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第6章:墜下
鎖の守護者・クタベ
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◇◇◇
──ヴェルクリシェス国、長老の間
月の巫女セレーネと、少年ジュアンについての口伝を聞いたユウキら。しかし、聞いたとて分からない事は山のように残っており、ただ首を傾げるばかりである。
「セレーネはジュアンを蘇生しようとして、その過程で力を手にしたってことですよね?」
「ああ」
少年の言葉を肯定した長老。しかしユウキには更なる疑問が生じた。
「なら、僕らの前に現れた奴は何者なんだろう……?」
「現れた奴、というのは?」
「ジュアンを名乗る奴が、少なくとも2回、僕を殺しに来ているんです。セレーネの遣いだって言ってましたが」
大昔に死んでいるはずの人間が、どうやって己らの前に姿を見せているのか。そんな疑問である。
「……それよりも、今は鎖の破壊に集中しましょう」
唸るだけの時間は無駄だと判断し、アインズは沈黙を切り裂く。
「そうですね」
考えても分からない事より、まずは目の前の課題を解決しようとの意図であった。
「戦いに出るの?」
大人しく話を聞いていたピュラーは、いつの間にかユウキの前に。ピョコンと小動物のように跳ね、少年に問うた。
「うん。四本目の鎖も斬らないとね」
「応援してますよ、ユウキ様!」
「う、うん……」
己に向けられた熱すぎる視線に困惑しながらも、ユウキは次の戦いに向けて決意を固める。
どのようなバケモノが鎖を守護しているのか。予測するに足る根拠は無いにしろ、少年は内心で色々と想像して用心していた。
月の解放は近い。それで目的が達成できるのかユウキには分からなかったが、少なくとも落ちた月を戻すことは出来るだろうと考えた。
「それ、武器?」
ピュラーは次に、アインズや桜華の方を見る。彼女らが腰に携えた刀剣を見るなり、指さしてそう言った。
「そうよ」
「武器がどうかしたの?」
少女は少しの間考え込んだ後、言葉を続けた。
「ユウキ様が居るのに、その他たちも戦うんだ。もしかして大きい人も?」
冗談やからかいの意図は無く、ピュラーはただ純粋に聞いたのだが……。
「ねえアインズ殿。あの子、斬っちゃうね」
「………………挟み撃ちにしましょうか」
◇◇◇
一行は、ヴェルクリシェス付近の鎖へ。非戦闘員のポリアは長老の家に預けられた。歳の近い赤髪の少女ピュラーが、彼女を各所に案内する事になっている。
──何冊の帳面が埋まるのかな
勉強済みの国でさえ、数冊使い切るほどに何かを書き留める彼女。全く未知の集落となると、その規模は計り知れない。
「さて、やっちまうか」
「ええ、お願いします」
鎖へと近付いたタヂカラは、パーツの隙間に指を入れ力ずくで広げる。その内部にはやはり妖しく輝く月長石が存在していた。
「四本目、行きましょう!」
少年が鼓舞し、三人は「おう」と気合を込めた返事をする。それを合図に、ユウキは鎖の核となる石へ手を伸ばした。
◇◇◇
──真っ白な神殿
最初に目を覚ましたユウキは、近かった桜華、タヂカラ、アインズと順に声をかけて起こした。
頂上にある大きな建物は、ニューラグーンの時と比べるとかなり近くに感じられた。同時に、天に座する月と思しき禍々しい天体もまた、圧迫感を強めている。
「今回のはどんな奴かね」
頭の後ろで手を組みながら階段を上る桜華が呟いた。
「……間違いなく、苦戦は強いられるわよね」
初めて討った守護者カマイタチから前回のオオタケマルまで、圧勝であった事はただの一度も無い。
彼らはいつもギリギリの所でなんとか勝機を見出してきた。機転だったり新しい仲間だったり、何がきっかけになるかはその時次第であった。
「ふん。何が来ても、ぶっ倒すだけだ」
「なんか楽観的だね、タヂカラ殿は」
「でも何が来るか分からない以上、それくらいの心持ちで居るのが良いかもしれないですね」
「まあね~」
長く苦しい上り階段も、やがて最後の一段となる。毎度の如くフロアの中央に台座が設置されている。
「なんだか、気持ち悪い感じがするわね」
その台座に近付くにつれ、彼らは何者かの視線を強く感じた。一箇所から見られているのではなく、あらゆる方向から監視されているような、奇妙な感覚である。
「来るぞ!」
タヂカラが声を上げるのと同時に、どこからか閃光が放たれる。光がおさまると、台座があった位置には四足のバケモノが現れた。
「牛、ですかね……?」
「私の知ってる牛は、牛の顔してるよ」
体の大きさや骨格は誰もが知る牛に相違無いが、顔面は人間に似ている。人面牛とでも表現すべきそれは、見るだけで不快を感じるようなおぞましさである。
何よりも不気味なのは、顔以外にも、あちらこちらに目が存在することだ。首や四肢、腹や背中に至るまで全身に在るそれは定期的に瞬きをする。
まるで、死角は無いと言わんばかりの容姿である。
《我は、鎖の守護者クタベ。巫女様の崇高なる目的を阻害せんとする愚者を、葬るモノである》
一同の脳内にクタベと名乗ったバケモノの言葉が響く。高い声と低い声が奇怪な塩梅で入り乱れており、聞き取りにくいようで容易に捕捉出来るものであった。
「教えろ、バケモノ。月の巫女の目的は何だ?」
ユウキが問うと、クタベは身を翻して人間たちから距離を置いた。顔の目を見開き、また不協和音にて言葉を放った。
《巫女様から至宝を奪った愚劣な世界を、罰することである》
「ジュアン、か……」
《貴様らに話す事は無い。無駄な抵抗などせず、潔く罪を償うが良い!》
クタベは対峙する罪人らにそう強く伝え、全身の目から光を放った。
──今のところ不調は無いな
──食らっちゃった以上、何かが起きる前にやるしかない!
バケモノの能力によって視野狭窄や運動失調を経験した一行。今度も何かしら不利な状況になるだろうと警戒しつつ、剣を抜いた。
──ヴェルクリシェス国、長老の間
月の巫女セレーネと、少年ジュアンについての口伝を聞いたユウキら。しかし、聞いたとて分からない事は山のように残っており、ただ首を傾げるばかりである。
「セレーネはジュアンを蘇生しようとして、その過程で力を手にしたってことですよね?」
「ああ」
少年の言葉を肯定した長老。しかしユウキには更なる疑問が生じた。
「なら、僕らの前に現れた奴は何者なんだろう……?」
「現れた奴、というのは?」
「ジュアンを名乗る奴が、少なくとも2回、僕を殺しに来ているんです。セレーネの遣いだって言ってましたが」
大昔に死んでいるはずの人間が、どうやって己らの前に姿を見せているのか。そんな疑問である。
「……それよりも、今は鎖の破壊に集中しましょう」
唸るだけの時間は無駄だと判断し、アインズは沈黙を切り裂く。
「そうですね」
考えても分からない事より、まずは目の前の課題を解決しようとの意図であった。
「戦いに出るの?」
大人しく話を聞いていたピュラーは、いつの間にかユウキの前に。ピョコンと小動物のように跳ね、少年に問うた。
「うん。四本目の鎖も斬らないとね」
「応援してますよ、ユウキ様!」
「う、うん……」
己に向けられた熱すぎる視線に困惑しながらも、ユウキは次の戦いに向けて決意を固める。
どのようなバケモノが鎖を守護しているのか。予測するに足る根拠は無いにしろ、少年は内心で色々と想像して用心していた。
月の解放は近い。それで目的が達成できるのかユウキには分からなかったが、少なくとも落ちた月を戻すことは出来るだろうと考えた。
「それ、武器?」
ピュラーは次に、アインズや桜華の方を見る。彼女らが腰に携えた刀剣を見るなり、指さしてそう言った。
「そうよ」
