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3:ルキウス第一王子視点①
しおりを挟む僕はルキウス・グイド・ウェステル。
国名であるウェステルを名に持つ第一王子だ。
まだ立太子式は行われてはいないが、おそらく学園を卒業後に正式に王太子になり、ゆくゆくは国王となるだろう。
そんな僕の婚約者として名が挙がったのは、代々主席外交官を務めてきたリンゼヴァイド侯爵家の一人娘であるエレオノーラだった。
侯爵家で催された茶会で初めて会った時、僕は十歳、エレオノーラは八歳だった。
侯爵家に嫁いできたエレオノーラの母君は、美姫と名高い隣国の第二公女で、陽の光のような金髪と、湖水のような青い瞳の持ち主だ。何でも公女のほうが、外交で自国にやってきた侯爵を見染めて積極的に婚姻話を持ち掛けたという話だった。
エレオノーラは侯爵家特有の銀髪と、母君の透き通る青い目を受け継いでいて、既に美少女と名高かった。
初対面で自己紹介をした時、お人形のようなその姿にドキドキしてしまい、
「お前が僕の婚約者か。ま、まあ、婚姻を執り行う頃には少しはましになってるだろうし」
なんて言ってしまったが。
僕と婚約していずれは王族に連なることが出来るんだから、これくらい言ってもいいだろう。
「はい、殿下。相応しい姿になれるよう、努力いたしますわ」
ちょっと哀しそうに微笑むエレオノーラの顔をそれ以上見ていられなくて、何故かちくりと胸が痛み早々に茶会から退出したことを覚えている。
隔週で行われる侯爵邸での茶席と、たまにお忍びで王都のカフェなどに行ったりしながら何年かの月日が流れた。彼女と共に過ごすのが当たり前になり、"こうやって穏やかに年をとっていくのも悪くないな"と思えるようになった頃、僕は王子教育のままだったが、エレオノーラは王子妃教育を早々に終え、王妃教育へ移行した。
この頃から僕の房事教育が始まると、エレオノーラに会うたびに、彼女のドレスからのぞく白い肌、膨らみ始めた胸の谷間が目に焼き付いて離れなくなる。こんなきれいな子が僕の婚約者で、いずれ全部自分のものになるのかと思うと興奮が収まらない。
一度周りの目を盗んで彼女の胸を触ろうとしたけど、拒まれてそれっきりだった。
僕は十五の秋、彼女より一足先に学園に入学した。
王族は必ず生徒会の役職に就かなければならないため、なかなか時間の調整が難しく隔週の茶席は月一になっていた。
二学年に進級すると生徒会長になった。学園は三年制で貴族の子息令嬢のみが入学を許されている。
生徒会役員専用の豪華な生徒会室があって、昼食はいつもその部屋で役員たちと一緒にとっていた。
ふと来年はきっとエレオノーラもこの部屋で一緒に昼食をとっているだろうなと思った。入学試験の最優秀者が自動で生徒会役員に任命されるからだ。
エレオノーラが最優秀間違いなしの反面、僕はといえば学業は好きでは無く、身体を動かすのも得意では無かった。けど僕には尊い王族の血が流れているんだから充分過ぎるくらいだろう?
それより女の話をしているほうがずっといい。
入学当時女を知っているやつは少なくて、僕が女の話をすると皆顔を真っ赤にして、どうだったと尋ねてくるのが面白かったな。
二学年になって学園生活にもすっかり慣れると、紹介された側近候補たちは全員男ということもあり、ざっくばらんに女の話で盛り上がったりする。
早い話が猥談だ。
側近候補はみな上級貴族の嫡男だからだろう、僕と同じように房事教育を受けていて既に経験済みらしく、どうやったら女が悦ぶか娼館でいろいろ試しているやつもいた。
もう婚約者とヤッてるやつもいたし、メイドや町娘といった平民に手あたり次第手を付けているやつもいて、若い娘のムチムチした肌の滑らかさを語って来るのがムカつく。
『いつもはツンと澄ましてるのに、荒っぽくすると善がって雌になるのが堪らないんだ。そっちのほうが気持ちよさそうだし』なんて得意気に言われるのが腹が立つ。どれだけ使い込んでるんだよ。
エレオノーラは絶対触らせてもくれない。
房事教育の実践では女の中に入る方法を教わって、その後は腰を振りたくるのが気持ちよかったから、女の身体はほとんど触らなかったんだよな。だからなのか余計に瑞々しい彼女の白い肌を触りたいという欲望だけが募っていく。
時はエレオノーラの美貌をますます磨き上げ、周囲は彼女の優秀さを褒めそやす。その声が大きくなるにつれ、常に自分と彼女が比較されていることに気付いてしまうようになった。
「リンゼヴァイド侯爵令嬢は未来の国母として申し分ない。このような女性が婚約者で本当に殿下はお幸せですな」
違うだろう。第一王子の僕が婚約者だからエレオノーラが幸せなんだ。そこ間違うなよ。
「リンゼヴァイド侯爵令嬢は何でもお出来になるから――」
僕の婚約者なんだから当然だろう。何でも出来て当たり前じゃなくちゃ困るのはこっちなんだから。
面白くない、もやっとした感情が常に沸いてしまうのを止められなくなっていた。
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