異世界チェンジリング

空月

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終わりのためのはじまり

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  なんとか話纏まってよかったなぁ、でもなんか忘れてるような、とか思ってた、ら。


 「やっと見つけたっ」


  ちょっと非難がましい響きを含みながらも可愛さが溢れるような声と、視界を過ぎったふわふわとした栗色の髪。
  私を押しのける勢いでレアルードに抱きついた……飛びついた? 彼女を見て、忘れてた何かを思い出した。っていうかタキが仲間に入れないかとか言い出す前はそれについて話してたんだった。

  そうだよレアルードがピアを放置してこっちに来てたんだ……!


 「レアルード、いつの間にかいなくなっちゃってるんだもん。びっくりして探し回っちゃった」


  ピアは座るシーファとレアルードの間に割り込むような形になってるので表情は見えないけど、どういう顔してるのか想像できる声音と台詞だ。
  とりあえず危ない目とかには遭わなかったみたいで良かった。シーファのせいで(って言ってもいいよねこの場合。不本意だけど)そんなことになったらものすごく寝覚めが悪いし。

  明らかにピアはレアルードしか見ていない、つまり二人の世界作ってるも同然なので、ひとまずそっちは意識から切り離す。デバガメの趣味はない。
  正面のタキに視線を向ければ、何故か探るような目でじっと見られてた。凝視。穴が開くレベルで。


  ……あああそうだったそもそもタキって『シーファ』が隠してることを暴きたがってたんだっけ?!

  多分これからはさっきみたいに実力行使に出ることはないと思うし、レアルードを防波堤代わりにすればどうにかこうにかそれなりに誤魔化せるらしいっていうのは『シーファ』の記憶からも分かるんだけど。
  でもそうしちゃうと、現段階でもよろしくないピアとの関係が更にこじれそうだなぁ……これまでの『シーファ』はその辺どうやって回避してたんだろう。なんかピア関連ってあんまり思い出せないんだよね。謎。


  存在を忘れかけてた飲み物(なんか果実っぽい味)を飲みつつタキの視線を受け止める。

  こう見るとタキって微妙に浮いた色彩してるなー。いやこの『世界』はそれはもう色とりどり、色彩豊かすぎるくらい髪の色も目の色もカラフルな人がたくさんいるみたいなんだけど。ピンクとか緑とか、地毛とは思えない――少なくとも『私』の居た世界で自然に出ないような色の人が。
  だけどその中でも、赤髪に金瞳っていうのは珍しいらしくて、『シーファ』の記憶の中でもその組み合わせの人はタキしかいない。……なんか理由があった気がするんだけど、何だったかな。

  そんなことを考えていたからだろうか。
  傍から見たら見つめ合ってるみたいな形になってたことに気付いたのは、タキとレアルードが顔を合わせてからの短い時間でお馴染みになった、不満を訴えるような自己主張の激しい視線を受けてからだった。

  ……この世界の人って目が口以上に物を言いすぎだと思います。


 「……レアルード、話は終わったのか?」


  無視する意味も理由もないので、こっちから声をかけてみる。レアルードは頷いた。
  その横からこれまた強烈な視線を向けてくるピアは見なかったことにしておく。……たかだか一言口にしただけなのに理不尽だ。
  意識して聞いてなかったからどういう会話が為されたのかは分からないけど、まあいいか。多分シーファには関係ない……よね?


 「それならば、一度部屋に――」


  言いかけて、そういえば、と気付く。我関せずな感じで頬杖をついてこっちを見ていたタキを振り返った。


 「君を仲間に加えるということはひとまず決定したことになるが、聞きたいことが幾つかある。今はどこの宿に?」

 「身上調査かなんか? 別にいいけど。――宿はとってない。飯食いにここ来たところでアンタ見つけたから」

 「そうか。私達はここに部屋をとっているから、話はそちらでするとしよう。それでいいだろうか」

 「オレは別に構わないぜ? この町で宿とるならここにしようと思ってたしな」


  ……ん? 今の言い方だと、積極的に宿とるつもりはなかったみたいな感じだけど、タキにとってこの町って長居するつもりなかった場所なのかな。
  そういえば『シーファ』の記憶だとタキって盗賊の根城に先に着いてたみたいだし、それっぽい。


 「では、部屋に行くとしよう。……これからについても少し話したいが、先に彼と話すことになる。レアルードとピアはもう少しこちらに居ても構わないが」


  レアルードはタキのことあんまり好きじゃないみたいだし、ピアにとっては見知らぬ人レベルだろうから(そういえばレアルード一応その辺話してくれたのかな。仲間云々のときにピアが驚いた顔はしてなかったから大丈夫だろうけど)、気を遣ったつもりの言葉だったんだけど。


 「いや、俺も戻る」


  予想外に強い口調で言われて、びっくりした。
  ……いや別に、そんなじーっと見てこなくても反対するつもりも却下するつもりもないんですが。あとピアが明らかに不満そうな顔してるけどいいのかレアルード。


 「私に否やはないが――ピアはいいのか」

 「ピア?」


  ……なんでそんな如何にも予想外のこと言われましたみたいな顔してるのかなレアルード。もうちょっと空気読んで!

  あからさまにむくれているピアを振り仰いだレアルードは、首を傾げて言った。


 「買い物に行きたいんだったら行ってくればいいだろう」


  えええ!? そこでどうしてそんな台詞が出て来ちゃうの? ピアの態度のどこをどう読んだらそうなるの!? っていうか1人で行かせる気満々だよこの人!


 「……1人で買い物に行ってもつまらないでしょ」


  わあすごい、位置的に見下ろす形になるのに上目使い(雰囲気的に)とかピア、テクニシャンだ。だけど相手がレアルードじゃねぇ……。


 「……?]



 怪訝そうに首を捻るレアルード。通じてない、通じてないよ色々と……!

  なんかもう鈍いとかそういうレベルなのこれ、なレアルードに頭痛がしてきたので、放置して先に部屋に戻ることにする。良心的な何かがうずいたけど気にしない。だって付き合ってられないってこんなの。
  まぁ意思疎通頑張ってください。それなりに近い部屋から応援してます。多分。

  レアルードとピアに声を掛けてから、タキと共に部屋に向かう。
  ――…ってちょっと待ってレアルード、会話ぶち切ってついてくるのは勘弁してください。これ以上ピアとの関係悪化させたくないんで! 後生だから止めて……!!
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