上 下
15 / 17

15 たくさんの友達が僕にしてくれたこと

しおりを挟む
 夏の間には何度か商人たちがやってきて、牧草サイレージ用のトウモロコシと食用の緑と白のアスパラガスを大量に売りにくる。商人たちは服装がちょっと立派になっていた。

 あれ?とっくに旬が過ぎてるけれどそれでも美味しいアスパラガスはともかく、このトウモロコシは……。
 思わず馬車から下ろされているどでかい葉っぱ付きのトウモロコシに見入っていると、今はもう懐かしい初夏の頃、見本の種をくれた一番若い商人がにっかと笑った。
 彼は言う。辺境伯家門が農家になっちゃった、と。どういうことだろ?疑問は尽きない。


 夏は農家には忙しい季節だ。人の訪れも頻繁である。

 徒歩で一時間も歩けば村もあるし、荷車を馬やロバで曳いて来られるなら町も日帰りコースである。農家の従業員が荷車にいろいろな商品を積んで売りに行っては日常品のあれこれを買って戻ってくる。
 逆にチーズやバターや牛乳、卵を買いに来る人もいれば、肉を買いに来る人もいる。商人たちが持っていた燻製肉は全てここの肉だった。


 繁殖用のとっても立派な種雄牛を連れてきた人がいたので、アーサーはこの人の連絡先をしっかり聞いておいた。

 


 毎日毎日土を掘り返す。コツコツと。
 アクアオッジ家門は積み重ねることを厭わない一族だった。

 アーサーの手はマメが出来て潰れてを繰り返し、手の平はどんどん硬くなっていった。

 もうなまっちろい、とは誰も思わない身体になっていた――



 そしてその日はやってきた。



 毎日こうして耕しているけれど、クローバーを植えて根付かせるのは大変だなあどうしようかなぁと、のんびり考えていると、少しずつ増えていた渡り鳥たちが今や上空いっぱいに飛んでいる。
 

 空を覆い尽くさんばかりの真っ黒い鳥の影に、農家のみんなが気が付いて、余りの異常さに空を指さしながら一斉に見上げた。
  

 クローバーはここからここまで、というのをちゃんと聞いていた渡り鳥たちがズタ袋から各々クローバーを嘴に咥えていて、アーサーとミミズたちが夏の間耕した荒野に一斉に落とした。

 これにはアーサーもビックリだ。
 足元ではミミズたちが、"旅立つときにてつだうっていってたうー""土つくりてつだうまいうー"そう言ってる気がした。


 
 【動物スキル?】のおかげで出来たたくさんの友達鳥たちが、南に旅立つ最後の日にアーサーが一番求めていたことをしてくれたのだ――


 
 クローバーを落とし終えた渡り鳥たちはあっさりと飛んで行ってしまった。
 
 お礼を言いたかったのに。アーサーは嬉しくて泣いた。ありがとう。優しい僕の友達たち……君たちの無事を祈ってるよ……


 夕食の時間になり、アーサーはみんなの質問攻めにあうが、「【動物スキル?】のおかげです」と言いながら渡り鳥たちのことを想って泣いた。みんなが優しく抱きしめてくれるので余計に大泣きだった。
 


 翌日、クローバー生息予定地に向かうと、アーサーは絶句する。

 

 真っ当ではないクローバーたちは見事に根付いていた。

 動物たちはクローバーが普通じゃないことをちゃんと知っていたのだ。



 ◇◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

10秒先が見えるだけの普通で不遇な付与術士だった僕は、死の宣告が出来るギルド職員になりました

まったりー
ファンタジー
普通の付与魔法士だった主人公は勇者PTで強くなり、ある日スキルが進化して未来が見える様になりました。 スキルを使い勇者PTを強くしていきましたが、未来を見た時自分が追放されることを知り、その未来を避ける為に未来予知のスキルを使いましたが、どんなに繰り返してもその未来は変わる事はありませんでした。 そして、勇者PTにいる情熱が無くなり、他の道を歩むことに決めた主人公は冒険者ギルドの職員になり、死なない様助言をするようになりました。

バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン
ファンタジー
【この時計を持つ者に、権利と責務を与える。】…その言葉が刻まれた時計を持つ2人の少女が出会い物語が始まる… 【HOTランキング最高22位】記録ありがとうございます。 『メソポタミア』×『ダークファンタジー』 ×『サスペンス』 バビロニア帝国西圏側の第四騎士団で使用人として働く源南花は、成人として認められる記念すべき18回目の誕生日が生憎の曇天で少し憂鬱な朝を迎えていた… 本来ならば、魔術を扱える者証である神格を持つ者の中でも、更に優秀な一部の人間しか、 騎士団に所属することは出来ないのだが… 源南花は、神格を有していないにも関わらず、騎士団へ所属出来る例外的な理由がある。それは… 『せめて娘が成人するまでは生かしてやって欲しい…』 それが、南花の父であり、帝国随一の武器職人だった源鉄之助の遺言… その遺言通り保護された、南花は、父の意志を銃職人を目指す形で引き継ぐ… 南花自身が誕生日の食材の一つとしてハイイロガンを、ルームメイトであるエルフの少女マリアと共に狩猟へと向かう。 その一方、工業化・化学の進歩が著しい帝国東圏側にある、士官学校に通う… アリサ・クロウは、自身の出自に関するイジメを受けていた。 無神格の2人、南花とアリサの出会いが、帝国の行く末を変えていく… 【1章.地下遊演地】 【2章.ギルタブリル討伐】 【3章.無神格と魔女の血】 【4章.モネータとハンムラビ】 【終章.バビロニア・オブ・リビルド】 【-epilogue-】迄投稿し完結となります。 続編に当たる『ハイカラ・オブ・リビルド』の投稿開始に合わせて、【-epilogue-】に新規エピソードを追加しました。 ※ダークファンタジーと言うジャンル上、過激な描写だと受け取ってしまわれるシーンもあるかと思いますが、ご了承いただけると幸いです。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・出来事とはいっさい関係がありません。 『カクヨム』と『小説家になろう』と『ノベルアップ+』にて、同作品を公開しております。

宮廷鍛冶師、贋作しか作れないと追放されたが実は本物の聖剣や魔剣を鍛錬できていた~俺の代わりが見つからずに困り果てているらしいが、もう遅い。

つくも
ファンタジー
フェイ・レプリカは宮廷鍛冶師として王宮で働き、聖剣や魔剣の贋作を作っていた。贋作鍛冶師として馬鹿にされ、低賃金で長時間労働の過酷な環境の中、ひたすら贋作を作り続ける。 そんな環境の中、フェイは贋作鍛冶師の代わりなどいくらでもいると国王に追放される。 フェイは道中で盗賊に襲われているエルフの皇女を救い、エルフの国に招かれる。まともな武具を持たないエルフの民に武器や武具を作る専属鍛冶師になったのだ。 しかしフェイ自身も国王も知らなかった。 贋作を作り続けたフェイが気づいたら本物の聖剣や魔剣を鍛錬できるようになっていた事。そして世界最強の鍛冶師になっていた事を。 フェイを失った王国は製造する武具が粗悪品の贋作ばかりで売れなくなり没落する一方、フェイはエルフの国で最高に楽しい鍛錬ライフを送るのであった。

Heart

星蘭
ファンタジー
ある日突然世界を救うため魔王を倒す勇者として選ばれたリオニス・ラズフィールド。 特別な力を持つ訳ではない。特別強い訳でもない。世界を救いたいなんて考えたことも当然ない。 なんでそんな自分が、と思いながら旅立つ彼の行く先は……―― 平凡な勇者と仲間達の冒険の物語。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

悪役令嬢のデスゲーム ~婚約破棄の時、それは復讐の始まりです~

せんぽー
ファンタジー
 ★完結しました!★  転生した悪役令嬢アドヴィナ・サクラメントは婚約破棄されたと同時に、デスゲームを始めた。  理由は身に覚えのない罪で婚約破棄されたからであり、メインキャラや生徒全員に見捨てられたからであり――――そして、何より転生前に殺し合いゲーム好きだったからであり。  「さぁ! さぁ! 存分に殺し合いましょう!」  デスゲームの開始を告げる高らかな声とともに、悪役令嬢は本物の悪役へと覚醒する――――。  ※全58話です。  ※主人公を含め、変人多めです。ご注意ください。  ※なろう・カクヨム・pixivにも投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...