15 / 21
15.つまりは対話が足りなかっただけの話ですので。
しおりを挟む羽黒の戦いに敗北した羽柴軍は小牧山城攻撃を諦め、今度は徳川軍の陣地を迂回し本拠地である岡崎城を攻めるべく三河中入りを開始。
羽柴軍の三河中入りを知った我ら徳川軍は、榊原康政・大須賀康高率いる五千の兵を急ぎ出陣させる。そして、徳川家康公率いる一万の本隊も間髪入れずに出陣。三河中入りの途上、徳川方の岩崎城を攻撃中の羽柴軍に背後から襲いかかるのでありました。
天正十二年四月九日寅の刻 尾張国 白山林
「・・・ありゃ~飯食ってんな」
拙者は前方の林から出ている煙を見て呟く。
「呑気なものだ」
拙者の隣にいる武者がそう答える。立派な髭を生やした大柄な男・大須賀五郎左衛門康高殿である。
五郎左殿は、木の隙間から微かに見える敵の陣旗を判別する。
「あれは、三好秀次の軍勢か」
「三好秀次って言うと、羽柴秀吉の甥の」
「うむ。おそらく、この中入りの総大将であろう」
五郎左殿の言葉に拙者は嬉々とした表情を見せる。そして、拙者が何も言わずに馬に飛び乗ると、五郎左殿は拙者を呼び止める。
「こら、抜け駆けは許さんぞ」
ちっ、ばればれか。
拙者が釘を刺されその場で落胆している間に五郎左殿も自身の馬に飛び乗る。
「よし、そろそろ婿殿も背後に回っておる頃だろう」
そう言うと五郎左殿は配下の兵たちに向けて大声を上げる。
「皆の者、行くぞ!」
「おおう!」
五郎左殿の掛け声と共に徳川の兵たちが林の中を駆け抜けて行く。
「うおおお!」
地鳴りのような叫び声で羽柴軍に向かって行く徳川の兵たち。
それに気づいた羽柴軍は、羽黒の戦い同様慌てふためき出す。
まったく、こやつらは毎度毎度反省が足らんな~。
拙者も他の兵たちに遅れをとるまいと馬を走らせる。すると、目の前に怯えて動けない足軽が。拙者は、そやつを容赦なく槍で突く。
「うぐっ!」
一瞬で絶命する足軽。
怖いのであれば是が非でも逃げんか。
拙者は心の中でそう呟くと足軽から槍を引き抜く。そして、そのまま今度は反対側にいた足軽に槍を突き刺す。
これで二人。
拙者は槍を引き抜き、次の相手を探すべく周囲を見渡す。
そろそろ兜首でも・・・おった!
拙者は、数間先にいる後ろ姿の騎馬武者に目をつける。
馬を走らせ騎馬武者に近づくと、相手も拙者に気づき振り返る。
遅い。
拙者は槍で騎馬武者を突こうとしたが、その直前に槍を止める。
なぜなら、その騎馬武者が拙者の見知った人物であったからでございます。
「惣兵衛殿」
拙者がそう口にすると、騎馬武者は苦笑いを浮かべながら答える。
「おいおい、儂を殺そうとしたのか?」
この御方は、水野惣兵衛忠重殿。刈屋城の城主で家康公の叔父にあたる方でございまする。拙者は、惣兵衛殿に頭を下げ謝罪しようとするのですが・・・。
「乱戦故、お許し・・・」
惣兵衛殿は、拙者が謝り終わる前に話を切り出す。
「それよりも半蔵殿、儂の息子の藤十郎を見てはおらんか?」
周囲を見渡しながらそう言う惣兵衛殿に拙者は首を傾げて答える。
「藤十郎?見ていませんな」
「そうか・・・あやつめ、兜も着けずに突っ込んで行きおって」
苛立つ惣兵衛殿。その直後、羽柴軍の後方が突如崩れ始める。
拙者と惣兵衛殿は瞬時に状況を理解する。
「小平太か」
おそらく迂回して敵の背後に回り込んだ榊原小平太の隊が羽柴軍を襲撃しているのでありましょう。後方まで乱れた為、さらに混乱を増す羽柴軍。拙者は、にやりと笑い惣兵衛殿に声をかける。
「この戦、勝ちましたな」
「ああ」
散り散りになり逃げ惑う羽柴軍。その光景に惣兵衛殿は大声を上げる。
「皆の者、追えー追うのだ!」
惣兵衛殿の掛け声に応え羽柴軍を追撃する徳川軍。拙者も透かさず馬を駆ける。
「逃げろ逃げろ~生き延びたい奴は必死で逃げろ!」
拙者は馬上で笑みを浮かべながら槍を振り回す。
これが白山林の戦いでございまする。羽黒の戦い同様、奇襲により羽柴軍を撃退した徳川軍。勢いに乗る我らは、敗走する羽柴軍を尚も追撃するのですが・・・。
0
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる