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23:エレオノーラ視点③
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貴族学園に入学する日がやってまいりました。
シャーロッテと共に学園の門をくぐることは考えておりませんでしたので、予定通り二台の馬車を用意しておいて、早々に一台目の馬車に乗り込み出発します。彼女は着替えに相当な時間がかかっているようで、私が別行動をとっていることに気付きませんでした。
大ホールに在学生と新入生が集まる場で入学の祝辞をいただき、入学試験の成績発表が行われました。とは言っても入学試験によって合否が決まるわけではありません。試験の成績は、上位の者から成績順にクラスに振り分けるための参考資料であり、最優秀者を発表し生徒会役員を新しく選出するためのものなのです。貴族学園という学園制度にほんの少し疑問が生じた瞬間でもあります。入学試験がたとえ白紙でも貴族であれば入学出来、何ら不都合は無いのですから――
私は大方の予想通り最優秀者に選ばれ、生徒会役員に選出されました。
体面をまずは考えられたのでしょう。昼食の時間になるとルキウス殿下が私の教室にいらっしゃいます。
最後にお会いしたのが市井でしたから気まずいままでどうしようかと思いましたが、二人ともそのことはおくびにも出しません。何といっても現状は婚約者同士なのです。
生徒会役員は生徒会室で一緒に昼食をとるのが伝統になっていると教わっておりましたので、そのために殿下が迎えに来て下さったようです。いささかほっとしながら殿下の隣に並びます。
『エレオノーラが学園に入学する時は最優秀者に選ばれるのだろうね。君が入学してくる日が今から待ち遠しいよ』
そう言って下さった日が遠い昔のように思えてなりません。
生徒会室に向かうために二人で廊下を歩いていると、辺りが騒がしくなりました。シャーロッテが殿下に向かってぱたぱたと勢いよく走って来て、殿下の護衛に阻まれました。現在殿下の側近候補はことごとく不祥事を起こして一人もおらず、かといって新しい側近候補などそう簡単に指名されるものではありません。そのため特例で護衛騎士が一人だけ付いているのです。
「わたしのクラスの人たちすごい意地悪で、一緒にお昼食べてくれないんですよぉ。ルキウスさまと一緒に昼ごはん食べていいですかぁ?」
阻まれても意に介さずシャーロッテが周り中に聞こえる声で口にすると、ぎょっとしたように周りの方たちが一斉にこちらを見ました。彼女は真っ赤なドレスを着て、至る所に宝飾品を身に付けています。とても学園に勉学をしに来る服装には見えません。
これでは体のいい見世物になってしまいます。
「生徒会の皆さまとご一緒に昼食をとる伝統なのですから無理なのでは。私も自動で役員になったので選択権は無いのですよ」
諦められるようにと、分かりやすいように"無理"と言ったのが逆効果になりました。
言った途端、シャーロッテは俯いて鼻をすすります。
「ええっ!?そんな、ひどいぃ……」
何を思われたのかは分かりませんが、ルキウス殿下は顔を歪めて、憎々し気に私を睨んでこられます。一瞬ですがその表情を見て哀しくなりました。ここまで敵意を持った視線を向けられることは今までにはありませんでしたから。
婚約してから七年……。それなりに交流を深め、絆が出来ていたように自分では思っておりました。
ですがそれは私の一方的な思い込みだったのですね……酷い言葉を浴びせられます。
「僕が生徒会長だぞ。決定権は僕にあるんだ。でしゃばるなよエレオノーラ。シャーロッテ構わないから一緒に行こう」
俯いていたシャーロッテがルキウス殿下にぱぁっと笑います。
「やったぁ!やっぱり頼りになります。ルキウスさまぁ嬉しいっ」
その後は針の筵でした。
生徒会室に向かう時も、ルキウス殿下の隣をシャーロッテが当たり前のように歩いています。ルキウス殿下の腕にしがみついた時、殿下がさすがに窘めたのです――私の体裁のためでは無く、御自身の保身のためというのが誰の目にも明らかでした。
周りのヒソヒソ話を耳にしながら、私は後ろからついていくしかありませんでした。
私を侮辱するルキウス殿下という構図は、六日後の新入生歓迎パーティ前日まで続きました。
必ずシャーロッテがルキウス殿下の隣におり、殿下には哀しみの表情を、私には隠れて嘲った表情を向けてくるのです。
ルキウス殿下も明らかに昔とは変わってらっしゃって、短気になられたというか、物事を全て感情的に受け止められるので、私が何とか出来る状況では無いように思えます。
シャーロッテがノートをしばらく貸してほしいと言ってきた時も、私が「使用中のノートですから貸せません」と断ると、ルキウス殿下は顔を真っ赤にして罵倒なさります。その余りの剣幕に護衛騎士が「その辺で……」と窘めると「お前などクビにしてやる!」との仰りよう。最早誰にも手の打ちようがございませんでした。
パーティの前日、『パーティの同行はしない。自由にお前の好きな男を選んで勝手にするといい』という伝達がルキウス殿下の元からまいりました。いきなり前日にどうやってパートナーを探せというのでしょう。しかももう夕刻ですのに……
侯爵邸のホールで手紙を読み終えると、その時だけ姿を現したシャーロッテの顔には勝ち誇った嘲笑が浮かんでおりました。まるで手紙が誰からの物なのか事前に分かっていたかのようですわね。
「エリィ、顔色がとても悪いわ。明日のパーティはだぁいじょぉぶぅ?」
「明日のパーティは生徒会主催ですもの。これから最後の準備があるから向かうわ」
「ふぅん?そぉ?わたしにはステキなパートナーがいるしぃ。明日紹介するわねぇ?」
「ええ。明日ね」
既にこうなることは知らされていたので、待たせている馬車に乗り込みます。
行先は王宮。
パーティの準備と言ったのはシャーロッテへの目くらましに過ぎません。
王宮に到着するとお父様が待っていて下さって、共に国王陛下王妃殿下の元に参ります。
お話し合いは既に済んでいるようでした。
その場でルキウス第一王子殿下と私との婚約は正式に破棄されたこと、新たにテオドール第二王子殿下との婚約が成立したことを知らされたのでした。
状況の変化が余りに早くてびっくりしましたが、喜びのほうが勝りました。
私のモノクロームの世界がひび割れ、景色が色付いた瞬間でもありました。
◇◇◇
こののち、ルキウス殿下とシャーロッテが嵌った怪しい仮面舞踏会の主催者である伯爵が摘発されました。
参加者の極秘リストも王室法務部によって物証として回収されたとのこと。
かなりの家門がリストに挙げられているそうで、貴族社会の膿を一掃することになるでしょう。
市井の膿もまた――
黒い封筒、仮面舞踏会の招待状を流出させていた、この国最大と言われた盗賊団の頭領の処刑が行われたことが話題に上りました。
斬首の刑に処された、ストロベリーブロンドと赤い瞳の持ち主であった首は、粛清の象徴としてしばらくの間、とある町の広場に晒されていたそうです。
今はまだ、罪人となった二人を思うと胸が痛みます。
ルキウス殿下とシャーロッテの末路を聞くにつれ、全て新たな婚約者となったテオドール殿下の采配だったのかしらと考えるのですが、おそらく尋ねても真実の答えは得られないでしょう。
テオドール殿下から私を甘やかして嫌な思いは決してさせないという決意を感じるからです。そのお気持ちは嬉しく思います。此度の騒動が想い出となれば、また変化が訪れるやもしれません。
時は流れ翌年、テオドール殿下が学園に入学なさりました。
私は一学年の時は腫物を触るように扱われておりましたが同情的な方も多く、そういう方たちが擁護して下さり、思った以上に快適な学園生活を送ることが叶いました。
殿下は私一筋という態度を決してお崩しにはならず、『ゲームの攻略ルート通りなのになんで思い通りにならないのっ』と訳の分からないことを仰る男爵令嬢が殿下の周りに現れたりしましたが、側近候補の方たちはとても優秀で、必要以上に接触してこようとする令嬢に対して、適切な対応をなさって下さいました。
「ああエリィ、あんな男爵令嬢のことなんか気にしなくていいからね。私は君しか目に入らないし」
