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11:シャーロッテ視点③
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わけもわからず憲兵の駐在所に行くと、見慣れた顔の男がいた。
あ、こいつ。男が買収してる憲兵だ。馬車を襲撃したときに見たことがある。
男はこの憲兵に賄賂を贈り、襲撃の情報を操作していた。
一瞬わたしの髪と顔を見てぎょっとしたようだったけど、わたしが事故に遭ったという馬車のことを尋ねると、ああ、といってほっとした顔をした。
別にあんたのことを告発しにきたわけじゃないわよ。
「シャーロッテさんのご両親は森を挟んだ二つ向こうの村に行く予定だったようで……橋を渡る前に断崖のほうに馬が暴走して谷底に墜落したんです。発見が遅れたのですが、ご両親はほぼ即死だったと思われます」
なんでそんな村に行こうとしてたの?訳が分からない。
死んだとか言われても、わたしを邪魔者扱いしてなにもしてくれなかった母さんも、そもそも血なんて繋がってない父さんにも情なんてないから悲しくもなんともない。
けど二人は素晴らしいものを残してくれたわ。わたしと侯爵家の繋がり!なんてステキなんだろ!未来の王妃がいる家だよ!
しかももう真実を知る奴はいない……!
「やってほしいことがあるのよ。リンゼヴァイド侯爵に、『あなたの弟が馬車の事故で亡くなり、娘が残された』と連絡してほしいの」
「それはまた……なぜ私がわざわざそのようなことをせねばならんのですか?」
これまでの人生で、男というものは高圧的な態度で言うことをきかせるより、女の武器を使っておねだりするほうが圧倒的に事が上手くいくということを学んだ。
してくれないなら、してくれるように自分の魅力を使うしかない。
自分の髪を指でクルクルと巻いてまつ毛を伏せながら、ゆっくりと男のほうを向くと、顔が赤くなりデレっとだらしなく弛緩した。チョろ。
「両親を亡くしたか弱い女じゃ、どうしたらいいのか分からないの……元々口がよく回るほうでもないので……お願いできたら、と思ったんだけど……無理かしら」
暗にあんたのことをバラすつもりはない、という口ぶりでそう言うと、
「はあ。そうですね。どのみち侯爵家には連絡をせねばならないでしょうから。分かりました。シャーロッテさんのこともお伝えしておきます」
やった!
こうして数日後、母さんの部屋にリンゼヴァイド侯爵がやって来たのだった。
侯爵は銀の髪・紺色の瞳で父さんとそっくりだった。
わたしを見て、絶句して立ったままだ。
弟の娘ということでここに来たのに、娘の髪も目も弟から継いでいるものではないのだから当然かな。
でもわたしが言わなきゃそんなことはバレない。似てないって言えばいいだけの話だ。
あの憲兵だって、盗賊団から賄賂をもらってたんだから、わたしの正体をバラすことは出来ないはず。数日息をひそめてたけど、憲兵はわたしの口封じをする勇気はなかったみたいだしね。
「弟の娘、だろうか。名は何と言う?」
「シャーロッテ、といいます。伯父さま、と呼んでも?」
「体面もあるからな。リンゼヴァイド侯爵、と呼びなさい」
ふんっ。プライドだけ高いお貴族さまか。当然口には出さず、女の武器を有効に使う。すんと鼻を啜りながら答えた。呼び方なんてあとでどうとでもなる。侯爵家に入ってしまえば……
「分かりました……。リンゼヴァイド侯爵さま。父さんも母さんも亡くなってしまって、もうわたしは独りぼっちです。行くところもありません……」
「私が弟に情けをかけたことで、このようなことになってしまったか……」
侯爵が伯爵家を追い出された自分の弟に毎月仕送りをしていたこと。
二つ先の村に家を買って、そこに住むように手配していたことを話してくれた。
あの男、仕送りの話なんて一言も……っ。
わたしになにもしてくれない奴ばっかり!
