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第3話 合言葉は「おつ!」

ハッカ流勉強術

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  その日のうちには書籍の購入に至らなかった。

  お気に入りの物も確かに見つかりかけていたが、もう少し情報収集が必要だと感じていた。

  テキストの趣向については、書店からの帰宅後に妹のハッカにも確かめてみた。

  何といっても彼女は、おなじ双子のわたしとは違って、勉強の飛び抜けたエキスパートだ。

「そうね、ギャスの言うとおりかも」

  と彼女は答えた。

「文字だけのものは好ましくないよね。文章だけの味気ないレイアウトだと、まず第一にやる気がそがれるんじゃない?──とくにインカはね──図や絵がほどよく載っているものがいいでしょうね。人間の脳は視覚からの情報というのを非常に強く好む。
  だけど、目で印象づけた後もきちんと言葉で意味まで咀嚼することを忘れちゃダメ」

  そのままそれは勉強法の話へと進んでいった。

「あと、目で追ってちっとも理解できない、頭に入ってこない場合はね、テキストの文章を実際に声に出して音読してみるといいんだよ。そうすることで頭の中でよく整理される。
  もし可能ならば、それをだれか友人や家族とか第三者に対して説明してみるのもいいってよく言われているよ。ごめん、私は忙しくてそんなに相手できないかもしれないけど…」

  そのような話を聞けただけでもわたしは十分だった。

  勉強への意欲がじわりじわりと上がっていくのを、わたしは自分のなかに感じ始めていた。

  ついでに、わたしはギャスが力説していたプランの重要性についても妹からヒントや経験談を聞きたくなっていた。

  勉強のプランについてなら、ハッカのまさに得意分野であるだろう。

「テキストはとにかく毎日これだけとノルマを決めて、一周終えちゃうの。このスケジューリングが大事。ノルマはべつに少しずつでもいいから、ひとまずインカのやりやすい分量でやるといいよ。見開き2ページなら2ページでもいいし。
  必ずその一周分を何月何日までに終わらせたいか設定して、そこから逆算して1日ごとできるペースでの作業別に割り振っていく。それがコツだよ」

  彼女のアドバイスはじつに的確だった。

「手帳やスケジュール帳は持ってる?アプリのカレンダーでもいいかもね。私は学校のテストとか予備校の模試とか全部の試験の全科目をそうやって管理してる。
  そして大切なのはそれを必ず何がなんでもやり遂げること。目標は自分に対して誓った約束。どんなに取るに足らないものでも。
  疲れているとか、そんな時間がないとかは言い訳にならない。よくそう言って明日へ先伸ばししてサボる人がいるけどね。インカもそういうとこ、あるでしょう。
  昨日胸に誓った自分への約束を今日自分で守り続けるの。そうすれば目的の場所へたどり着けるんだよ」

  わたしはその年明けに意気揚々として購入したかわいい手帳が、引き出しの中にしまったままで半年間以上眠っていることを思い出した。

  そして、ただバイトでガソリンの油汚れにまみれているだけで──それはわたしにとっては少しは進歩ではあったけど──あまり今年の初めと変わらない自分のことを思った。

  今こそ手帳を取り出して、表紙のほこりを払う時だった。


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