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第12話 わたしはふたたび引火する
疑心暗鬼にとらわれるな
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じつはその時期、わたしはただ悩んでいたどころか勉強の手を止めてしまっていた。
すでに吐露したように、「おつよん」のために試験勉強の時間を割くことの目的や意義を見失いかけていたからだ。
そのせいで基礎を復習して固め直す作業がおろそかになっていたのだ。
「なあインカ、偉そうに聞こえるかもしれないけど、おまえはおまえにしては本当によく勉強していると思う」
ギャスはそう穏やかに告げた。
「おれはそのがんばってる陰の努力をよく知っているつもりだ」
「がんばってるって言えるかな…でも、ありがとう」
とわたしは答えた。
「けど、せっかくの努力を水の泡にしてしまうものがあるんだ。頭をもたげる『疑心暗鬼』がそいつさ。
その悪魔があらわれると全部パーになって、やってきた事をおしゃかにしちまう。それはおまえの未来に待つであろう自由もおそらく閉ざすことになる」
と彼は真顔で話を続けた。
「もちろん多少の疑念や警戒心ってやつは、どんなことでも物事を最後まで成し遂げるには不可欠だ。不安もつきものだと思う。得体も知れず、どこからかそれはこみ上げてくる」
「うん」
とわたしは返した。それがまさに今のわたしだった。
「けどな、それと自己分析や自分の作業への振り返りはちがう。目の前に潜むリスクを意識して防ぐこととは別物だ」
ギャスはほほえんで言った。
「大切なのは不安に駆られているヒマも惜しんで、冷静に現在の状況を判断しながら、ひたすら前に進むことさ」
その時、化学実験室のドアが開く音が響いた。
「ちょっとぉ、いつまで話し合ってるの!」
ハッカの声がした。
「もう。早く帰ろうよ」
彼女を先に外で待たせていたんだった。
「…ほら、悪魔が来たぜ」
ギャスはそうわたしの耳にささやいた。
「ふたりとも、私のことなんか忘れてたんじゃないの!?」
待ちくたびれた彼女はぷりぷりしていた。
窓の外はとっくに陽が暮れかけていた。
「忘れるわけないだろ!」
とギャスはわざとらしく大きな声で返事した。
「待たせちまったな、おつ!」
「今度から待たないで先に帰っちゃうからね!もう知らない」
しびれを切らす彼女を遠目に、ギャスがこうつぶやいた。
「ハッカのやつ、とっくに発火点に達してやがる」
すでに吐露したように、「おつよん」のために試験勉強の時間を割くことの目的や意義を見失いかけていたからだ。
そのせいで基礎を復習して固め直す作業がおろそかになっていたのだ。
「なあインカ、偉そうに聞こえるかもしれないけど、おまえはおまえにしては本当によく勉強していると思う」
ギャスはそう穏やかに告げた。
「おれはそのがんばってる陰の努力をよく知っているつもりだ」
「がんばってるって言えるかな…でも、ありがとう」
とわたしは答えた。
「けど、せっかくの努力を水の泡にしてしまうものがあるんだ。頭をもたげる『疑心暗鬼』がそいつさ。
その悪魔があらわれると全部パーになって、やってきた事をおしゃかにしちまう。それはおまえの未来に待つであろう自由もおそらく閉ざすことになる」
と彼は真顔で話を続けた。
「もちろん多少の疑念や警戒心ってやつは、どんなことでも物事を最後まで成し遂げるには不可欠だ。不安もつきものだと思う。得体も知れず、どこからかそれはこみ上げてくる」
「うん」
とわたしは返した。それがまさに今のわたしだった。
「けどな、それと自己分析や自分の作業への振り返りはちがう。目の前に潜むリスクを意識して防ぐこととは別物だ」
ギャスはほほえんで言った。
「大切なのは不安に駆られているヒマも惜しんで、冷静に現在の状況を判断しながら、ひたすら前に進むことさ」
その時、化学実験室のドアが開く音が響いた。
「ちょっとぉ、いつまで話し合ってるの!」
ハッカの声がした。
「もう。早く帰ろうよ」
彼女を先に外で待たせていたんだった。
「…ほら、悪魔が来たぜ」
ギャスはそうわたしの耳にささやいた。
「ふたりとも、私のことなんか忘れてたんじゃないの!?」
待ちくたびれた彼女はぷりぷりしていた。
窓の外はとっくに陽が暮れかけていた。
「忘れるわけないだろ!」
とギャスはわざとらしく大きな声で返事した。
「待たせちまったな、おつ!」
「今度から待たないで先に帰っちゃうからね!もう知らない」
しびれを切らす彼女を遠目に、ギャスがこうつぶやいた。
「ハッカのやつ、とっくに発火点に達してやがる」
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