天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第5章:選択

命の選択

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◇◇◇

 ──ブライトヒル王国市街地、奥

 仲間の死を目の当たりにし、一時、混乱したアインズ。走った末に転倒し、少し頭が冷めた。

「近くで、誰か戦ってるわね」

 不規則かつ、妙なインターバルのある金属音が繰り返し聞こえた。よろよろと立ち上がり、方向を確かめる。

──っ!

 ふと、温かさを感じた。幾度となく近くで感じた覚えのあるものだ。その正体に関しては、すぐに察しがついた。

「ユウキ君?」

 アルニムの最期がフラッシュバックし、一気に不安が大きくなる。彼が同じような目に遭うかもしれない。そう思うと、自然と足が動いた。

 音の発生源へたどり着くと、一人の騎士が鎌を持ったバケモノと戦闘をしていた。そのすぐ近くには、血を流して石壁によりかかる少年が見られる。ボロボロでありながらも、彼らへ歩み寄った。

「ツヴァイ!」

「アインズか、丁度いいところに来た」

「ユウキ君は?!」

「気を失っている。かなり出血が見られるから、危険な状態かもしれん」

「そう。そいつが襲撃の核ね? 助太刀するわ。さっさと倒して帰投しましょう」

 よろめきながら剣を抜く。しかし、戦闘への参加はツヴァイによって遮られた。

「待て! そんなボロボロの体で何が出来る」

「それは、お互い様でしょ?」

 消えたり現れたりするバケモノを観察しつつ、攻撃できる隙を窺う。

「……よく聞け、アインズ」

「なによ?」

「ユウキを抱えて撤退しろ。こいつは私が食い止める」

「……は? 何を言って──」

「お前たちは、どうやってあの鎖を壊した?」

「どうやってって……ユウキ君の、太陽の力よ」

「なら、なおさら言った通りにしろ」

 視線はバケモノに向けたまま、言葉を続ける。

「お前も分かっているだろう? その子は、世界に必要だ。みすみす死なす訳にはいかん」

「そんな……だからって、貴方を置いていけは──」

「現実を見ろ! あの状態のユウキが事切れる前にこれを倒し、全員で共に逃げるなど……ぐおっ?! 実現の可能性は皆無だ!」

「そうだけど……そうだけど!」

「迷っている暇は無い! さっさと選べ! 今、最も必要なのは誰だ?! 誰の命が一番大切だ!」

「……っ!」

──いい? アインズ
──命は等しく尊いものなのよ

またしても、母親の呪いが蘇る。

「早くしろ!」

「命は……命は……っ!」

「アインズ!」

「わ……分かったわ」

 剣を納め、ユウキの元へ。少年を背負い、亜光速で退避。

「おっと、バケモノ。貴様の相手はこの私だ!」

《ググギャア!》

「ぐああっ! ぐうっ!」

 大振りの一撃がツヴァイを襲う。また一つ傷が増え、彼の動きはさらに鈍る。

「ツヴァイ!」

「振り向くな! 走れ!」

 歯を食いしばり、よろめく足に鞭を打って走った。ユウキが背中と肩に負ったのは、治療をすれば助かる傷だ。しかし、放っておけば出血量のため死に至る。

「そうだわ、ポリア! あの子に頼めばすぐに救援に戻れるじゃない!」

 一筋の希望を見出し、アインズは城へと向かう。自身の意識も朦朧としている。それでも、必死に地面を蹴り続けた。

◇◇◇

 ──ブライトヒル王国城、医務室

 大量の負傷者が運び込まれている。隊長室にポリアの姿が見えなかったため、一度ユウキをここに預けることに。

「ポリアを見なかった? 私たちと一緒に帰ってきた子なんだけど」

「ああ、あの子ですか。先程、意識を失った状態でここへ運ばれて来ましたよ」

「……え?」

「この奥です」

 案内されるがままに進むと、確かにポリアが眠っていた。

「いったい何が?」

「この子、他人を治療する力を持っているようですね」

「ええ」

「大量の負傷者を見て、いても立ってもいられなくなったようだと聞きました。要するに、力の使いすぎです」

「ポリア……」

◇◇◇

 ──ブライトヒル王国城、廊下

 歪んでいたアインズの視界は、更にうねる。医務室を後にし、第二部隊の作戦室へ足を運んだ。待機しいてる騎士を求めての行動である。

「入るわよ」

 戸を押した勢いで倒れてしまわぬよう、踏ん張る。

「アインズ様?」

 中には数名の騎士が居た。ツヴァイから待機命令を受けており、そわそわしていた。よほどの有事にのみ出撃を許可されている。

「ゆ、有事よ。ツヴァイが東部市街地の奥で……一人で強力な奴と……戦ってる。お願い、助けに……」

「隊長が?! すぐに向かいます! おい、行くぞ!」

 他数名の待機騎士にも出撃を促し、第二部隊が隊長の援護に向かう。彼らを見送ったアインズは、自身の足がそれ以上前に進まないことを憎んだ。

「はぁ……はぁ……私も、行かないと……」

 なんとか壁伝いに歩き、医務室へ向かう。一瞬でも休めば、あのバケモノと対峙する事も出来るだろうと見込んだからだ。

「アインズ隊長? ご無事ですか?!」

 そこへ、第一部隊の騎士が通りかかる。明らかに問題がある隊長に駆け寄り、肩を支えた。

「ありが……とう。私はいいから……待機してる第一部隊も、東部市街地の奥に……ツヴァイの……救援に……お願──」

 ここで限界を迎えたアインズ。支えも虚しく、その場で膝から崩れ落ちた。
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