天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

文字の大きさ
上 下
85 / 140
第5章:選択

大鎌のバケモノ

しおりを挟む
◇◇◇

 ──ブライトヒル王国市街地、他所

 鎖の破壊を目論む少年ユウキと、彼の旅の仲間であるタヂカラもまた、凶報を聞き付けて外へ出た。アインズらと同様に散開し、各方面へ散る。

「酷い。かなり大規模な襲撃なんだな……」

 街の中央から奥へ進むに連れ、凄惨さは増していく一方だ。崩壊した建物もそうだが、何より、人間の遺体がユウキの精神に大きなダメージを与える。

「あれは……囲まれてる!」

 正面に、一人の騎士を発見。複数のバケモノに包囲されており、いつ攻撃を受けてしまってもおかしくない。

 この状態で一撃でも貰ってしまうと、ドミノ倒し的に死ぬまで苦しめられるだろう。

「サン・フラメン!!」

 剣に炎を纏わせ、騎士の背後に迫るバケモノを両断。太陽の力を受けた敵は、苦痛に歪んだ顔で断末魔を上げた。

──ふう

 刃についた血を払う。顔を上げ互いの顔を見て、先に反応したのは騎士であった。

「君は……ユウキではないか!」

「ツ、ツヴァイさん?!」

 知っている声。知っている顔。そこで戦っていたのは、ブライトヒル王国騎士団第二部隊長のツヴァイである。

「戻っていたのか」

「はい、つい先程」

「そうか。……凱旋のセレモニーと行きたいところだが、生憎、取り込み中でな」

「みたいですね」

 剣を構え、二人は背を合わせた。敵はまだまだ居る。十数匹の群れだが、彼らには数十にも数百にも見えた。

「やれるか?」

「やらなきゃ、死ぬだけです」

「……ふん、見ないうちに勇ましくなったな」

《フギギ、ギグギャ!》

「行くぞ!」

「はい!」

◇◇◇

 クライヤマの少年とブライトヒルの騎士。二人は、背を合わせて地べたに座った。息を切らしながらも、互いの健闘を讃え合う。

「はぁ……はぁ……なんとか、なりましたね」

 傷を負いながらも、群れを殲滅した二人。解放感を求めて空を見るが、待っていたのは圧迫感である。

「ああ……。だが気を抜くな。あの氷のバケモノの様に、襲撃を率いる……デカブツが居るはずだ」

「ですね。そいつを……見つけ出さないと……」

 ツヴァイが先に立ち上がり、ユウキに手を差し伸べた。少年はそれに甘え、ゆっくりと立った。

「僕らが居ない間にも、こんな襲撃が?」

「襲撃自体はあった。だが、ここまで規模の大きいものは無かったな」

「なるほど……もしかしたら、焦ってるのかも」

「焦っている?」

「ああ、そっか……」

 ジュアンやセレーネと言った、バケモノ以外の敵を知っているのは旅のメンバーだけだ。

「まあ、後でゆっくり話しますよ。とにかく、敵は奴らバケモノだけじゃなさそうで、鎖が壊れて、そいつらは焦っているんじゃないかなって」

「となると、我々は敵を追い詰めている事になるな」

「ええ、そう願いた──」

 危機を脱したのも束の間。話などしている暇は無いぞと、そう示す様にソレは姿を見せた。

「──バケモノ」

「ああ。この強者感、間違いない。襲撃の核だろう。しかし……」

 ソレを前に、ツヴァイは背筋が凍るのを感じた。ユウキもまた、手が震えている。新手のバケモノは、三体の守護者と戦った少年をも、恐怖に陥れた。

「……どうやら、私は疲れきっているようだ。奴がどこからどう現れたか、まるで分からない」

「奇遇ですね……僕もです」

 大きさは人間の五割増しほど。そんな巨体が歩けば、何かしらの気配を感じるはずだ。だが、二人が気付いた頃には、敵はそこに立っていた。

「見るからに強そうですね」

 顔はバケモノだが、骨格はより人間に近い。顔の下には、髭のような短い触手が蠢く。フード付きのローブを身に着けているようにも見え、その容姿は死神を思わせる。

「ああ。それに、あの武器……敵とは思えんな」

 ツヴァイの大鎌によく似た武器を所持している。相違点と言えば、バケモノのそれは、いたずらに肉々しいことくらいである。

《ゴゴグ……ゴゴグ……》

 低音と高音が入り混じった声で、ユウキとツヴァイを威嚇。二人はそのあまりの気味悪さに震えた。

「ここで奴を討つぞ、ユウキ!」

「はい! サン・プロミネンス!!」

先制攻撃をと、炎を飛ばした。

「くっ! ダメか」

敵は鎌を横に振り、襲い来る炎を散らした。

「ラスレート!」

 ツヴァイも即座に力を使い、自身の武器を強化。紫色のオーラを纏った鎌が形を変え、バケモノの腰辺りへ向かう。

しかし──

「なにっ?!」

 ツヴァイの一撃は、空を斬った。跳んだのではない。バックステップでもない。回避などと言う生易しい行動ではなかった。

「消えた……?」

 振り抜いて半周したツヴァイ。地を踏み付けて勢いを止め、周囲を警戒する。

「後ろだ、ユウキ!」

「なっ?! サン・フラメン!」

 防御力の足しになればと、力を使った剣でガードした。

「お、重い……っ!」

 腕が痺れた。しかし、今さら痺れくらいがなんだと意思を強く持ち、反撃に出る。

「うおおおおおお!」

受け止めた鎌を払い、胴体目掛けて刃を振り上げた。

《ググゥ……!》

 これは胸を掠め、ほんの僅かに日長石の力が敵に流れ込む。その不快さ故か、バケモノは怒ったように顔を歪め、また姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

鋼月の軌跡

チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル! 未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...