「武器がどうかしたの?」
少女は少しの間考え込んだ後、言葉を続けた。
「ユウキ様が居るのに、その他たちも戦うんだ。もしかして大きい人も?」
冗談やからかいの意図は無く、ピュラーはただ純粋に聞いたのだが……。
「ねえアインズ殿。あの子、斬っちゃうね」
「………………挟み撃ちにしましょうか」
◇◇◇
一行は、ヴェルクリシェス付近の鎖へ。非戦闘員のポリアは長老の家に預けられた。歳の近い赤髪の少女ピュラーが、彼女を各所に案内する事になっている。
──何冊の帳面が埋まるのかな
勉強済みの国でさえ、数冊使い切るほどに何かを書き留める彼女。全く未知の集落となると、その規模は計り知れない。
「さて、やっちまうか」
「ええ、お願いします」
鎖へと近付いたタヂカラは、パーツの隙間に指を入れ力ずくで広げる。その内部にはやはり妖しく輝く月長石が存在していた。
「四本目、行きましょう!」
少年が鼓舞し、三人は「おう」と気合を込めた返事をする。それを合図に、ユウキは鎖の核となる石へ手を伸ばした。
◇◇◇
──真っ白な神殿
最初に目を覚ましたユウキは、近かった桜華、タヂカラ、アインズと順に声をかけて起こした。
頂上にある大きな建物は、ニューラグーンの時と比べるとかなり近くに感じられた。同時に、天に座する月と思しき禍々しい天体もまた、圧迫感を強めている。
「今回のはどんな奴かね」
頭の後ろで手を組みながら階段を上る桜華が呟いた。
「……間違いなく、苦戦は強いられるわよね」
初めて討った守護者カマイタチから前回のオオタケマルまで、圧勝であった事はただの一度も無い。
彼らはいつもギリギリの所でなんとか勝機を見出してきた。機転だったり新しい仲間だったり、何がきっかけになるかはその時次第であった。
「ふん。何が来ても、ぶっ倒すだけだ」
「なんか楽観的だね、タヂカラ殿は」
「でも何が来るか分からない以上、それくらいの心持ちで居るのが良いかもしれないですね」
「まあね~」
長く苦しい上り階段も、やがて最後の一段となる。毎度の如くフロアの中央に台座が設置されている。
「なんだか、気持ち悪い感じがするわね」
その台座に近付くにつれ、彼らは何者かの視線を強く感じた。一箇所から見られているのではなく、あらゆる方向から監視されているような、奇妙な感覚である。
「来るぞ!」
タヂカラが声を上げるのと同時に、どこからか閃光が放たれる。光がおさまると、台座があった位置には四足のバケモノが現れた。
「牛、ですかね……?」
「私の知ってる牛は、牛の顔してるよ」
体の大きさや骨格は誰もが知る牛に相違無いが、顔面は人間に似ている。人面牛とでも表現すべきそれは、見るだけで不快を感じるようなおぞましさである。
何よりも不気味なのは、顔以外にも、あちらこちらに目が存在することだ。首や四肢、腹や背中に至るまで全身に在るそれは定期的に瞬きをする。
まるで、死角は無いと言わんばかりの容姿である。
《我は、鎖の守護者クタベ。巫女様の崇高なる目的を阻害せんとする愚者を、葬るモノである》
一同の脳内にクタベと名乗ったバケモノの言葉が響く。高い声と低い声が奇怪な塩梅で入り乱れており、聞き取りにくいようで容易に捕捉出来るものであった。
「教えろ、バケモノ。月の巫女の目的は何だ?」
ユウキが問うと、クタベは身を翻して人間たちから距離を置いた。顔の目を見開き、また不協和音にて言葉を放った。
《巫女様から至宝を奪った愚劣な世界を、罰することである》
「ジュアン、か……」
《貴様らに話す事は無い。無駄な抵抗などせず、潔く罪を償うが良い!》
クタベは対峙する罪人らにそう強く伝え、全身の目から光を放った。
──今のところ不調は無いな
──食らっちゃった以上、何かが起きる前にやるしかない!
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