「エリィには私の気持ちは分からないだろうけれど、本当に君しか輝いて見えない……。私の中ではエリィ、君は宝石箱に入れるべきとっておきの宝物なんだ」
テオドール殿下のおっしゃりようが余りに甘すぎて、顔が真っ赤になってしまいます。
王妃教育の成果が上がっていないと思われてしまうかしら。
そんな感情を表に出してしまう私のことも殿下は好きだと仰ってくださいます。
結局このあとしばらくして、テオドール殿下が男爵令嬢に何かを告げたことを聞き及びますと、その後彼女を学園で見ることはありませんでした。
◇◇◇
二年経ち、テオドール殿下とご一緒させて頂き楽しかった学園生活に終わりを告げる日がやってまいりました。
その間、少年の面影を残していらした殿下は、誰もが目を離せない見目麗しい青年へと成長なさり、もう誰も私より年下だとは思わないでしょう。
今日は私の卒業式です。
テオドール王太子殿下は私の卒業後、最終学年となられます。
二学年の時、生徒会長として貴族学園という名称を王立学園に変更し、市井の優秀な者への奨学金制度を設け、貴族籍の無い者にも広く門戸を開かせたのは殿下の実績でございます。
私は奨学金制度を利用した方たちを学園内で見る事無く卒業となりますが、今後優秀な奨学生たちが国を担う役職に就き、叙爵していくことになれば、王宮で会うことが叶いましょう。
「あと一年待っていてもらえるだろうか……」
卒業記念パーティの会場でエスコートして下さった殿下の声が不安に滲んでいて、思わず笑んでしまいます。返事など決まっていますものを――
「ええ。お待ちしております」
握られた両手を優しく握り返しますと、テオドール王太子殿下が色鮮やかな風景の中で微笑んで下さいます。私にモノクロームでない世界を取り戻して下さってありがとうございますと、感謝の気持ちをお伝えしたい。
この美しい色彩の風景こそがそのまま私の幸福なのだということを。
いつかそう遠くない日、この幸福感を説明することに致しましょう。
◆◆◆
ここで読むのを止めれば、本当の幸福で終わることが出来ます。
このまま読み進めた場合、あなたの想像通りの結末にはならないかもしれません。
……それでも最終話をご覧になりますか……?
シャーロッテと共に学園の門をくぐることは考えておりませんでしたので、予定通り二台の馬車を用意しておいて、早々に一台目の馬車に乗り込み出発します。彼女は着替えに相当な時間がかかっているようで、私が別行動をとっていることに気付きませんでした。
大ホールに在学生と新入生が集まる場で入学の祝辞をいただき、入学試験の成績発表が行われました。とは言っても入学試験によって合否が決まるわけではありません。試験の成績は、上位の者から成績順にクラスに振り分けるための参考資料であり、最優秀者を発表し生徒会役員を新しく選出するためのものなのです。貴族学園という学園制度にほんの少し疑問が生じた瞬間でもあります。入学試験がたとえ白紙でも貴族であれば入学出来、何ら不都合は無いのですから――
私は大方の予想通り最優秀者に選ばれ、生徒会役員に選出されました。
体面をまずは考えられたのでしょう。昼食の時間になるとルキウス殿下が私の教室にいらっしゃいます。
最後にお会いしたのが市井でしたから気まずいままでどうしようかと思いましたが、二人ともそのことはおくびにも出しません。何といっても現状は婚約者同士なのです。
生徒会役員は生徒会室で一緒に昼食をとるのが伝統になっていると教わっておりましたので、そのために殿下が迎えに来て下さったようです。いささかほっとしながら殿下の隣に並びます。
『エレオノーラが学園に入学する時は最優秀者に選ばれるのだろうね。君が入学してくる日が今から待ち遠しいよ』
そう言って下さった日が遠い昔のように思えてなりません。
生徒会室に向かうために二人で廊下を歩いていると、辺りが騒がしくなりました。シャーロッテが殿下に向かってぱたぱたと勢いよく走って来て、殿下の護衛に阻まれました。現在殿下の側近候補はことごとく不祥事を起こして一人もおらず、かといって新しい側近候補などそう簡単に指名されるものではありません。そのため特例で護衛騎士が一人だけ付いているのです。
