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12話
しおりを挟む宣言した通り、リクはシアがいやだと言おうが抵抗の素振りを見せようが、行為をやめることはなかった。ひたすらシアを気持ちよくし、滞りなく〈姫〉と〈騎士〉の役割――生殖行為を遂行した。
「――つまりですね、事に及ぶ際には〈姫〉の方がやっぱり抵抗感がある場合が多くて、覚悟を決めたとは言っても、いざその段になると反射的に抵抗することがままあって――それで意図せず〈騎士〉を傷つけたりもして、後から後悔する〈姫〉もいたわけで。そういう不幸な出来事を無くすために、〈姫〉には、特に最初は、枷を付けた方がいいってなったわけです」
行為を終えて疲れ切ったシアの体を丁寧に清め、手枷を外しながら、リクはそんな説明をした。
「そう……なの……」
シアはそうとしか言えない。というか何かを考えられる状態ではなかった。
初めての行為と、それが一度で終わらなかったことへの衝撃と疲労とでいっぱいいっぱいだった。
「……まあ、そのあたりの話はまた追々しましょうか。お嬢はそれどころじゃなさそうですもんね」
「なんでリクは、そんないつも通りなの……」
「男女の差じゃないですか? むしろ調子がよくなったまでありますから」
(そういうものなのかしら……。まあ、基礎体力からして違うわけだし……)
行為の最中、体力の違いはもうひしひしと感じた。一回目はともかく、二回目以降は気持ちよさと疲れで何度意識を飛ばしそうになったことか。というか飛ばしていたが、その間も行為が継続していたので気をやっては意識を取り戻して、を繰り返した。
なので今もともすれば意識を失いそうだ。疲れからくる眠気が体を包んでいる。
「お嬢、眠いならそのまま寝ちゃっていいですよ。部屋に運びますんで」
「……続き始めたりしない?」
「信用がないですね。しませんよ。部屋の影響にも慣れてきましたし、暴走なんかしませんって」
「それなら……お願いしようかしら……」
どっちにしろ自力で動けない有様なのだ。運んでもらうしかないのでそこは甘えることにする。
ふぁ、と欠伸が漏れる。それにリクが微笑むのを見ながら、思う。
(なんだかリクの表情がいつもより柔らかい気がするわ……これも行為の影響なのかしら……)
行為の後、態度が変わる人間もいるという。リクもそのタイプなのだろうか。
(だめ……眠い……)
意識がとろとろと落ちていく。リクが服を着せてくれるのを知覚しながら、シアは眠りに落ちていった。
そして翌日。
すっかり疲れの取れたシアは、食事の準備――シアの食べる果物を切り分ける作業をしているリクを、眉根を寄せてじっと見つめていた。
「……何かもの言いたげですね、お嬢。昨日のことだったら謝りませんよ。〈姫〉と〈騎士〉はああいうことをするのが役割なんですから」
「謝らせたいわけじゃないわ。純粋に疑問なのだけど……あのとき、やっぱり、その、二回目以降って、必要なかったわよね?」
問うと、リクは目を瞬いた。
「というと?」
「だって、一回目で……その、行為としては完了していたじゃない」
子を孕むための生殖行為ならば、中に出された時点で完了していたはずだ。二回目を行う理由は……一応リクが口にしていたが、本当のところ、必要はなかったように思う。
「少しでも確率を上げるためですよ――っていうのは建前ですね。ぶっちゃけるとあれは俺がしたかったからです」
「……ぶっちゃけすぎじゃない……?」
「あの部屋の効果は俺にも効いてたので、ちょっと止まらなかったんですよね。それでお嬢に負担を強いたのは、まあ申し訳ないと思ってます」
「だからあんなに甲斐甲斐しかったの?」
「いや、あれはそういう行為をするなら当然じゃないですか? 男より断然負担があるんですし」
当たり前のようにリクは言うが、それが当たり前でないのは本で得た知識で知っている。
リクって実は尽くすタイプだったのかしら、と思って、実はも何もないと気づいた。〈騎士〉なんてやってシアの面倒をみていた時点でどちらかというと尽くすタイプに分類されるだろう。今も甲斐甲斐しく果物を剥いて切り分けてくれているわけだし。
(……というか、私、実はけっこう甘やかされるのに慣れ切ってない……?)
普通に考えて、食事の用意をされるのが当然となっているのは問題な気がする。幼い頃からの流れで疑問に思っていなかったが――そして〈姫〉という立場のせいで慣れてしまっていたが――ここには〈姫〉と〈騎士〉以外いないのだ。自分で自分のことをもっとやっても誰にも責められはしない。
「リク、話は変わるけど……食事のことなんだけど」
「はい? 別のが食べたくなりました? 一応他にも用意はしてますけど」
「そうじゃなくて……。エデルファーレに来たのだし、食事くらい自分で準備するわ。リクも、自分では食べないのに準備するって、なんか変でしょう」
リクは一瞬動きを止めた。それは本当に一瞬で、すぐに果物の切り分けを再開する。
そうしながら淡々と言葉を紡ぐ。
「お嬢が? 自分で?」
「……な、何よ。果物を剥くくらい、私だってできるわ」
「それは教え込んだから知ってますけど。……俺は結構、お嬢の面倒を見るの楽しんでるんですよね。それを奪われそうなので複雑な気持ちというか」
「そうだったの……?」
リクは基本的に無表情だしあまりやる気に溢れている感じでもないので、少し意外だった。
先程考えたように、リクは尽くすタイプで間違いないのかもしれない。
果物を切り分け終えて、リクがシアの前にそれらを置く。瑞々しくおいしそうだ。シアは礼を言って果物を口に運んだ。
昨日のものとはまた違う、見たことのない果実だった。これも過去の【緑】の〈姫〉と〈騎士〉が開発したのだろうか。
「今日のは、【赤】の〈姫〉と〈騎士〉が住んでたあたりでよく取れるらしい果物です。話のタネになるかと思って」
心を読んだようなタイミングでリクが今日の果物紹介をしてくれる。しかも気遣いのおまけつきだ。
(そんなところまでよく気が回るわね……)
やっぱりリクは見た目とは違って世話焼きなのかもしれない、とシアは考えを改めたのだった。
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