3 / 29
本章
2 カーラの修行はアスパラガス
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
カーラが自分の能力に最初に目覚めたのは、四年前の六歳のときだった。
母が妊娠中ということもあり、たくさん甘えたかったけれど我慢しないといけないと分かっていたから、寂しいのが我慢出来なくなると、アーサーと一緒にアクアオッジ家にやってきた雌牛のミョルダのところに行って一緒に寝たりもした。
大好物のアスパラガス畑で遊ぶのは日課になった。父が家庭教師を受け持つ兄のアーサーやレイファは勉強時間も長く、必然的に暇な時間が多いカーラは一人で遊ぶことが多かったからだ。
料理長のアーバンが調理するためにアスパラガスを収穫しにくると、そのあとをカーラがピョンピョン飛び越え始めた。
アスパラガスもカーラに付き合ってくれているかのように生長する。ぎりぎり限界点の高さを毎日毎日飛び越えていると、飛ぶ高さが記録更新されるたびにカーラのスキルがピコンと鳴る。どうやらそれが楽しいらしい。
カーラの余りの跳躍ぶりに最初こそ仰天して腰を抜かしかけた料理長アーバンだったけれど、数日経つと当たり前の光景のように慣れ親しんでしまった。
食事の予算が少なくてほとんど肉を出せなかったから、このアスパラガスが食卓の主役だった。茹でたり焼いたり。毎日ものすごい量を収穫するけれどすぐにニョキニョキ萌芽して食べ頃になってくれる頼れる食材。
次にカーラが跳躍している場面に出くわしたのは両親と兄たちだった。みんながみんな、かつての料理長と同じように腰を抜かしかけたが、今や料理長はといえばピョンピョンとカーラが飛び越える傍ら、何食わぬ顔でアスパラガスを収穫していて、驚いているほうが何だか大げさな気がしてくる。
「まるでこの前おじい様にもらった絵本に出てくる『ニンジャー』みたいだよね、カーラは」
びっくりから立ち直ったアーサーがのんびりと口にするとレイファが頷いた。
「そうだね。非現実的なお話だと思ってたけど、あの絵本の『ニンジャー』の育成に使われていた麻と、カーラの成長過程に一役買ったアスパラガスが、奇しくも同じ効果を生み出してる?」
二人がしゃべっていると、母ののんびりした声が聞こえてくる。
「あらあら。どうしましょう」
お腹の大きい母が困ったように首を傾げた。ぎょっとしたのは父ザカリ―だ。もう五人も自分の子供を産んでくれている妻のアドリアナのお腹は、今までにない大きさだったからだ。
「どっどっどぅうしたんだ!?」
「母さま?大丈夫!?」
「あらあら。そんなに慌てないで?陣痛が始まっちゃったみたい」
男衆が全員固まった。カチンコチンになってしまった。
カーラはアスパラガスを飛び越える遊びに夢中で気が付いていないし。
「だっだっだっから、横になっておけと……」
「あらあら。だって妊娠は別に病気じゃないもの。まだ破水はしてないわ。じゃあゆっくり部屋に戻るわね。あなた手を貸して?アーサー、レイファ、カーラを頼むわね?アーバンはみんなのご飯よろしくね」
「「はいっ母さま」」
「はっ、はい奥様」
侍女兼メイド長のソフロニアと夫に手を取られながら、気丈に自室に戻った母アドリアナはこのあとすんなり双子を産んだ。産んだあとはちょっと寝たきりになっちゃったりもしたけれど。
きっとメリルがカニのように動きまくってじっとしてなかったから母さまも大変だったんだろう、ってベビーベッドに一人で寝かされているメリルを見ながら兄姉は思った。
赤ちゃんは天使だっていうけど、メリルの場合は……
( ^ω^)・・・カニにしか見えない。
最初双子は一つのベッドに寝かされていたんだけれど、寝てても起きててもメリルはずっとジタバタしていて、ゴツンゴツンぶつかられてウィルフレッドが泣き通しだったからだ。
そしてアクアオッジ家に双子がやってきたのは、カーラがアスパラガスを飛び越えていたせいだと、後々まで言われることになる。
カーラが自分の能力に最初に目覚めたのは、四年前の六歳のときだった。
母が妊娠中ということもあり、たくさん甘えたかったけれど我慢しないといけないと分かっていたから、寂しいのが我慢出来なくなると、アーサーと一緒にアクアオッジ家にやってきた雌牛のミョルダのところに行って一緒に寝たりもした。
