47 / 75
本編2
23話
しおりを挟むたくさんの『魔法使い』を見た。
『善い魔法使い』も『悪い魔法使い』もいた。
最初から『悪い魔法使い』だった者も途中で『悪い魔法使い』になった者もいた。
感じがいい者も悪い者もいた。
『悪い魔法使い』になって、それを謳歌している者も、後悔している者もいた。
『善い魔法使い』でも、善人でない者だっていた。
――あの子を殺したのは『悪い魔法使い』だけれど、その罪はすべての『悪い魔法使い』のものではないと、飲み込んだ。
そんな、自分の、夢を見た。
* * *
見た夢を、目が覚めても覚えていた。
(夢……だが、実際に私が経験したことなんだろうな……)
憎しみを、怒りを、忘れたわけではない。それらが風化したわけでもない。
それでも、すべての『悪い魔法使い』に向けたそれを、飲み込む日が来るのか――来たのか。
……わかって、いるのだ。今だって、わかっている。
自分の憎しみが、怒りが、すべての『悪い魔法使い』に向けるべきでないものだと。
罪は個人に帰するもので、全体に向けるべきではないのだと。
それでも。
漠然と、すべてに憎しみを向けてしまう。だって、憎んでいないと立っていられないから。
(考えても仕方ない、か……)
時を経て変わった自分を、その年月を経ていない、知らない自分が慮っても仕方ない。
――そう、思っていたのだが。
ルカが珍しく、食事も甘味も服も持って来ずに部屋を訪ねてきたときのことだった。
「フィーに会いたいっていう人がいるんだけど……」
「私に?」
「でも、今のフィーに会わせていいのかわからないんだ。……そんなこと言われても、今のフィーにも判断がつかないとは思うんだけど」
「? いったい誰なんだ? 今まで会わせてもらった人ではないということだろうが……」
じゃあ誰なのかと促すと、ルカはこれまた珍しく歯切れ悪く答えた。
「先の件でフィーが潜入捜査してたのは言ったと思うけど……そのときに接触した『悪い魔法使い』の子どもなんだ」
『悪い魔法使い』。
それを聞くだけで体が反応する。この体はまだ、生々しくその加害を覚えている。片割れの喪失はぽっかりと胸に穴を開けている。
普段は蓋をしている記憶が蘇る。それを意思の力で抑え込んで、フィオラは思考を回す。
ラゼリ連合王国に『子どもの姿になる魔法』を使って潜入していたのは聞いていた。結果的に期間がかなり短かったのも、その理由も聞いている。
その一因である、接触した『悪い魔法使い』の子どものことも、無論。
「……アルド、だったか。そちらの方か?」
「そう。……だけど、無理して会わなくてもいい。あちらもシュターメイア王国に来たばかりだし、これからいくらでも機会はあるから」
「向こうは私のじょうたいを知っているのか?」
「いや、会うなら教える――ということになってるから、まだ知らないよ」
「……少し、考えさせてくれ」
すぐに断ってしまってもよかったのに、そう答えたのは、見た夢が影響していたのかもしれないし、あえて今ルカがその話を持ってきた意味があるのではないかと思ったからかもしれなかった。
ともかくも、フィオラは一旦答えを保留した。
ルカはそれに、今のフィオラでは何を思ったか読み取れない表情をした。ほっとしたようにも、困ったようにも見えた。
「本当に無理はしなくていいから」と言い置いて、ルカは帰って行った。
一人になった部屋で、フィオラは再び思考に沈む。
(『悪い魔法使い』が、『会いたい』と言い出すような言動を、私はとっていた……ということなんだろうが)
それは、今の自分では、どういう気持ちで為したことなのかもわからないことだった。フィオラは今、その時の記憶を失っている。彼と関わった事件を経験していない。
わかるのは、未来の自分は、『悪い魔法使い』に変じた『魔法使い』を、会わせても大丈夫だと思われるような人間だったということ。『悪い魔法使い』に変じた子どもから『会いたい』と言われるような行動をしていたということ。
聞いた話では、事件の最中に『悪い魔法使い』になった子どもだというし、『悪い魔法使い』になる前に親しみを感じられるような行動をとっていたということも聞いていた。
(知り合いが『悪い魔法使い』になって、どう感じたんだろうな、私は)
シュターメイア王国に身を寄せて、約一年の記憶の中に、知り合いが『悪い魔法使い』になったというものはない。
もし、今の自分が知り合い程度でも親しく思う『善い魔法使い』がいたとして、その人物が『悪い魔法使い』となったら。
自分はその『魔法使い』も憎むのだろうか。憎めるのだろうか。
(これこそ、答えの出ない問いだな……)
『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』。そこにある違いのことなど、考えたことはなかった。――考えようとしてこなかった。
(……会って、みるべきか)
さすがに『悪い魔法使い』になったばかりで、さして『悪い魔法使い』として行動していない子どもに憎しみから当たり散らすほど、自分が愚かだとは思いたくはなかった。
何か現状に対する打開策が見つかるかもしれない、と思ったのは、直感だったのだろうか。
そしてフィオラは、アルドに会うことにしたのだった。
0
お気に入りに追加
817
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる