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11話

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(シンデレラがあの誘い文句につられたということは、あの子、私と結婚したいということ……? え? 魔女って性別が変えられるの? いえ確かに魔女の出てくる物語ではそういうこともあったような気がするけれど、一時的でなく? 性別が変わったシンデレラを私はシンデレラとして見られるかしら……でも家族だとしか思えないから結婚なんて想像もつかないのだけど……そう言ったら傷つけるかしら……)


 ぐるぐると思考が回る。

 その間に一度舞踏会の会場へ戻ることが決定していたのも、今度は空を飛ぶのでなく一瞬で移動する魔法だったのも、いつの間にかレヴィの服の切り裂かれた部分が治っていたのも、認識はしていたが驚く間もないくらいに、思考に支配されていた。

 サーシャがやっと我を取り戻したのは、舞踏会の会場に再び入った瞬間だった。
 一斉に視線を向けられれば、さすがに考えごとに没頭してもいられない。


「れ、レヴィさま」

「あれ、元に戻った? 何言っても生返事しか返ってこないから心配したよ」

「それは申し訳ありませんでした。……それで私たち、なんでこんなに見られているんでしょう」

「それは僕にも。たぶん王子に聞くのが早いよ」

「それはちょっと私にはハードルが高いです……」


 などとやりとりをしていると、どことなく遠巻きにされている中から、誰かが優雅に飛び出してきた。デジャヴだ。


「サーシャ!」

「メイディ姉さま!」


 それはメイディだった。きっと何かいい成果が出せたのだろう。頬がつやつやしている。


「戻ってきたのね、サーシャ。さっきから舞踏会は、めったに人前に出てこない魔術師さまが、あなたを連れ去ったことでもちきりよ」

「連れ去った……そう見えるかもしれませんがそれはそうでなくて」

「こういう場では事実はどうでもいいのよ、面白そうなら。あなた、魔術師さまに一目ぼれされたことになってるわよ」

「え!?」


 思わずはしたなく大声を出してしまった。レヴィを見るが、特に気にしていなさそうな顔で、「まあ、そういうことにもなるだろうね」と言っている。そんなに落ち着かれると、驚いているサーシャが間違っているような気がしてくる。


「ど、どうしてそんな誤解が……」

「だから、そうだったら面白いからよ。まあ、実際魔術師さまが表に出てきて、あなたと踊って、そのあと二人で消えたとなったらそういう憶測も飛ぶでしょ」


 改めて言われると、確かにそうだった。もし自分が渦中の人物でなければそういうふうな話が出たらそうなのだろう、と思うくらいには、状況証拠が揃っていた。


「す、すみません、レヴィさま。ご迷惑をおかけして……」

「いや、僕は別に迷惑に思ってないからいいんだけど。しかしそうなると、どうしようかな……」


 言って、レヴィは意味深にサーシャを見遣る。視線を受け止めて、一、二、三……何秒か何十秒か、そのままの状態で時が過ぎた。


「れ、レヴィさま? どうなさったのですか?」

「うん。決めた。ちょっと来て」


 サーシャの問いには答えず、レヴィはサーシャの手を取って歩き出す。サーシャはわけがわからないまま、とりあえずメイディに別れを告げた。


「ちょ、ちょっと行ってきます、メイディ姉さま」

「行ってらっしゃい、サーシャ。後で詳しく聞かせて頂戴ね」


 そうしてレヴィに連れられるままやってきたのは――またも王子の前だった。


「レヴィ、戻ってきてたのか」

「うん。君、僕のこと話しちゃったんだね」

「あの状況でごまかしようがなかったんだ。魔法の話もしていたし」


 確かに移動の方法の話で魔法でしかない話をしていた。あれを聞いていたら、レヴィが魔術師なのはすぐにわかるだろう。


「うん。だから、サーシャと婚約しようと思う」


 驚きなんてものじゃなかった。完全に思考が止まった。

 声も出せず、サーシャはただレヴィを仰ぎ見た。


「? ???」

「混乱してる? ごめんね。でもこうするのが一番いいんじゃないかと思うんだ」

「なっ……な、なにがだ!」


 言ったのは、サーシャではなく王子だった。彼もサーシャに負けず劣らず混乱しているようだった。


「何が『こうするのが一番いい』だ?! 彼女も驚いているだろうが! つまりお前、事前に何も言ってないだろう!」


 王子の言葉に、レヴィは、「あ、そうか。そうだね」とサーシャに向き直った。サーシャは嫌な予感がした。


「サーシャ・フィニエスタ殿。どうか僕と婚約していただけませんか?」


 跪き、手を取って、華のような笑みを浮かべて。

 言われた瞬間、サーシャは卒倒した。完全なる許容量越えだった。


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