【完結】とある侯爵令嬢ですが婚約破棄されました~おバカな王子様は要らないので従妹に差し上げます~

しのみやあろん

文字の大きさ
上 下
1 / 25

1:婚約破棄

しおりを挟む
「エレオノーラ・リンゼヴァイド侯爵令嬢!君との婚約を破棄する!」


 新入生を歓迎する貴族学園のパーティで、それは起こりました。


 わたくしはリンゼヴァイド侯爵の娘エレオノーラ・リンゼヴァイドと申します。


 今まさに第一王子であり婚約者のルキウス殿下に指さされている当人です。
 人を指さすだなんて、それが失礼に当たるということを学んでらっしゃらないのでは?と思いますが今更です。

 このような場で、政略的に結ばれた婚約を破棄するだなんて。
 国王陛下はご存知なのでしょうか。
 自主性を重んじる学風のため、このパーティの主催は生徒会であり、国王陛下はこの場にはいらっしゃいません。
 これ幸いと不在を利用して婚約破棄を声高らかに宣言なさったのでしょうけれど。

 新入生はまだ一週間しか学園生活を送っていないのですよ。
 訳も分からずきょとんとしている学生の何と多いことか。

「わたくしに至らない点がございましたか?婚約破棄の理由をお聞かせいただけますでしょうか」

 ルキウス殿下がフンと鼻を鳴らして大仰に顔をしかめます。

「言わないと分からない察しの悪さは相変わらずだな。君は妹になったシャーロッテを貴族らしからぬ態度で貶めた挙句、学園内で虐めたよな?そうだろう?シャーロッテ」

 その言葉を合図にルキウス殿下の後ろから、タタタと何故か小走りで走ってきた従妹がむんずと彼の左腕を掴んで止まります。
 鍛えるのも、ついでに勉学もお嫌いな殿下は、おっとっととつんのめっております。

「こら、だめじゃないか。一緒に倒れてしまうところだった」

「……きゃっ、ごめんなさいルキウスさまぁ。エリィが怖くて……つい」

 やはり殿下は婚約者の私ではなく、シャーロッテをエスコートしていたのですね。
 前日になってエスコート出来ないと理由も明確にされないまま通達を頂きましたし、こちらは今日この場が婚約破棄の場になると情報を掴んでおりましたので驚きはしませんが。

 それにしてもシャーロッテには、私の名前を略称で呼ばないようにと再三言っているのですが、改めるつもりは無いようです。もう言うのも疲れ果ててしまいましたのでそのままになっております。

 

 ストロベリーブロンドをフワフワとさせ、赤い瞳をキラキラさせながら、私のほうを睨むように一瞥して、次の瞬間にはにっこりとルキウス殿下の腕を自分の胸に押し当てながら見上げます。
 
 彼女の表情が一瞬で変わることが驚きです。百面相ですか?それとも変わり身の術?
 怖がっている者の表情ではないですよね?
 こちら側にいらっしゃるパーティの参加者の皆様には丸見えですけれど。
 知らぬは殿下ばかりなり。

 場がしんと静まり返っていることも、その意味も二人は気付いていないのでしょう。
 

 腕を胸に押し当てられているルキウス殿下が鼻の下を伸ばしたかと思うと、王族スマイルでシャーロッテを見下ろして次の瞬間には私を睨みつけてきます。一瞬で表情が変わるところは二人ともよく似ておりますわ。

「……ああ、本当にシャーロッテは可愛いな。それに比べて……。私が守るからエレオノーラからどのように虐げられてきたか告発出来るかい?」

「……怖いけど、みんなにエリィのひどいおこないのことをわかって欲しいので頑張ってみます!私が侯爵家に住むようになった日、『血の卑しい平民ふぜいが!』ってののしられて髪を引っ張られて引きずられたんです……!お父さまが庇ってくれましたけど、本当に怖くて……っ」

 そこでスンと鼻をすすります。
 殿下が空いているほうの手でシャーロッテの肩をさすりながら、ギッと睨んできます。

 もちろんそのようなことをした覚えはありません。



 シャーロッテは私のお父様の弟君、すなわち叔父様が、街の食堂で給仕をしていた女性との間に成した子供です。とはいっても彼女は母方似なのでしょうか、全くといっていい程叔父様とは似ておりません。

 侯爵の家系は銀髪が色濃く受け継がれ、矢車菊色をした濃紺の瞳の者がほとんどなのです。

 父と弟と私も侯爵家の血を受け継いだ銀髪です。もっとも私は母と同じ青い目ですが。
 叔父様も多分に漏れず銀の髪・濃紺の瞳で女性が放っておかない美貌をお持ちでした。それに比例して女性遍歴は幅広く、ご結婚されてからも自重はなさりませんでした。
 
 シャーロッテの存在が明るみになったとき、入り婿として継ぐはずだった伯爵家に離縁されて追い出されたとうかがっております。

 代が変わって当主となったお父様に泣きついて侯爵家に戻ろうとしましたが、お母様は不義を働いた件を重く見て、厳しく反対なさったのでそれは叶いませんでした。
 お父様はお母様には甘い一面がおありですし。
 お母様が否やを叩きつければそれで終わりです。

 周りの者たちが散々諫めましたのに、行いを改めなかった叔父様に責があるのは当然ではないでしょうか。
 後継者を得るためという大義名分の下、貴族社会では比較的愛人問題に寛容ではありますが、入り婿の立場の者が女性に放埓なのはあってはならない事です。入り婿と外で作った愛人との子供には、そのお家の血が一滴たりとも流れていないのですから。
 そういう理由で、シャーロッテが伯爵家の家名を名乗ることは出来ません。
 
 結局他に行くところも無かったのでしょう。叔父様はシャーロッテを産んだ女性の住まいで、親子三人でお暮しになってらっしゃったようでした。


 状況が一転したのは、半年ほど前に彼女の両親が馬車の事故で亡くなったと、侯爵家に憲兵から連絡が入った時からでした。
 

 両親を失ったシャーロッテに住む場所を与えるために、お父様が彼女を侯爵邸に連れてきたのです――
 
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

伯爵令嬢は王子に婚約破棄され生きたまま鳥葬刑にされた。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 4話で完結です。 応援お気に入り登録お願いします。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...