天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第5章:選択

経験の融合

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「気を付けろ、ユウキ。こいつは空間転移が可能なようだ」

「空間転移……?」

「ああ。アインズの高速移動とは違う。道のりが存在しないために、動きの予測は困難だぞ」

 面倒で、かつ、恐ろしい力であった。どこから攻撃されるかが、敵の初動を見てからでなくては分からない。対峙しただけで、不利な立場に立たされるのだ。

「ツヴァイさん後ろ!」

「っ! くらえ!」

 再度紫色のオーラを纏わせた鎌で応戦。彼とバケモノの戦いを見て、攻撃パターンを分析する。

──こいつ、必ず僕らの背後にまわるのか?

 最初の転移後はユウキの背後に。二度目の転移後はツヴァイの背後に。転移から攻撃に移行する手順に癖があるように感じられた。

「転移したぞ、警戒しろ!」

──慌てるな

──気配の察知に集中するんだ

 目を閉じ、風の動きを感じる。突如として物体が出現すれば、何かが変わるはずだ。

──来た、後ろだ!

「サン! フラメン!!」

 反射的に炎剣を振り、半回転攻撃を仕掛けた。バケモノは鎌を振り上げたところであり、脇腹がフリーになっている。

──捉えた

──僕の勝ちだ!

 だが、やはりそう巧くはいかない。ユウキの動きを見たのか、攻撃を受ける直前でまた転移した。少年の剣は空を斬る。

「惜しかったな。どうやら、君の動きは直前で読まれたようだ」

「あんな一瞬で……」

「いや、どうだろうな。もしかすると、もう少し前から、攻撃を察知していた可能性はある」

「え?」

──来る!

「サン・フラメン!」

 再度、剣に炎を纏わせて回転斬りを繰り出した。しかし、結果はまた同じである。

「やはり、奴は君の剣が動くよりも前に行動を始めている。おそらくだが、日長石のオーラを感じているのだろう」

「つまり──」

「っ! 今度は私が狙いか!」

──つまり、先にサン・フラメンを使う限り当てるのは無理ってことか

──何か、何か策は

 少年は、旅の記憶を探った。数少ない戦いの経験の中に、何かヒントが無いか必死に思い返す。

──自分の攻撃の後まで考える

それは、アインズから受けた手ほどきの記憶。

──相手の動きを観察して僅かな隙を見つける

それは、見て学んだ桜華のスタイル。

──時には力押しで

それは、岩をも止めるタヂカラから学習した概念。

──これまで学んだモノを全部混ぜる!

──融合して、自分の戦い方を!

──僕だけの武器を創り出すしかない!!

「転移するぞ!」

 敵はまず、ユウキかツヴァイの背後にまわる。今回の狙いはユウキであった。

──まだ

 ここでサン・フラメンを使うと、攻撃を察知されて無念に終わる。

──まずは振り返って

 右足を軸に、急旋回。バケモノと目が合うも、怯むこと無く次の行動に移行する。

──隙があるとすれば、攻撃の前後!

故に、桜華は相手の攻撃を待つのだ。

──ここだ!

 バケモノが鎌を振り上げる。これを大きな隙だと判断し、一気に距離を詰める。走りながら引いた腕を伸ばし、切っ先を敵の腹部へ。硬く、抵抗を感じたが、大男が如く無理やりねじ込んだ。

──まだまだ!

 手ほどきの通り、攻撃のその後まで計画がある。攻撃の後には、更なる攻撃だ。

「サン・フラメン!!」

剣を刺したまま発動。

《グググッ?!》

 不快さに悶えるバケモノを尻目に、数歩下がる。

「サン・プロミネンス!」

 退避しながら追撃。不意に一連の攻撃を食らった敵は、炎を消すことで精一杯に。

 相手に反撃の隙を与えない計画的な連撃。それが、ユウキがこの敵の為に創り出した武器である。

「やるな」

「でも……体力が……足りなくて……」

 息を切らし、敵の様子を見る。苦痛に顔を歪めながら、ユウキを睨んでいる。

「また転移だ!」

 バケモノが姿を消した。これまでの経験から、背後に意識を向ける。

──えっ?!

 しかし、それを知ってか知らずか、敵はユウキの正面に出現。既に鎌を振り下ろし始めている。

──ま、まずい!

 彼の新武器。その弱点は、こうした不意打ちである。斬撃は間一髪で躱したものの、直後に襲ってきた蹴りを受けてしまった。

「ユウキ!」

何メートルも飛ばされ、石造りの建物に激突した。

「ユウキ! しっかりしろユウキ!」

ツヴァイが呼びかけるも、返事は無い。

「くっ、気を失ったか」

 不利な戦いが、更に不利になった。ツヴァイは武器を構え直し、一人、驚異的なバケモノと対峙する覚悟を決めた。
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