異世界チェンジリング

空月

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終わりのためのはじまり

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  とりあえずなんとかレアルードにピアを放置して着いてくるのを諦めさせて、今度こそタキと共に部屋へ向かう。

  そういえば気分的な意味で瀕死だった+寝て起きて謎の魔法陣のおかげで回復してからすぐに外に出たせいで、どんな部屋かちゃんと把握してない。広さはそこそこあった気がするけど……。


  考えつつ辿り着いた部屋に入って、タキに備え付けの椅子を勧める傍ら部屋を観察して――あれ、と思う。
  ……気のせいだろうか、この部屋二人部屋に見える。ベッドは同じサイズのものが二つ、椅子も二つ。旅の荷は部屋の隅に置いてあるけど、そもそもピアって荷物持ってたっけ……?
  二部屋とったのか、それとも経費削減的な感じでで二人部屋で三人泊まるのか。ピア女の子だし、前者? でもレアルード、部屋に案内するときここのことしか言わなかった気が。

  ……考えてても仕方ないか。まずは目の前にあることを済ませよう。


 「で、美人サンはオレにナニ聞こうっての?」


  多分デフォルトなんだろうニヤニヤ顔のタキの正面に座って、なんか含みありそうな言い方は気にせずさっさと質問を済ませることにした。


 「順番が多少前後してしまったが――そうだな。まず、君は何を目的に旅を?」

 「別に何も。あえて言うなら腕試しか?」

 「では、私達の目的地がどこであれ、目的が何であれ、ある程度は付き合ってもらえるということか」

 「まあ、気が向く限りはな。アンタ達色々面白そーだし」


  ……うーん、『記憶』から予想してたけど、とっても自由人な返答だ。
  飽きたらポイッとされそうな気がものすごくする。まあそれがタキなんだと『記憶』が告げてるけど。
  だってタキが旅の終わりまで一緒に居たことって三回に一回くらいだよ。半分行かないうちにオサラバとかざらだったよ。ホント自由だな!


 「君の都合が許す限りで構わない。最低でも大きな町に着くまでは道行きを共にしてくれればとは思うが」


  せめてレアルード達が連携とかその辺をある程度こなせるようになるまでは離脱して欲しくないなぁ、と思っての言葉だったんだけど。
  タキはそれを聞いて――すっごく意地悪そうな笑みを浮かべた。


 「確約はできねぇな。――アンタが見返りくれるってんなら話は別だけど?」

 「見返り、とは?」

 「アンタの『隠し事』の内容――とか」

 「何の事だか」


  予想内の要求に、しらを切る。『シーファ』は顔に表情が出にくい(っていうかデフォルトが無表情)タイプでよかった。何言ってもやってもフラットで真意が読めない感じだし。そこは中身が『私』でも変わりないはず。


 「まあ、ンな簡単に教えてもらえるとは思ってないけどな。――それに、」


  意味ありげに言葉を切ったタキは、獲物を狙う捕食者の目で、シーファを射抜く。


 「――自分の手で暴く方が、楽しみがあるってもんだよな?」


  ……うわあ歪んでる。いや歪んではないか。ある意味自分の欲求に素直なだけで。
  とりあえずサドっ気溢れる(こういうのサドでいいのかな)発言はスルーして、本題に戻る。
  『シーファ』、スルースキル高かったみたいだけど、天然なのか何かで鍛えられたのか。なんか達観と言うか浮世離れしてると言うか、そんな性格だったみたいだし、どっちもってところなのかな。


 「先程君は剣士だと自称していたが――」

 「それが?」

 「本当にそれだけか?」

 「そりゃどういう意味だ? 嘘を言ったつもりはないぜ?」


  うん、私だって嘘だと思ったわけじゃない。『シーファ』の記憶を見る限り、確かにタキは剣士だ。『ただの』剣士じゃないだけで。


 「全ての手札を明かせとは言わない。それはこちらが手の内を晒していない以上、理不尽な要求にしかならないからだ。だが、ある程度はこちらを信用してもらわなければ、道中に支障が出ることもある」

 「――随分、明け透けに言うな?」

 「それが私の誠意だ」


  暗に「隠し事ありますよ」って言ったも同然だけど、まあこれくらいは仕方ない。『シーファ』も似たような問答(?)してたし。
  何かを見極めるようにシーファの目をじっと見てたタキは、暫くして軽い溜息を吐いた。


 「――しゃーねぇな。こっちも多少は『誠意』見せろってことか」

 「強要はしない。出会ったばかりの人間に信を置けなどと無理難題を言っていることは分かっている」


  タキがこっちに興味を持ってることを逆手にとって言ったわけだから、興味より面倒さが勝れば離れていくことも視野に入れているし、何より――『記憶』というアドバンテージがあっての台詞なのもある。

