわざ依頼がきたってわけ」


  この辺りでは、届け物といえば信頼のおける行商人……商隊などに頼むのが主流だ。その巡行ルートにかからない場所となると、届ける手段が限られてしまう。
  だからこそ、タキのような流れの剣士に依頼が来たんだろうけど――。


 「――お前は『証』持ちの旅人なのか」


  少し驚いたようなレアルードの言葉に、ハッとした。
  『証』というのは、俗に『教会』と呼ばれる組織に認定を受けた者が持つ、ある種の身分と資格の証明みたいなものだ。『教会』の本義は別にあるけれど、ゲームとかでいうギルドのような役割も果たしているので、そこを通して今回のような依頼を受けたり出したりもできる。

  『シーファ』にとってタキが『証』持ちなのも『教会』に繋がりがあるのも当然だったから全く疑問に思わず流しちゃったけど、今のつっこむなり驚くなりするところだったよ……!
  何故なら『証』持ちはそれなりに希少だからだ。『教会』に依頼を出すのも依頼を受けるのも基本的には誰でも可能なんだけど、それは一定区域内――つまりひとつの『教会』支部(みたいなもの)の管轄内で済むもののみらしい。

  リリスの町にある『教会』の管轄区域はリリスの町の中だけ。つまりタキの言った村は管轄外に関わらず、タキはその依頼を受けてるってことになる。それはタキが『証』持ちだという事実を示すわけで。


  見れば、レアルードもピアも少なからず驚いた顔をしていた。……え、シーファ? もちろん相変わらずの無表情ですが。
  あれだよね、『シーファ』がこれまで表情筋使わなさすぎたから感情が顔に出にくいんだよ絶対。


 「まあ、一応そうだけど。確かめるか?」

 「……別にいい」


  途端に嫌そうな顔になったレアルードに内心苦笑する。というのも、『証』は身体のどこかに刻まれるものだからだ。
  パッと見でわかる場所にないなら、どこかしらを露出してもらわないとならないかもしれない――それを想像してレアルードは嫌がったんだと思うと、ちょっと笑えた。


 「……話を戻すが、大して距離も変わらないだろうし、私は君の言う村に行くことに異論はない。レアルードとピアはどう思う?」

 「シーファがいいなら、俺は構わない」

 「……レアルードがいいならいいけど」


  なんか似たような返答をした二人(とはいえある意味全然違うことを言ってるわけだけど)に微妙な気持ちになりつつ、「……だ、そうだ」とタキに向き直れば、にっこりと――胡散臭いくらいの満面の笑みでお礼を言われた。

  ……裏しか感じられないっていうのもある意味すごいよ、タキ。そしてレアルード、一応今のはみんなにお礼言ったはずなんだから、ブリザード発生させるの止めてください。

  未だ広げたままの地図に目を落とす。タキが示した村がある辺りを指でなぞって、気付かれないように溜息を吐いた。


  さっきここから次の町にそのまま向かうことを提案したのは、『魔王』が居るという場所に向かうのに効率的だからだけじゃなく、確かめたいことがあったからだった。

  何度も『シーファ』が繰り返した旅の中、絶対に辿る道筋がある。その一つが、リリスの町から次の町の間にある、小さな村――盗賊に荒らされる村、だった。
  そこで出会うはずのタキとリリスの町で出会ったから、もしかしたら、と思ったけれど、結局はその村に立ち寄ることになってしまった。


  変わらない。変えられない。それが『運命』だとでもいうように。


  だとしたら――その『運命』は、誰が決めたものだっていうんだろう。

  ……その答えを、多分『シーファ』は知っている。だけど、『私』の『知識』には、ない。それはきっと、『シーファ』が答えを隠したから。
  ただ、時が来ればわかる、とだけ『知識』が告げる。

  ……本当、『シーファ』はなかなかに面倒で厄介で複雑な身の上らしい。『運命』とかもう一般市民の手に負えないんですが。

  まあ、ひとまずは『旅』を進めていくしかなさそうだよね……人間関係もちょっとアレな感じなのに大丈夫なのか不安だけど、仕方ない。
  やれることをやるしかないか、と開き直って、顔を上げた。

  ……とりあえずは、シーファとタキの睨み合い(睨んでるのはレアルードだけだけど)を止めさせるべきだよね、うん。本気で先が思いやられる……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...