【完結】とある侯爵令嬢ですが婚約破棄されました~おバカな王子様は要らないので従妹に差し上げます~

しのみやあろん

文字の大きさ
上 下
10 / 25

10:シャーロッテ視点②※

しおりを挟む
「お前、その男のことを知らないのか?」

 ベッドで男が不思議そうに聞いてくる。なによそれ、知るわけないじゃん。
 わたしが知らないのが分かって、男がフン、と鼻を鳴らした。

「俺が昔働いてた伯爵家の入り婿だよ。下半身のユルい男なんか家に入れちまって、伯爵家も災難だ」

 なにそれなにそれ。母さんはわたしのこと、その男とヤッて出来たって言ってるんだよ?
 それなら、わたしは伯爵令嬢じゃん!

「なあ、お前、自分が伯爵令嬢とか思ってないかあ?」

 ギクっとなったわたしを見て図星だと思ったんだろう。大笑いしはじめる。
「馬鹿だなオイ。入り婿が外の女との間に作った子供になってるってことだろ?伯爵家の血なんざ一滴も流れてないだろが。そんなんで伯爵令嬢なんて言えるかよ。それにしてもお前のえらい性悪だな」

 そんな女とよろしくヤッてたのは誰だっての。アンタにだけは言われたくないわよ。

 男がなんで伯爵家を辞めたのか聞いたら解雇されたんだとか。手あたり次第使用人に手を出してたら当然だろう。下半身がユルいのはどっちだって話。
「なんだあ?俺がいろんな女とるのが気に入らないかあ?」


 頭にきたので母さんの家に帰ると、伯爵家にわたしの存在がバレたとかで、が家に居た。
 そのまま何日もずっと家にいるので変だと思ったら、無一文のまま伯爵家を追い出されたらしい。
 母さんも怒ってて、二人がベッドでわけでもなかったから、しばらくわたしも家にいた。食堂の給仕はとっくに辞めてる。働かなくたって、男ににっこり笑いかければどうとでもなるし。
 
 それよかこいつ馬鹿じゃないの。ホントにわたしが実の娘だと信じて疑ってないの?

 男はベラベラと言い訳がましくしゃべってる。

 伯爵家を追い出されて、実家のリンゼヴァイド侯爵家に戻ろうとしたけど、当主になっていた兄に追い出されたこと、親子三人でここで幸せに暮らしたいこと。
 マジか。母さんにすっかりダマされちゃって。
 
 とはいっても、働こうともしないじゃん。ヒモになる気マンマンだね。
 そういう目で睨んだら"伯爵家にいたころは、母さんに毎月お手当を払ってた"だってさ。
 たいした金額じゃないのは見え見えだけどね。じゃなかったらこんなところに住んでないよ。
 だけどそれで、母さんがなんでわたしをこの男の娘だって言ってたのか分かった。この男から金を巻き上げるためだったのか。

 それよか、こいつ侯爵家の次男だったの?
 わたしが興味を示したのが嬉しかったらしい。男の口はいろんなことを吐き出した。
 
 話に聞くリンゼヴァイド侯爵家はすごい貴族さまだった。当主は外交官、妻は隣国の公女さま。
 極めつけは一人娘が第一王子の婚約者!なにそれ、未来の王妃さまじゃん。
 モロ雲の上の人ってやつ?
 はあ。ため息しか出ないよ。世の中には恵まれた奴ってのがホントにいるんだ。ムカつく。
 


 日がな一日家にいる奴のせいで、わたしは森の小屋にいることのほうが多くなった。

 ある日、どこで調べたのかわたしをとり上げたっていう産婆のところに連れて行かれる。ものすごい皺くちゃで、よく生きてるな、ってくらい。
 婆さんはわたしを見るなり、にたぁと笑った。歯がほとんどない。
「なんじゃ?坊、娘っ子と一緒かや?」ギリなに言ってるか分かるくらい。

「こいつ、どの女から産まれたんだ?」

「何じゃ、もう知っとったと思ってたが。あの性悪女さね。あいつ、わしに金も払わず逃げおってからに」
 男が舌打ちする。
「やっぱりか。血は争えんな……例のを頼む」

「……いいんか?」

「こうまで好き者だと今やっといたほうがいいだろが」
 
 ちょっと!わたしを無視して話を進めないでよ!
 
 二人が一斉にこっちを見る。赤い目と目が合った。わたしとおんなじ赤い――

 


 ◇◇◇





 母さんの部屋にもいたくないし、小屋にいると男の欲望のはけ口に使われるから、なるべく町にいるようにしてる。
 町に一人でいても、かどわかされることもないし、ゴロツキに襲われることもない。
 この髪と目のおかげなんだとあとから知ったけど。


 町で声を掛けてくる奴に食事を奢ってもらったり、夜通し遊んだりを繰り返して何日かぶりに森の小屋に戻ると、男が見たことない女と行為の真っ最中だった。
 扉を開けたらすぐベッドがあるから、繋がってるのがバッチリ見える。


「……なんだ、戻ったのかあ?」

 そう言いながらも行為を止めようとはしない。抜き挿ししてる男の肉棒がテラテラとぬめっているのまで分かる。
 知らない女は小屋に入ってきたわたしに驚いて起き上がろうとしたけど、男に膝裏をがっちり掴まれ脚を持ち上げられていて身動きが取れないようだった。
 ……あぁいやだ……男のことなんて大嫌いなのに……アソコがジュクっと潤んだ。それが挿さってるのはいつもならわたしなのに。


「まだからどっかそのへんにいろよ。こっち出したらすぐ挿れてやるから」

 男が射精するためだろう。腰の動きが激しくなった。
 小屋中ベッドのギシギシ音が響いてるってのに、こんなとこいられるかっての。
 女も女だ。顔がちょっと良くて身体も見た目がいいなら誰でもいいのかって。
 分かってた。分かってたよ!
 男が女断ちなんて出来るわけないって。




 
 森の小屋を飛び出して母さんの家に帰ると、鍵がかかってなくてすんなり扉が開く。


 イヤな汗が噴き出した。
  
 部屋の中におかれた大きいベッドと古臭いソファ。それだけ。他はなにもない。身の回りの物は全部空っぽだった。

 誰もいない。


 あわてて母さんとわたしが働いてた食堂に行くと、おかみに「どこに行ってたんだい!」と肩を揺さぶられる。
 
「あんたの母さんと父さんの乗った馬車が事故に遭ったんだよ!今すぐ憲兵の駐在所に行くんだ」

 最初はなにを言われてるか分からなかった。
 母さんと父さんが馬車に乗ってて事故……?
 
 
 うそ……っ。

 わたしを残してどこに?
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

処理中です...