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20:顛末②
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「そ、それは……っ」
お父様の冷たい視線にたじろいだルキウス殿下が言葉に詰まっております。
そこにまるで空気を読まない甲高い声が響き渡りました。
「ルキウスさまとおしゃべりしたくてもエリィはなんどもなんども邪魔してきたわ!なにさまのつもりなの?お父さまはエリィがどんなにひどいことをしてるか知らないからそんなこと言えるんですっ」
お父様は殿下に回答を求めましたのに口を挟むなど。
「何を馬鹿な……殿下とエレオノーラは婚約者同士なのだぞ。それを差し置いて隣に座りたいだの、二人で出掛ける際に連れて行ってくれない、だの――
弟の娘と思えばこそ家に置いてやれば、好き放題した挙句の果てに婚約者略奪か……恥を知れ。
それに何度も言うようだが私は君の"お父さま"などでは断じて無い」
「え……っ。侯爵家に住んでいいって言ったのはお父さまじゃない!同じ家に住んだら家族でしょう!?家族ならお父さまって呼ぶのは当たり前じゃない!それにわたしを平民と見下していい気になって、いろんなひどいことをエリィはしたのよ?」
いったいどんな理屈なのでしょう……。詰る一方ですし都合の悪いところは聞こえていないのでしょうか。
まるであらかじめ決まった劇を一方的に見せられているかのよう。
そんなシャーロッテの態度に皆さん激しく引いていらっしゃる。
お父様も話のまるで通じない彼女に深いため息をつかれました。次に濃紺の目を開いたとき、周りを凍えさせるような静かな声で語り始めます。
「『血の卑しい平民ふぜいが』とエレオノーラが言ったのだったか?民の血税により生き、いざという時には民を守るために在るのが貴族だ。それを忘れず誇りを持って生きろと常日頃から娘には言い聞かせている。そのような言葉を万が一にも吐いたら即刻家から追い出しているところだ。
ののしられて髪を引っ張られて引きずられた、というのは初耳だ。しかも私が庇っただと?
事実無根……我が娘を陥れる虚偽の告発を平気で行い、恩を仇で返す忌まわしい女。それがお前だ」
周りの方々が一斉にほっとしたようなため息をもらします。ええ、確かにシャーロッテの告発の中で唯一まともな罪状でしたから。
真実であれば、ですが。
周りにも嘘の告発だったと伝わったようで本当に良かったです。
お父様が目配せすると、侍従が大きな封筒を持って進み出ました。
「……ああ、殿下。昨日国王陛下並び王妃殿下にお目通りした際、お渡しした調査書をお受け取り下さい。控えで申し訳ありませんが。そこの女の身上調書も同封しております故、無聊を慰める読み物としてお使いいただきたく存じます」
「な……っ。調査書、だと……」
結構な厚みがありますわね、あの封筒。
お父様が本気で第一王子との婚約解消に向けて調査したのが分かります。シャーロッテに関しても身分詐称は重罪ですから正式な証拠となるように整えたのでしょう。
第一王子との婚約は最初からお父様も私も望んではおりませんでした。王室からの命令でしたから侯爵家は進退窮まったのです。
ひったくるように受け取って中身を確認したルキウス殿下のお顔が目に見えて真っ青になりました。
……あら?ホールの大扉のほうが騒がしいですわね。
ざわざわと騒がしくなったほうに、会場におられる方々が視線を向けると、ざっと腰を屈めていきます。まるで一陣の風が吹き抜け、花々が首を垂れていくよう。
入って来た方に対して一斉に皆が最上級の礼を取りました。
白い正装服の近衛兵たちが続々と入ってきます。
一気に物々しくなったその後ろには、金の髪を後ろに撫で付けていつもよりも大人びて見えるテオドール第二王子殿下が、凛とした佇まいで私たちのほうに向かって歩いてこられます。
王室正装が素晴らしく似合ってらして、まるで美の神が描いた絵画のようです。その威厳と共に周囲も自然と静謐さを取り戻しました。
お父様と私が跪くと、片手を上げて制されます。
「ああ、皆そのような礼などよい。此度は難儀なことであったな、リンゼヴァイド侯爵。私は陛下に一任されやって来た。この醜悪な場に幕引きをしようではないか」
「ありがたき仰せ」
「薬物使用及び王室費の横領罪、加えて女には身分詐称罪、国家転覆罪により国王陛下の勅命が下った。第一王子とその女を捕らえ塔へと連行せよ」
テオドール殿下の玲瓏な声で語られる罪状に、周囲が一斉にどよめくと同時に、近衛兵が隙の無い動きで二人をあっという間に拘束してしまいます。
ルキウス殿下は暴れることもなく、書類を両手でかかえ既に諦めたような態度のまま下を向いて大人しく連れていかれましたが、シャーロッテは暴れて髪を振り乱し、悪鬼のような表情で叫び続けていました。
その暴れ様は長い間社交界で語り草となるようなものでした。
「こそこそとわたしたちのあとをつけて調べてたってゆうの!?卑怯者!貴族の風上にもおけないわっ!放してよっ!無礼者っ!わたしは侯爵令嬢なのよぉっ!放してっ!!××××!×××!!」
そのあとの罵詈雑言は聞くに堪えず、結局猿ぐつわを嵌められ、引きずられるようにして連行されていきます。