「わたしのクラスの人たちすごい意地悪で、一緒にお昼食べてくれないんですよぉ。ルキウスさまと一緒に昼ごはん食べていいですかぁ?」
阻まれても意に介さずシャーロッテが周り中に聞こえる声で口にすると、ぎょっとしたように周りの方たちが一斉にこちらを見ました。彼女は真っ赤なドレスを着て、至る所に宝飾品を身に付けています。とても学園に勉学をしに来る服装には見えません。
これでは体のいい見世物になってしまいます。
「生徒会の皆さまとご一緒に昼食をとる伝統なのですから無理なのでは。私も自動で役員になったので選択権は無いのですよ」
諦められるようにと、分かりやすいように"無理"と言ったのが逆効果になりました。
言った途端、シャーロッテは俯いて鼻をすすります。
「ええっ!?そんな、ひどいぃ……」
何を思われたのかは分かりませんが、ルキウス殿下は顔を歪めて、憎々し気に私を睨んでこられます。一瞬ですがその表情を見て哀しくなりました。ここまで敵意を持った視線を向けられることは今までにはありませんでしたから。
婚約してから七年……。それなりに交流を深め、絆が出来ていたように自分では思っておりました。
ですがそれは私の一方的な思い込みだったのですね……酷い言葉を浴びせられます。
「僕が生徒会長だぞ。決定権は僕にあるんだ。でしゃばるなよエレオノーラ。シャーロッテ構わないから一緒に行こう」
俯いていたシャーロッテがルキウス殿下にぱぁっと笑います。
「やったぁ!やっぱり頼りになります。ルキウスさまぁ嬉しいっ」
その後は針の筵でした。
生徒会室に向かう時も、ルキウス殿下の隣をシャーロッテが当たり前のように歩いています。ルキウス殿下の腕にしがみついた時、殿下がさすがに窘めたのです――私の体裁のためでは無く、御自身の保身のためというのが誰の目にも明らかでした。
周りのヒソヒソ話を耳にしながら、私は後ろからついていくしかありませんでした。
私を侮辱するルキウス殿下という構図は、六日後の新入生歓迎パーティ前日まで続きました。
必ずシャーロッテがルキウス殿下の隣におり、殿下には哀しみの表情を、私には隠れて嘲った表情を向けてくるのです。
ルキウス殿下も明らかに昔とは変わってらっしゃって、短気になられたというか、物事を全て感情的に受け止められるので、私が何とか出来る状況では無いように思えます。
シャーロッテがノートをしばらく貸してほしいと言ってきた時も、私が「使用中のノートですから貸せません」と断ると、ルキウス殿下は顔を真っ赤にして罵倒なさります。その余りの剣幕に護衛騎士が「その辺で……」と窘めると「お前などクビにしてやる!」との仰りよう。最早誰にも手の打ちようがございませんでした。
パーティの前日、『パーティの同行はしない。自由にお前の好きな男を選んで勝手にするといい』という伝達がルキウス殿下の元からまいりました。いきなり前日にどうやってパートナーを探せというのでしょう。しかももう夕刻ですのに……
侯爵邸のホールで手紙を読み終えると、その時だけ姿を現したシャーロッテの顔には勝ち誇った嘲笑が浮かんでおりました。まるで手紙が誰からの物なのか事前に分かっていたかのようですわね。
「エリィ、顔色がとても悪いわ。明日のパーティはだぁいじょぉぶぅ?」
「明日のパーティは生徒会主催ですもの。これから最後の準備があるから向かうわ」
「ふぅん?そぉ?わたしにはステキなパートナーがいるしぃ。明日紹介するわねぇ?」
「ええ。明日ね」
既にこうなることは知らされていたので、待たせている馬車に乗り込みます。
行先は王宮。
パーティの準備と言ったのはシャーロッテへの目くらましに過ぎません。
王宮に到着するとお父様が待っていて下さって、共に国王陛下王妃殿下の元に参ります。
お話し合いは既に済んでいるようでした。
その場でルキウス第一王子殿下と私との婚約は正式に破棄されたこと、新たにテオドール第二王子殿下との婚約が成立したことを知らされたのでした。
状況の変化が余りに早くてびっくりしましたが、喜びのほうが勝りました。
私のモノクロームの世界がひび割れ、景色が色付いた瞬間でもありました。
◇◇◇
こののち、ルキウス殿下とシャーロッテが嵌った怪しい仮面舞踏会の主催者である伯爵が摘発されました。