大好物のアスパラガス畑で遊ぶのは日課になった。父が家庭教師を受け持つ兄のアーサーやレイファは勉強時間も長く、必然的に暇な時間が多いカーラは一人で遊ぶことが多かったからだ。
料理長のアーバンが調理するためにアスパラガスを収穫しにくると、そのあとをカーラがピョンピョン飛び越え始めた。
アスパラガスもカーラに付き合ってくれているかのように生長する。ぎりぎり限界点の高さを毎日毎日飛び越えていると、飛ぶ高さが記録更新されるたびにカーラのスキルがピコンと鳴る。どうやらそれが楽しいらしい。
カーラの余りの跳躍ぶりに最初こそ仰天して腰を抜かしかけた料理長アーバンだったけれど、数日経つと当たり前の光景のように慣れ親しんでしまった。
食事の予算が少なくてほとんど肉を出せなかったから、このアスパラガスが食卓の主役だった。茹でたり焼いたり。毎日ものすごい量を収穫するけれどすぐにニョキニョキ萌芽して食べ頃になってくれる頼れる食材。
次にカーラが跳躍している場面に出くわしたのは両親と兄たちだった。みんながみんな、かつての料理長と同じように腰を抜かしかけたが、今や料理長はといえばピョンピョンとカーラが飛び越える傍ら、何食わぬ顔でアスパラガスを収穫していて、驚いているほうが何だか大げさな気がしてくる。
「まるでこの前おじい様にもらった絵本に出てくる『ニンジャー』みたいだよね、カーラは」
びっくりから立ち直ったアーサーがのんびりと口にするとレイファが頷いた。
「そうだね。非現実的なお話だと思ってたけど、あの絵本の『ニンジャー』の育成に使われていた麻と、カーラの成長過程に一役買ったアスパラガスが、奇しくも同じ効果を生み出してる?」
二人がしゃべっていると、母ののんびりした声が聞こえてくる。
「あらあら。どうしましょう」
お腹の大きい母が困ったように首を傾げた。ぎょっとしたのは父ザカリ―だ。もう五人も自分の子供を産んでくれている妻のアドリアナのお腹は、今までにない大きさだったからだ。
「どっどっどぅうしたんだ!?」
「母さま?大丈夫!?」
「あらあら。そんなに慌てないで?陣痛が始まっちゃったみたい」
男衆が全員固まった。カチンコチンになってしまった。
カーラはアスパラガスを飛び越える遊びに夢中で気が付いていないし。
「だっだっだっから、横になっておけと……」
「あらあら。だって妊娠は別に病気じゃないもの。まだ破水はしてないわ。じゃあゆっくり部屋に戻るわね。あなた手を貸して?アーサー、レイファ、カーラを頼むわね?アーバンはみんなのご飯よろしくね」
「「はいっ母さま」」
「はっ、はい奥様」
侍女兼メイド長のソフロニアと夫に手を取られながら、気丈に自室に戻った母アドリアナはこのあとすんなり双子を産んだ。産んだあとはちょっと寝たきりになっちゃったりもしたけれど。
きっとメリルがカニのように動きまくってじっとしてなかったから母さまも大変だったんだろう、ってベビーベッドに一人で寝かされているメリルを見ながら兄姉は思った。
赤ちゃんは天使だっていうけど、メリルの場合は……
( ^ω^)・・・カニにしか見えない。
最初双子は一つのベッドに寝かされていたんだけれど、寝てても起きててもメリルはずっとジタバタしていて、ゴツンゴツンぶつかられてウィルフレッドが泣き通しだったからだ。
そしてアクアオッジ家に双子がやってきたのは、カーラがアスパラガスを飛び越えていたせいだと、後々まで言われることになる。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
捕獲されました。酷い目にあう前に死にたいのですが、友人が自分の命を無理やり預けて行ったので、そうもいきません。早く返してしまいたい。
ともっぴー
ファンタジー
ある日罠にかかってしまったレイラ。捕まるくらいなら死を選ぶつもりだったのに、友人のシンが無理やり自分の命を押し付けて行ってしまった。冷酷な男?に飼われながらも、どうにかシンに命を返す事が出来たのだけど、これから先、私が生きていく理由って? 揺れながら、流されながら答えを探します。「逃げよう等と思うなよ。今日からお前は俺の物だ。」カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアップ+さんにも掲載しています。
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる