【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月

文字の大きさ
上 下
12 / 75
本編1

11話

しおりを挟む


「ところで、私にかんすることのたんとうがおまえになっているというのはどういうことだ」


 問うと、ルカは一瞬「何のことだろう?」というような顔をした。けれどすぐに、「ああ、昨日の」と思い当たったようだった。


「言葉のままの意味だけど。フィーに関することは俺の担当なんだ」

「きしだんにそんなせいどはなかったはずだが」

「制度はないけど、そういうことになってるんだ」


 にこにこにこ。ルカは輝かんばかりの笑顔だ。ゴリ押されている感がすごくする。
 フィオラは少し考えた後、「……きしだんにめいわくはかけるなよ」とだけ言った。いろいろ諦めたともいう。


「すこしはやいが、しょくじにするか。行きたいところがあるのなら、まかせる」

「任せて。フィーと行きたい店はまだまだあるからね」

「それもどうかと思うが」


(連れが欲しいなら誰か別の者と行けばいいだろうに)


 そう考えるフィオラの頭の中には、『誰と食事を共にするか』を重要視する観点が抜けているのだが、それを指摘してくれる人はいなかった。



 ルカが案内してくれたのは、昔からやっているらしい大衆食堂の店だった。
 素朴な感じだが賑わっている。常連が多いのだろうな、という雰囲気だ。
 子ども連れもよく来るのか、子ども用の椅子と食器も出てきたので、フィオラは安心した。


(これならルカもおかしなことを言いださないだろう)


 予想どおり、ルカが何やら変な理屈をこねることもなく、元の姿の時のような、ただ対面で食事するだけで終わったのだが。


「本当にデザートはよかったのか?」

「しつこい。この体ではひとりでたべきれないんだ」

「だから俺が残りは食べるよって言ってるのに……」


 フィオラの甘味好きを知っているルカが、しきりにデザートはいいのかと訊いてくるので、フィオラはちょっと不思議に思った。
 何も毎食後デザートがないと物足りないというほどの甘味好きではないので――確かにルカと食事に出るときは、自分では入らない店のデザートが気になって頼んではいたし、今も気になってはいるが――食べきれないから頼まないというのは普通の選択肢だと思うのだが。


(逆に、ルカが食べたいだけという可能性もあるか?)


 フィオラほどではないが、ルカもわりと甘味を好むようだった。フィオラがデザートを頼むときはいつも一緒に頼んでいたし、男性にしてはかなり好きな方ではないだろうか。……ちなみにフィオラが自分を気にせず食べられるように、といった理由もあって頼んでいたのを、フィオラは知らない。


(男性の側だけがデザートを頼むのに抵抗がある者もいると聞く。……が、ルカはそういう手合いには見えないな)


 やはり単純にフィオラを気遣っているのだろうか。だからといって食べかけを食べさせるのに抵抗がないわけではないので、昨日のような不測の事態以外では回避を選択するのは妥当だろう。

 と、考えていたら、「俺が頼んで俺から一口、とかなら食べる?」とか言って頼もうとしだしたので、「じぶんひとりで食べないならたのむな」と止めた。
 そこで止まるあたり、やっぱり自分が食べたいのではなく、フィオラに食べさせたいというのが先にある気がする。そこまで世話される覚えはないのだが。


 そんな問答を経つつ、なんとか何事もなく退店し、帰路に着く。
 結局休みのギリギリまで付き合わせてしまったことに謝ると、「俺がやりたくてやってるんだから、フィーは気にしなくていい。むしろ頼ってもらえてる感じで嬉しいしね」などと言った。人がよすぎないだろうか。

 部屋まで送り届けられ、食料を仕舞うのまで手伝われ、最後には「食事時にでも様子を見に来るよ」だ。何がルカをそこまでさせるというのか。


(この姿……幼子だからか?)


 もし知人が、突然小さな子どもの姿になったら自分はどうするか、と考えてみる。


(確かに世話を焼いてしまうかもしれない……こういうのは庇護欲というのだったか?)


 幼子は、幼子だというだけで、なんとなく手助けしてやりたくなるものだともいう。ルカの態度も仕方ない……といえば仕方ないのかもしれない。元々『一番の友人』を自称しているくらいなわけだし。


(ルカはどんな子どもだったんだろうな……)


 ルカがシュターメイア王国に来たのは、この辺りではもう成人とされる歳を過ぎてからだった。
 シュターメイア王国の成人年齢は他国に比べて遅いと聞くから、おそらく既に成人として扱われて幾らかは経っていたのだろう。その姿しか知らないので、幼いルカというのが想像がつかない。


(あの顔が、幼くなったとして。かわいいというよりは、きれいな子どもだったろう。少し、見てみたかった気もする)


 ガレッディ副団長が言っていたように、子どもの姿になれるというのは潜入捜査にも有用だ。元の姿に戻ったら、この事象を起こせる魔法について研究するのもいいかもしれない、などと思いながら、フィオラは疲れに身を任せて眠りに落ちた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...