4 / 25
4:ルキウス第一王子視点②
しおりを挟むそして半年前、穏やかな日常が一転した。
「エリィ、その方はだぁれ?」
歩くたびに綿菓子のように揺れるストロベリーブロンド。
赤い瞳をキラキラさせている少女が、僕たちが茶を嗜むガゼボに近づいてくる。
まだ少し肌寒かったが、日中ようやく暖かくなってきたので、エレオノーラがお気に入りのこのガゼボでお茶をすることになったのだ。
見知らぬ少女に僕の護衛騎士が一斉に警戒する。侯爵家の侍女や執事は戸惑いを隠せないようだ。
「シャーロッテ、なぜここに……」
内心は驚いているだろうに、努めて表情には出すまいとエレオノーラが口にする。こういうところは王妃教育の賜物なんだろうな。
「いやぁね、召使いに聞いたらすぐ分かるし!エリィのお客さまが来てるって聞いたから挨拶しなきゃ、って」
「……そう。ルキウス殿下、こちらは父の弟の娘のシャーロッテですわ。シャーロッテ、この御方は…」
エレオノーラが最後まで言う前に、びっくりした少女に言葉が遮られた。僕が王族であるということに驚いたんだろう。
「殿下!?王子さまなんですかぁ?すごぉい!初めて見ました!」
へぇ。こんな憧れの眼差しで見つめられたのは久しぶりだ。気分がいいな。
「ははは。良かったら一緒にお茶をどうだい?」
「うわぁ、いいんですかぁ?ルキウスさま嬉しいっ」
ぴょんぴょん跳ねながら喜びを露わにする彼女が可愛い。微笑ましく眺めているとエレオノーラの硬い声が飛んでくる。
「シャーロッテ。王族の方の名前呼びは不敬ですよ。ルキウス殿下、とお呼びなさい」
「えぇー?また小言?」
こんな場所で険悪な雰囲気にならないで欲しい。エレオノーラはお堅くて空気を読まないところがあるからな。
「まあ、いいじゃないかエレオノーラ。君の従妹なんだし」
「ふふっ。ルキウスさま優しい~」
彼女が僕への態度だけ親密なのが心地よい。こんな特別扱いはいつぶりだろう。
侯爵家の執事がエレオノーラの隣に席を用意し始めると、シャーロッテが頬を膨らませてむっとする。
「ちょっとぉ。なんでルキウスさまの隣に用意しないの?」
執事が困ったように手を止めて、エレオノーラのほうをちらりと見た。
「このお茶席は私の主催です。オットー、私の隣に席を設けて頂戴」
ほっとしたようにオットーと呼ばれた執事が、準備を再開する。
椅子が用意されるなり、不満気にどさっと腰を下ろしたシャーロッテは僕のほうを見て言った。
「わたしが主催したら隣に席を用意しますねぇ?いーっぱいルキウスさまと近くでおしゃべりしたいですもん!」
茶席がお開きになって屋敷に散歩がてら戻る時にはシャーロッテはすっかりくつろいでいて、僕の腕に自分のそれを絡ませてくる。
僕は後ろを歩くエレオノーラには構わず、庭園の咲き始めた花を見ることもなく、思ったよりあるな、と押し付けられている胸の感触を楽しんでいた。
それからは二人でいると必ずシャーロッテがやってくる。
最初こそ、婚約者がいるんだけどな、と思っていたけど、こんなに思いっきり好意を持たれるのは満更でもないし。
親交を深めるために二人でずっと会ってきた茶席だったけど、そのうち三人で過ごすようになった。
シャーロッテはいつも華やかなドレスと宝飾品を身に着けていた。
茶席はいつも昼間で、エレオノーラは肩を出さない身持ちの堅そうなドレスばかりだから、二人の違いが凄いことになっている。
……うん、でも目の保養になるからいいんじゃないかな。エレオノーラはもうちょっと露出してくれたほうが楽しめていいんだけど。ああ、けど露出してたら肌に触りたくなるだろうから、見えてなくて丁度いいのかもしれない。
『お父さまに愛されすぎて困っちゃうくらい。シャーロッテ・リンゼヴァイドってすごくいい名前ですよねぇ。そう思いません?ルキウスさまぁ』
そうか。そんなに侯爵に可愛がられてるのか。確かにいつも服も宝飾品もいい物を身に着けてるもんな。それにこんなに愛情表現が豊かなら、下手をしたら実の娘のエレオノーラより大事にされてるんじゃないか?彼女はあまり宝飾品を持っていないみたいだし。
僕の腕に相変わらずしがみつき、耳に口を近づけて囁いてくるものだから、耳孔が息でくすぐられて妙な感覚がこみ上げてくる。
エレオノーラの教育がますます進み、今では政務を少しずつ補佐するようになって、月一だった茶席の予定も不規則になっていく。
なのでエレオノーラが王妃教育のため王宮にやってきて侯爵邸を不在にする時は、シャーロッテと一緒に二人で茶を楽しんだ。
もうシャーロッテはリンゼヴァイド侯爵令嬢なんだから構わないと、そう思って。
138
お気に入りに追加
2,836
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる