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2:侯爵令嬢の罪状
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私が表情を変えずにただ聞いているだけなのが面白くないのか、次から次へとまくし立てるシャーロッテ。
「ドレスや髪飾りを学園で使いたかったので貸してくださいとお願いしても、『貧相な平民暮らしをしてきたあなたとではサイズも合わないし、瞳の色も髪の色も違うでしょう?』と言って何一つ貸してくれないのです……せっかく入学できたのに」
「このパーティでは夜用のドレスが必要だったのに、作らせてくれなかったのです!昼用のドレスしかなくて……本当にどうしようかと……」
同情一杯の目でルキウス殿下がシャーロッテを慰めます。
「大変だったな……。贈ることが出来て良かった。今の薔薇色のドレスと髪飾りはとても似合っているよ。その首飾りは侯爵からかな?いろいろ用立ててくれているのだろう?」
婚約者でもない女性にイブニングドレスを贈った、とは。
賢明な皆様はとっくにご存知でしょうが、私には一度も贈り物などして下さったことのないお方です。
私のほうからは婚約した最初の年に、殿下に宝飾品で、かつ第一王子という身分に相応しい見栄えのする物をと、事細かに指定がございましたので、その後も毎年の誕生日の贈り物は欠かしたことはございません。
婚約者のいる者がそうでない女性にイブニングドレスを送るのは、"愛人として迎えたい"と言っているのと同義なのです。
貴族家での生活がまだ半年ほどのシャーロッテが知らないのはしょうがないとはいえ、殿下がご存じでないとは思えません。
周りがざわっとさざめいてすぐ静かになります。
シャーロッテはドレスを見下ろしてぱぁっと満面の笑顔になりました。
「ルキウスさま、ありがとうございます!このドレスとっても素敵です!
豪華だし、好きなピンクだし!
それにそうなのですっ!
あの家でお父さまだけはわたしをとっても可愛がってくれるのですっ!
ドレスも宝石も、何でも好きなだけ買っていいからって。
毎日仕立屋や商人を呼んでいーっぱい!
それに比べてエリィはわたしのことが嫌いなんです絶対。
ほんとひどいことばっかり……」
また鼻をすすります。
今度は思いっきりすすったのか音はとても大きく、周りの女性たちが不快そうに扇で口元を隠しました。
鼻をすする音はマナーも悪く、人に不快な印象を与えるのだと何度も言ったのですが、興奮してしまって止まらないようです。
「学園では『私が使っている物をなぜ貸せますの』と嫌味を言われて、ノートも貸してくれないし」
「一人で食べるのは寂しいので昼食をご一緒したい、とお願いしても、『生徒会の方々とご一緒なのですから無理なのです』とか言っちゃって断られましたし。
権力を持ってる方に媚びをうるのに必死なのが見え見えなんですよぉ。
半年も一緒に暮らしてる妹のことなんか知らんぷり……。
普通なら慣れない学園生活に戸惑ってる妹を絶対放置したりしないですよねぇ?」
怒りで顔を真っ赤にした殿下がますますこちらを睨みつけてきます。
「私とエレオノーラが一緒に移動していたときに、直接言ってきてくれて良かった。もうシャーロッテは生徒会室で一緒に食事が出来るから安心するといいよ。そういうことでエレオノーラ、お前はどこへなりと好きなところで食事をとるといい」
「ルキウスさま……嬉しい……っ」
腰をクネクネさせているので、殿下の腕を掴んだまま悶えているようにしか見えなくて、周り中が異様な静けさのままですわね。
「まだまだたくさんあるのですっ!エリィが友達とカフェに行くときも連れて行ってくれないし」
「エリィがお茶をしているときだって、ルキウスさまの隣に座らせてくれないし。
しかも、名前で呼ぶな、殿下と呼べ、と命令してくるのです!絶対嫌がらせですよぉ!」
「エリィとルキウスさまが街にお忍びで出かけるときも、一緒に連れて行ってくれないし」
「侯爵邸の夕食も、わたしのリクエストは何一つ聞いてくれないし」
まあ、本当に『――してくれない』と、自分の意に染まぬ他者の行動をここまで不満に思う人も珍しいのではないでしょうか。
しかも最後のは私と関係ありまして?