「そう。一つ疑問があるのだが、答えてくれるだろうか」
え?なんだ?
冷や汗が額を流れた。なんか不自然なところなんてあった!?
「なんでしょう?わたしに答えられることなら」
「家のある村に行くのに、なぜ弟とあなたの母君は馬車に乗っていたのに、あなたは乗っていなかったのだ?」
あ、こいつ。男が買収してる憲兵だ。馬車を襲撃したときに見たことがある。
男はこの憲兵に賄賂を贈り、襲撃の情報を操作していた。
一瞬わたしの髪と顔を見てぎょっとしたようだったけど、わたしが事故に遭ったという馬車のことを尋ねると、ああ、といってほっとした顔をした。
別にあんたのことを告発しにきたわけじゃないわよ。
「シャーロッテさんのご両親は森を挟んだ二つ向こうの村に行く予定だったようで……橋を渡る前に断崖のほうに馬が暴走して谷底に墜落したんです。発見が遅れたのですが、ご両親はほぼ即死だったと思われます」
なんでそんな村に行こうとしてたの?訳が分からない。
死んだとか言われても、わたしを邪魔者扱いしてなにもしてくれなかった母さんも、そもそも血なんて繋がってない父さんにも情なんてないから悲しくもなんともない。
けど二人は素晴らしいものを残してくれたわ。わたしと侯爵家の繋がり!なんてステキなんだろ!未来の王妃がいる家だよ!
しかももう真実を知る奴はいない……!
「やってほしいことがあるのよ。リンゼヴァイド侯爵に、『あなたの弟が馬車の事故で亡くなり、娘が残された』と連絡してほしいの」
「それはまた……なぜ私がわざわざそのようなことをせねばならんのですか?」
これまでの人生で、男というものは高圧的な態度で言うことをきかせるより、女の武器を使っておねだりするほうが圧倒的に事が上手くいくということを学んだ。
してくれないなら、してくれるように自分の魅力を使うしかない。
自分の髪を指でクルクルと巻いてまつ毛を伏せながら、ゆっくりと男のほうを向くと、顔が赤くなりデレっとだらしなく弛緩した。チョろ。
「両親を亡くしたか弱い女じゃ、どうしたらいいのか分からないの……元々口がよく回るほうでもないので……お願いできたら、と思ったんだけど……無理かしら」
暗にあんたのことをバラすつもりはない、という口ぶりでそう言うと、
「はあ。そうですね。どのみち侯爵家には連絡をせねばならないでしょうから。分かりました。シャーロッテさんのこともお伝えしておきます」
やった!
こうして数日後、母さんの部屋にリンゼヴァイド侯爵がやって来たのだった。
侯爵は銀の髪・紺色の瞳で父さんとそっくりだった。
わたしを見て、絶句して立ったままだ。
弟の娘ということでここに来たのに、娘の髪も目も弟から継いでいるものではないのだから当然かな。
でもわたしが言わなきゃそんなことはバレない。似てないって言えばいいだけの話だ。
あの憲兵だって、盗賊団から賄賂をもらってたんだから、わたしの正体をバラすことは出来ないはず。数日息をひそめてたけど、憲兵はわたしの口封じをする勇気はなかったみたいだしね。
「弟の娘、だろうか。名は何と言う?」
「シャーロッテ、といいます。伯父さま、と呼んでも?」
「体面もあるからな。リンゼヴァイド侯爵、と呼びなさい」
ふんっ。プライドだけ高いお貴族さまか。当然口には出さず、女の武器を有効に使う。すんと鼻を啜りながら答えた。呼び方なんてあとでどうとでもなる。侯爵家に入ってしまえば……
「分かりました……。リンゼヴァイド侯爵さま。父さんも母さんも亡くなってしまって、もうわたしは独りぼっちです。行くところもありません……」
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え?なんだ?
冷や汗が額を流れた。なんか不自然なところなんてあった!?
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