参加者の極秘リストも王室法務部によって物証として回収されたとのこと。
かなりの家門がリストに挙げられているそうで、貴族社会の膿を一掃することになるでしょう。
市井の膿もまた――
黒い封筒、仮面舞踏会の招待状を流出させていた、この国最大と言われた盗賊団の頭領の処刑が行われたことが話題に上りました。
斬首の刑に処された、ストロベリーブロンドと赤い瞳の持ち主であった首は、粛清の象徴としてしばらくの間、とある町の広場に晒されていたそうです。
今はまだ、罪人となった二人を思うと胸が痛みます。
ルキウス殿下とシャーロッテの末路を聞くにつれ、全て新たな婚約者となったテオドール殿下の采配だったのかしらと考えるのですが、おそらく尋ねても真実の答えは得られないでしょう。
テオドール殿下から私を甘やかして嫌な思いは決してさせないという決意を感じるからです。そのお気持ちは嬉しく思います。此度の騒動が想い出となれば、また変化が訪れるやもしれません。
時は流れ翌年、テオドール殿下が学園に入学なさりました。
私は一学年の時は腫物を触るように扱われておりましたが同情的な方も多く、そういう方たちが擁護して下さり、思った以上に快適な学園生活を送ることが叶いました。
殿下は私一筋という態度を決してお崩しにはならず、『ゲームの攻略ルート通りなのになんで思い通りにならないのっ』と訳の分からないことを仰る男爵令嬢が殿下の周りに現れたりしましたが、側近候補の方たちはとても優秀で、必要以上に接触してこようとする令嬢に対して、適切な対応をなさって下さいました。
「ああエリィ、あんな男爵令嬢のことなんか気にしなくていいからね。私は君しか目に入らないし」
「エリィには私の気持ちは分からないだろうけれど、本当に君しか輝いて見えない……。私の中ではエリィ、君は宝石箱に入れるべきとっておきの宝物なんだ」
テオドール殿下のおっしゃりようが余りに甘すぎて、顔が真っ赤になってしまいます。
王妃教育の成果が上がっていないと思われてしまうかしら。
そんな感情を表に出してしまう私のことも殿下は好きだと仰ってくださいます。
結局このあとしばらくして、テオドール殿下が男爵令嬢に何かを告げたことを聞き及びますと、その後彼女を学園で見ることはありませんでした。
◇◇◇
二年経ち、テオドール殿下とご一緒させて頂き楽しかった学園生活に終わりを告げる日がやってまいりました。
その間、少年の面影を残していらした殿下は、誰もが目を離せない見目麗しい青年へと成長なさり、もう誰も私より年下だとは思わないでしょう。
今日は私の卒業式です。
テオドール王太子殿下は私の卒業後、最終学年となられます。
二学年の時、生徒会長として貴族学園という名称を王立学園に変更し、市井の優秀な者への奨学金制度を設け、貴族籍の無い者にも広く門戸を開かせたのは殿下の実績でございます。
私は奨学金制度を利用した方たちを学園内で見る事無く卒業となりますが、今後優秀な奨学生たちが国を担う役職に就き、叙爵していくことになれば、王宮で会うことが叶いましょう。
「あと一年待っていてもらえるだろうか……」
卒業記念パーティの会場でエスコートして下さった殿下の声が不安に滲んでいて、思わず笑んでしまいます。返事など決まっていますものを――
「ええ。お待ちしております」
握られた両手を優しく握り返しますと、テオドール王太子殿下が色鮮やかな風景の中で微笑んで下さいます。私にモノクロームでない世界を取り戻して下さってありがとうございますと、感謝の気持ちをお伝えしたい。
この美しい色彩の風景こそがそのまま私の幸福なのだということを。
いつかそう遠くない日、この幸福感を説明することに致しましょう。
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ここで読むのを止めれば、本当の幸福で終わることが出来ます。
このまま読み進めた場合、あなたの想像通りの結末にはならないかもしれません。
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