それが最後に見たシャーロッテの姿となりました。
お父様の冷たい視線にたじろいだルキウス殿下が言葉に詰まっております。
そこにまるで空気を読まない甲高い声が響き渡りました。
「ルキウスさまとおしゃべりしたくてもエリィはなんどもなんども邪魔してきたわ!なにさまのつもりなの?お父さまはエリィがどんなにひどいことをしてるか知らないからそんなこと言えるんですっ」
お父様は殿下に回答を求めましたのに口を挟むなど。
「何を馬鹿な……殿下とエレオノーラは婚約者同士なのだぞ。それを差し置いて隣に座りたいだの、二人で出掛ける際に連れて行ってくれない、だの――
弟の娘と思えばこそ家に置いてやれば、好き放題した挙句の果てに婚約者略奪か……恥を知れ。
それに何度も言うようだが私は君の"お父さま"などでは断じて無い」
「え……っ。侯爵家に住んでいいって言ったのはお父さまじゃない!同じ家に住んだら家族でしょう!?家族ならお父さまって呼ぶのは当たり前じゃない!それにわたしを平民と見下していい気になって、いろんなひどいことをエリィはしたのよ?」
いったいどんな理屈なのでしょう……。詰る一方ですし都合の悪いところは聞こえていないのでしょうか。
まるであらかじめ決まった劇を一方的に見せられているかのよう。
そんなシャーロッテの態度に皆さん激しく引いていらっしゃる。
お父様も話のまるで通じない彼女に深いため息をつかれました。次に濃紺の目を開いたとき、周りを凍えさせるような静かな声で語り始めます。
「『血の卑しい平民ふぜいが』とエレオノーラが言ったのだったか?民の血税により生き、いざという時には民を守るために在るのが貴族だ。それを忘れず誇りを持って生きろと常日頃から娘には言い聞かせている。そのような言葉を万が一にも吐いたら即刻家から追い出しているところだ。
ののしられて髪を引っ張られて引きずられた、というのは初耳だ。しかも私が庇っただと?
事実無根……我が娘を陥れる虚偽の告発を平気で行い、恩を仇で返す忌まわしい女。それがお前だ」
周りの方々が一斉にほっとしたようなため息をもらします。ええ、確かにシャーロッテの告発の中で唯一まともな罪状でしたから。
真実であれば、ですが。
周りにも嘘の告発だったと伝わったようで本当に良かったです。
お父様が目配せすると、侍従が大きな封筒を持って進み出ました。
「……ああ、殿下。昨日国王陛下並び王妃殿下にお目通りした際、お渡しした調査書をお受け取り下さい。控えで申し訳ありませんが。そこの女の身上調書も同封しております故、無聊を慰める読み物としてお使いいただきたく存じます」
「な……っ。調査書、だと……」
結構な厚みがありますわね、あの封筒。
お父様が本気で第一王子との婚約解消に向けて調査したのが分かります。シャーロッテに関しても身分詐称は重罪ですから正式な証拠となるように整えたのでしょう。
第一王子との婚約は最初からお父様も私も望んではおりませんでした。王室からの命令でしたから侯爵家は進退窮まったのです。
ひったくるように受け取って中身を確認したルキウス殿下のお顔が目に見えて真っ青になりました。
……あら?ホールの大扉のほうが騒がしいですわね。
ざわざわと騒がしくなったほうに、会場におられる方々が視線を向けると、ざっと腰を屈めていきます。まるで一陣の風が吹き抜け、花々が首を垂れていくよう。
入って来た方に対して一斉に皆が最上級の礼を取りました。
白い正装服の近衛兵たちが続々と入ってきます。
一気に物々しくなったその後ろには、金の髪を後ろに撫で付けていつもよりも大人びて見えるテオドール第二王子殿下が、凛とした佇まいで私たちのほうに向かって歩いてこられます。
王室正装が素晴らしく似合ってらして、まるで美の神が描いた絵画のようです。その威厳と共に周囲も自然と静謐さを取り戻しました。
お父様と私が跪くと、片手を上げて制されます。
「ああ、皆そのような礼などよい。此度は難儀なことであったな、リンゼヴァイド侯爵。私は陛下に一任されやって来た。この醜悪な場に幕引きをしようではないか」
「ありがたき仰せ」
「薬物使用及び王室費の横領罪、加えて女には身分詐称罪、国家転覆罪により国王陛下の勅命が下った。第一王子とその女を捕らえ塔へと連行せよ」
テオドール殿下の玲瓏な声で語られる罪状に、周囲が一斉にどよめくと同時に、近衛兵が隙の無い動きで二人をあっという間に拘束してしまいます。
ルキウス殿下は暴れることもなく、書類を両手でかかえ既に諦めたような態度のまま下を向いて大人しく連れていかれましたが、シャーロッテは暴れて髪を振り乱し、悪鬼のような表情で叫び続けていました。
その暴れ様は長い間社交界で語り草となるようなものでした。
「こそこそとわたしたちのあとをつけて調べてたってゆうの!?卑怯者!貴族の風上にもおけないわっ!放してよっ!無礼者っ!わたしは侯爵令嬢なのよぉっ!放してっ!!××××!×××!!」
そのあとの罵詈雑言は聞くに堪えず、結局猿ぐつわを嵌められ、引きずられるようにして連行されていきます。
それが最後に見たシャーロッテの姿となりました。
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