ルキウス殿下が大きくため息をつくと、憎しみのこもった表情で私を見下ろします。
「妹にそのような浅ましい行為を平然と行う心根は、もはや治すことも不可能だろう。その血が連綿と受け継がれてきた王家のそれに混じると考えるだけでおぞましい。よってエレオノーラ・リンゼヴァイド嬢との婚約を破棄し、然るべき時期ののち、シャーロッテ・リンゼヴァイド嬢と婚約を結ぶ!」
「ドレスや髪飾りを学園で使いたかったので貸してくださいとお願いしても、『貧相な平民暮らしをしてきたあなたとではサイズも合わないし、瞳の色も髪の色も違うでしょう?』と言って何一つ貸してくれないのです……せっかく入学できたのに」
「このパーティでは夜用のドレスが必要だったのに、作らせてくれなかったのです!昼用のドレスしかなくて……本当にどうしようかと……」
同情一杯の目でルキウス殿下がシャーロッテを慰めます。
「大変だったな……。贈ることが出来て良かった。今の薔薇色のドレスと髪飾りはとても似合っているよ。その首飾りは侯爵からかな?いろいろ用立ててくれているのだろう?」
婚約者でもない女性にイブニングドレスを贈った、とは。
賢明な皆様はとっくにご存知でしょうが、私には一度も贈り物などして下さったことのないお方です。
私のほうからは婚約した最初の年に、殿下に宝飾品で、かつ第一王子という身分に相応しい見栄えのする物をと、事細かに指定がございましたので、その後も毎年の誕生日の贈り物は欠かしたことはございません。
婚約者のいる者がそうでない女性にイブニングドレスを送るのは、"愛人として迎えたい"と言っているのと同義なのです。
貴族家での生活がまだ半年ほどのシャーロッテが知らないのはしょうがないとはいえ、殿下がご存じでないとは思えません。
周りがざわっとさざめいてすぐ静かになります。
シャーロッテはドレスを見下ろしてぱぁっと満面の笑顔になりました。
「ルキウスさま、ありがとうございます!このドレスとっても素敵です!
豪華だし、好きなピンクだし!
それにそうなのですっ!
あの家でお父さまだけはわたしをとっても可愛がってくれるのですっ!
ドレスも宝石も、何でも好きなだけ買っていいからって。
毎日仕立屋や商人を呼んでいーっぱい!
それに比べてエリィはわたしのことが嫌いなんです絶対。
ほんとひどいことばっかり……」
また鼻をすすります。
今度は思いっきりすすったのか音はとても大きく、周りの女性たちが不快そうに扇で口元を隠しました。
鼻をすする音はマナーも悪く、人に不快な印象を与えるのだと何度も言ったのですが、興奮してしまって止まらないようです。
「学園では『私が使っている物をなぜ貸せますの』と嫌味を言われて、ノートも貸してくれないし」
「一人で食べるのは寂しいので昼食をご一緒したい、とお願いしても、『生徒会の方々とご一緒なのですから無理なのです』とか言っちゃって断られましたし。
権力を持ってる方に媚びをうるのに必死なのが見え見えなんですよぉ。
半年も一緒に暮らしてる妹のことなんか知らんぷり……。
普通なら慣れない学園生活に戸惑ってる妹を絶対放置したりしないですよねぇ?」
怒りで顔を真っ赤にした殿下がますますこちらを睨みつけてきます。
「私とエレオノーラが一緒に移動していたときに、直接言ってきてくれて良かった。もうシャーロッテは生徒会室で一緒に食事が出来るから安心するといいよ。そういうことでエレオノーラ、お前はどこへなりと好きなところで食事をとるといい」
「ルキウスさま……嬉しい……っ」
腰をクネクネさせているので、殿下の腕を掴んだまま悶えているようにしか見えなくて、周り中が異様な静けさのままですわね。
「まだまだたくさんあるのですっ!エリィが友達とカフェに行くときも連れて行ってくれないし」
「エリィがお茶をしているときだって、ルキウスさまの隣に座らせてくれないし。
しかも、名前で呼ぶな、殿下と呼べ、と命令してくるのです!絶対嫌がらせですよぉ!」
「エリィとルキウスさまが街にお忍びで出かけるときも、一緒に連れて行ってくれないし」
「侯爵邸の夕食も、わたしのリクエストは何一つ聞いてくれないし」
まあ、本当に『――してくれない』と、自分の意に染まぬ他者の行動をここまで不満に思う人も珍しいのではないでしょうか。
しかも最後のは私と関係ありまして?
ルキウス殿下が大きくため息をつくと、憎しみのこもった表情で私を見下ろします。
「妹にそのような浅ましい行為を平然と行う心根は、もはや治すことも不可能だろう。その血が連綿と受け継がれてきた王家のそれに混じると考えるだけでおぞましい。よってエレオノーラ・リンゼヴァイド嬢との婚約を破棄し、然るべき時期ののち、シャーロッテ・リンゼヴァイド嬢と婚約を結ぶ!」
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