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11話
しおりを挟むその部屋は扉の意匠からして他と雰囲気が違ったが、内装もそうだった。
薄暗く、それでいて目が慣れれば過不足なく周りを視認できる絶妙な光源、部屋の中には大きなベッドと棚が一つだけあり、ベッドには天蓋がついているがどこかなまめかしさを感じる意匠だった。
部屋に入った瞬間、夕闇のような暗さのせいだろうか、思考に薄ぼんやりした霞がかかったような感覚がした。
結局ここまでシアを抱き上げたまま来たリクは、中央のベッドにそっとシアを下ろした。そしてシアの靴を丁寧に脱がす。
「そんなの、自分でやるのに……」
「雰囲気づくりの一環ですよ。お嬢はお姫様なんですから」
普段、リクはここまでシアの面倒を見ない。自分でできることは自分でさせてくれていた。だからこそむずがゆく――なんだか変な気分になる。
シアの靴を脱がし終えたリクは、そのままベッドの頭の方から何かを引っ張ってきた。
なんだろうとぼんやり見ていたシアは、それを目にした瞬間、思考が止まった。
(鎖……と枷……よね?)
じゃらじゃらと音を立てているので間違いない。そこから繋がっているものも形状的に枷としか言いようのないものだった。
「目ェまんまるになってますよ、お嬢。……これは〈騎士〉の方に伝わってるんですけどね、〈姫〉と初めて致すなら、手枷を付けた方がいいって」
「……口伝みたいなもの?」
「頭にぶち込まれた知識の一つですね。まぁ、歴代がそういう結論に至ったってわけなので、口伝でも間違っちゃいませんが」
「それ……私に、つけるの?」
どう考えてもそうとしか結論が出せないのに、シアは訊いてしまった。現実味がなかったともいう。
「お嬢がどうしてもいやなら無しにしますけど、先人の知恵には従っておいた方がいいかと思うので、できれば拒否しないでもらえると助かります」
そう言われて拒否できるだろうか。シアはできなかった――『先人の知恵』という部分に自身を魅了する本とのつながりを感じたというのもあった。過去の〈姫〉と〈騎士〉が出した結論ならばと思ったのもあった。
だから、少し迷った後に、それでも「わかったわ」と頷いて、両手を差し出した。
鎖はベッドの足に繋がっているようだった。両側から繋がれた鎖の先の枷が、シアの両手にかけられる。シアは自然と手をあげた状態で仰向けになった。
(どうしてこれが『先人の知恵』なのかしら……)
リクに問うたら詳しく教えてくれるかもしれない。そう考えて口を開こうとしたシアは、けれど問いを口にすることはできなかった。
「……えっ!?」
リクがシアの着ている服を丁寧に脱がし始めたからだ。
「り、リク?」
「何ですか、お嬢」
こんなときでもリクの常の無表情は変わらない。淡々と、手際よく、ボタンをはずし、リボンをほどき、服を解体していく。
「『なんで?』って顔してますが、今からすることを考えたら、服は脱ぐものでしょう?」
「それは、そうだけど……」
自分で脱げるのに、と考えて、手枷がはめられた状態では無理だと思い至る。でもその前に言ってくれたら――。
(服を脱いだ状態で? この格好を? するの? ――私が?)
考えただけでかっと顔が赤くなる。そのシアの変化にリクは少し首を傾げて、それでも手はよどみなく動いていて、シアの体を締め付けている物を次々と外していく。
体に沿ったラインがふわりとした生地自体のラインへと変化し、布地だけは残っているものの、服を着ているという感覚ではなくなった。
そこまでやって、ようやくリクは自分も靴を脱いでベッドに上がってきた。
寝転がった状態のシアからは、膝立ちのリクが、とても大きく見える。
そしてシアを見下ろす目――そこにいつもと違う色を見つけて、シアは動揺する。
「お嬢……怖いですか?」
的確にシアの感情の変化を読み取って、リクはそう問うてきた。
(こわい……こわい、のかしら、この感覚は……)
恐ろしいものを怖いと思うような、そういう感覚ではない。
未知の、得体のしれない領域に踏み出そうとしている、そういう恐れと、ある種の高揚感。
それから――何かを期待するかのように体が疼く感覚。
「こわい……けど、こわくないわ」
「何ですかそれ。……いや、それもこの部屋の作用なのかもしれませんね」
言って、リクはシアの髪を引き寄せ、そこに唇を落とした。
「これから俺は、お嬢がこわいと思うことも、いやだと思うこともするかもしれません。だけど、それはお嬢が〈姫〉として責務を果たすには必要なことです。耐えてください。……できるだけ自分を空っぽにして、部屋の作用に身を委ねた方が楽だと思いますが――お嬢はたぶん、そういうのできるタイプじゃないと思うので」
「……部屋の作用?」
「『そういう』行為をしやすくするための部屋なんですよ、ここは。歴代の苦労の結晶ですから、誰であっても『そういう』気にさせるようにできてます。お嬢も体に変調がないですか?」
不可思議な体の疼き、何かを期待するような心の動き――これのことだろうか。
頷きはしなかったが、何か思い当たることがあるのは察せられたのだろう、リクは「心当たりがあるなら、ちゃんと作用はしてるみたいですね」と言った。
「さすがにお嬢がどの程度知識があるかまではわからないので――逐一説明はしませんが。いいですね?」
「う、うん」
リクはシアに覆いかぶさるようにして、額に口づけを落とす。そちらに気を取られていたシアは、リクの手が胸元に入り込む感覚にびくりと体を震わせた。リクが苦笑する。
やわやわと胸を揉まれる。自分で触れたのでは起こらない甘い感覚がシアを翻弄する。
「……ッん……」
「声とか、我慢せずに出しちゃった方が楽ですよ。……まあお嬢はそういうふうにできるタイプじゃないでしょうけど」
あやすような、なだめるような顔への口づけとは裏腹に、胸を弄る手はどんどんと動きを変えていった。胸を揉みしだき、頂をつまみ、捏ね、潰し――その度にシアは反応する体を抑える努力をしなければならなかった。
(これ……思ってたより……恥ずかしい……)
自分のものでないような鼻にかかった甘い声も、リクの指先一つで反応する体も、知られるのが恥ずかしい。
懸命に声を殺し、体の反応を殺すシアをどう思ったのか、リクはふと胸から手を離した。
顔に降る口づけも止み、シアはどうしたのかと目を開ける。
リクはいつもの無表情で、だけどどこか困ったような風情で、シアを見ていた。
「リク……?」
「お嬢、『恥ずかしい』って思ってるでしょう」
いきなり図星を言い当てられて、シアは言葉に詰まる。
「これからもっと恥ずかしいことをしなくちゃならないのに、これくらいで真っ赤になって耐えて。……部屋の作用、もっと強い方がよかったですかねぇ」
もっと恥ずかしいこと――それが指し示すことが何かわからないほど子どもじゃない。けれど、心は全くついてきていなかった。今のだけでもういっぱいいっぱいだった。
それがわかっているだろうに、リクは手を止める気はないようだった。……否、その選択肢は、この部屋に入る前に無くなったのだろう。
リクはおもむろにシアの膝を割った。突然のことに足をばたつかせようとするけれど、リクの足と手にいとも容易く抑えられてしまう。そしてリクは、右手でシアの秘部に――布越しに触れた。
「あアッ……!」
瞬間、たとえようのない快楽がシアを襲った。思わず漏れた声にリクは一つ頷くと、するりと下着の横から指を滑り入れた。
「リク、やだっ……そんなところ……!」
咄嗟に止めようと手を伸ばすが、鎖に阻まれて届かない。
口にした言葉に、リクは少しだけ意地悪そうに微笑んだ。
「やだ、も、だめ、もここでは聞きません。お嬢を気持ちよくさせるのが優先なので」
胸への刺激だけで潤っていたそこに、リクはつぷりと指を挿し入れた。びくんと反応したシアに合わせて、頭上の鎖がじゃらりと鳴る。
指がぐるりとシアのナカをかき混ぜるように動く。
「……ッ、……ンんッ」
他の指が、陰核に触れる。新たな刺激に、シアは声を我慢できなかった。
「……ッあン……っ!」
「そうそう。気持ちいい時は声に出してくださいね。じゃないと気持ちいいのかわからなくて加減ができなくなるので」
ぐるりぐるりとナカを掻きまわす指がある一点を引っ掻いたとき、シアの体は大きく反応した。
「ああっ……!」
じゃらじゃらと鎖が鳴り、それが自分の声の代わりにイイところを伝えようとしているようで、シアは恥ずかしさに消えてしまいたくなった。
「お嬢はここがイイんですか?」
試すように同じところを引っ掻くようにされる。シアはびくんと反応し、言葉にせずとも答えを教えてしまう。
(……これ、これが、〈姫〉の責務に必要な……ことだとしても……)
必要なのは生殖行為のはずだ。生殖行為がどうやって為されるかはさすがに知っている。そして今自分が施されているこれが愛撫というものであることも。
(恥ずかしい……快感に乱れるのを見られるのって、恥ずかしい……)
リクはシアのナカに二本目の指を入れ、ナカでばらばらに掻きまわした。先程とはまた違う刺激に、体は正直に反応する。
「っ……ぅん……は、あ……ッ」
「お嬢はどうしても声を殺しちゃうみたいですね。性格的なものかな……」
そう独り言ちるように口にしながら、リクは指での責めをやめるどころか激しくしていく。もう暴れないと思われたのか、足から離された手が胸に伸び、やわやわと揉みしだく。
上と下と、異なる刺激に翻弄されて、シアにできたのは声をできる限り殺すことだけだった。
「……ンんっ、ふ、う……ああっ!」
また敏感なところを引っ掛かれて声を漏らしてしまう。
リクはそこを重点的に攻めることにしたようだった。何度も何度もそこを刺激されて、快感が高まっていく。
「あっ……や、なんか、やだ、こわい、ああっ……リク、リクぅ!」
「こわくないですよ、ほら、俺はここにいますから」
「やだ、やだ、あ、アっ、何かくる……っ」
「それが『イク』ってやつですよ、たぶんね」
「――あ、あアッ……イッちゃう、イッちゃう……!」
もう自分が何を言っているのか、シアにはわからなかった。浮かんでくる言葉、耳に入ってきた言葉をうわ言のように口にして。
ひときわ大きな波のようなものがやってきたときに、頭が真っ白になって――気づけばシアは体を弓なりに反らして痙攣していた。
「うん、うまくイケたみたいですね。これで少しはほぐれたかな」
「……り、リク……」
「はい?」
「まだ続くの……?」
「まだ続きますよ。まだまだ前準備なんですから」
シアは目の前が真っ暗になった。けれどすぐ、リクが指を増やして刺激を始めて、それどころではなくなった。
結局リクはシアがもうやだと再三言うまで指での愛撫を続けたのだった。
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