  ……なんか騙してるみたいで気分悪いなぁ。分かってて言ってる、っていうのが。


 「……それさ、分かっててやってんのか?」


  一瞬、心を読まれたのかと思った。だけど、何だかニュアンスが違う。どういう意味だろう。


 「それ、とは?」

 「分かんないならいい。――で、さっきの続きだけど」


  なんか謎を放置されたけど、どうやら話してくれるらしい。どこまでかは分からないけど。
  仕方ない、といった表情で、タキは続ける。


 「オレは剣士だ。それは間違いない。ちょっと変わってる自覚はあるけどな。……アンタもさっき見た『無効化』と――」


  言いながら、タキは腰の剣に手をやる。同時に早口で何かを呟きながら空いた左手が宙をなぞる。


 「『双剣使い』っつー、そこそこ珍しい特徴持ちだ」


  気付けばタキの左手には、腰に提げていた――今は右手に握られている剣と色違いの剣があった。

  そしてその双剣は、交差してシーファの首元にあてられている。

  いつの間に、と内心驚くものの、顔には出ない。これもしかして頸動脈に当たってる? とも思うけどやっぱり表情は変わらない。
  それは『シーファ』の鉄壁ともいえる無表情があるからでもあるけど、一番の理由は――。


 「もうちょっと、取り乱したりするかと思ったんだけどなー」


  笑いながら剣を引くタキから、殺気が感じられなかったこと、だろう。
  殺気なんて『私』はわからないけど、『シーファ』の経験と記憶が状況を認識するより先に『無害』だと教えてくれた。
  それでもやっぱり驚いたり怖いと思ったりはしたはずだけど(曖昧になるのは自覚する前に剣が引かれたからだろう)、そこは『シーファ』の無表情に助けられた感じだ。


 「……殺気が無かったからな」

 「美人サン、結構戦い慣れしてる? アンタらどっちかっていうと初心者っぽいと思ってたんだけど」

 「初心者ではあるが、経験は皆無ではないというだけだ」


  これ、嘘じゃないけど嘘になるのかな? この『シーファ』は旅に出たことも修羅場を潜り抜けたこともないけど、何度も繰り返した旅の『記憶』があるから、殺気とかに敏感なんだよね。
  ……うーん、微妙なライン? ただでさえ先に得てる情報量が違うから、できるだけタキに嘘つきたくはないんだけど。難しい。


 「成程~…って、そういや美人サン、名前は?」


  …………。あ。


 「――すまない。礼を欠いた。シーファ・イザンという」

 「まあ良いって。シーファ・イザン……シーファな。了解」


  すっかり名乗るの忘れてた……いやあの状況で呑気に自己紹介は無理だったけど。
  っていうかタキが名乗った時ピアいなかったし、改めて自己紹介してもらうべき? とりあえずレアルードがピアに伝えてくれてるといいんだけど。


  気を取り直して。


 「そういえば、君は何も聞かずに仲間に入れないかと言ってきたが、一応話しておくべきだろうことがある」

 「何?」

 「普通、まずこれを訊くものではないかと思うが――私達の旅の目的についてだ」


  言えば、タキは「ああそういや忘れてた」とか呑気に言った。いやいや、普通忘れないから。


 「私達の旅の目的は、ひとつ。『魔王』を倒すことだ」

 「魔王――ってあの?」

 「君が何を指して『あの』と言ったかは私には分からないが、恐らくは君が思い浮かべているもので間違いないだろう」

 「そりゃまた壮大な目的だな」


  壮大……言われてみれば確かに。
  ――っていうか、そういえば、そもそもどうしてこのメンバーで魔王を倒しに行くことになったんだっけ? 『シーファ』の記憶の中でこの流れが当然だったから特に疑問も持たずに一緒に旅に出ちゃったけど。

  ええっと、あと少しで思い出せそうなんだけど何だったかな。

  高速で『記憶』を辿る。『私』の全く関わらない、旅に出る前の『シーファ』の記憶を。

  レアルードに旅に必要な荷を教える――違う。
  旅立つ仲間にピアが加わることをレアルードから聞く――違う。
  一緒に旅に出ないかとレアルードに誘われる――違う。
  人々の期待にプレッシャーを感じたレアルードを宥める――近い。
  魔王の出現、伝承、運命――これだ。


  辿り着いた記憶を更に詳しく思い出そうとしたところで――慌ただしげな足音と、乱暴に開かれた戸の音に、回想が断ち切られた。
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