【完結】とある侯爵令嬢ですが婚約破棄されました~おバカな王子様は要らないので従妹に差し上げます~

しのみやあろん

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4:ルキウス第一王子視点②

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 そして半年前、穏やかな日常が一転した。


「エリィ、その方はだぁれ?」
 
 歩くたびに綿菓子のように揺れるストロベリーブロンド。
 赤い瞳をキラキラさせている少女が、僕たちが茶を嗜むガゼボに近づいてくる。

 まだ少し肌寒かったが、日中ようやく暖かくなってきたので、エレオノーラがお気に入りのこのガゼボでお茶をすることになったのだ。
 見知らぬ少女に僕の護衛騎士が一斉に警戒する。侯爵家の侍女や執事は戸惑いを隠せないようだ。

「シャーロッテ、なぜここに……」
 内心は驚いているだろうに、努めて表情には出すまいとエレオノーラが口にする。こういうところは王妃教育の賜物なんだろうな。

「いやぁね、召使いに聞いたらすぐ分かるし!エリィのお客さまが来てるって聞いたから挨拶しなきゃ、って」

「……そう。ルキウス殿下、こちらは父の弟の娘のシャーロッテですわ。シャーロッテ、この御方は…」
 エレオノーラが最後まで言う前に、びっくりした少女に言葉が遮られた。僕が王族であるということに驚いたんだろう。
「殿下!?王子さまなんですかぁ?すごぉい!初めて見ました!」

 へぇ。こんな憧れの眼差しで見つめられたのは久しぶりだ。気分がいいな。
「ははは。良かったら一緒にお茶をどうだい?」

「うわぁ、いいんですかぁ?ルキウスさま嬉しいっ」
 ぴょんぴょん跳ねながら喜びを露わにする彼女が可愛い。微笑ましく眺めているとエレオノーラの硬い声が飛んでくる。
「シャーロッテ。王族の方の名前呼びは不敬ですよ。ルキウス殿下、とお呼びなさい」

「えぇー?また小言?」

 こんな場所で険悪な雰囲気にならないで欲しい。エレオノーラはお堅くて空気を読まないところがあるからな。

「まあ、いいじゃないかエレオノーラ。君の従妹なんだし」
「ふふっ。ルキウスさま優しい~」

 彼女が僕への態度だけ親密なのが心地よい。こんな特別扱いはいつぶりだろう。

 侯爵家の執事がエレオノーラの隣に席を用意し始めると、シャーロッテが頬を膨らませてむっとする。

「ちょっとぉ。なんでルキウスさまの隣に用意しないの?」

 執事が困ったように手を止めて、エレオノーラのほうをちらりと見た。

「このお茶席は私の主催です。オットー、私の隣に席を設けて頂戴」

 ほっとしたようにオットーと呼ばれた執事が、準備を再開する。

 椅子が用意されるなり、不満気にどさっと腰を下ろしたシャーロッテは僕のほうを見て言った。
「わたしが主催したら隣に席を用意しますねぇ?いーっぱいルキウスさまと近くでおしゃべりしたいですもん!」

 茶席がお開きになって屋敷に散歩がてら戻る時にはシャーロッテはすっかりくつろいでいて、僕の腕に自分のそれを絡ませてくる。
 僕は後ろを歩くエレオノーラには構わず、庭園の咲き始めた花を見ることもなく、思ったよりな、と押し付けられている胸の感触を楽しんでいた。



 それからは二人でいると必ずシャーロッテがやってくる。

 最初こそ、婚約者がいるんだけどな、と思っていたけど、こんなに思いっきり好意を持たれるのは満更でもないし。
 親交を深めるために二人でずっと会ってきた茶席だったけど、そのうち三人で過ごすようになった。


 シャーロッテはいつも華やかなドレスと宝飾品を身に着けていた。
 茶席はいつも昼間で、エレオノーラは肩を出さない身持ちの堅そうなドレスばかりだから、二人の違いが凄いことになっている。
 ……うん、でも目の保養になるからいいんじゃないかな。エレオノーラはもうちょっと露出してくれたほうが楽しめていいんだけど。ああ、けど露出してたら肌に触りたくなるだろうから、見えてなくて丁度いいのかもしれない。

『お父さまに愛されすぎて困っちゃうくらい。シャーロッテ・リンゼヴァイドってすごくいい名前ですよねぇ。そう思いません?ルキウスさまぁ』

 そうか。そんなに侯爵に可愛がられてるのか。確かにいつも服も宝飾品もいい物を身に着けてるもんな。それにこんなに愛情表現が豊かなら、下手をしたら実の娘のエレオノーラより大事にされてるんじゃないか?彼女はあまり宝飾品を持っていないみたいだし。

 僕の腕に相変わらずしがみつき、耳に口を近づけて囁いてくるものだから、耳孔が息でくすぐられて妙な感覚がこみ上げてくる。



 エレオノーラの教育がますます進み、今では政務を少しずつ補佐するようになって、月一だった茶席の予定も不規則になっていく。
 なのでエレオノーラが王妃教育のため王宮にやってきて侯爵邸を不在にする時は、シャーロッテと一緒に二人で茶を楽しんだ。

 もうシャーロッテはリンゼヴァイド侯爵令嬢なんだから構わないと、そう思って。
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