天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第5章:選択

凶報の声

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◇◇◇

 王国の紋章が入った絢爛な馬車と、小さな友好国の刻印が施された座席車。その傍を走る重種の馬。各国から集まった五人を連れた馬車は、出発地ブライトヒル王国へと帰還した。

──戻って来た……!

 本当にクライヤマを中心に一周したのかと、実感を得られないまま馬車で市街地を進んでいく。

「おっきい堀! おっきい橋! おっきい門! おっきいお城! すごいですブライトヒル王国!」

「そ、そう……。楽しんでくれて何よりよ」

「でも確かに、改めて見ると凄いですよね、ブライトヒルは」

 街の規模、城の大きさ、人の数。それら全てが、これまでの旅で見た他国よりも秀でている。

 クライヤマの次に見たのがブライトヒルであったユウキは、故郷の外はどこもこのレベルだと思っていたが、どうやら大きな勘違いであるらしいと、そう気付かされた。

「あの部分の補修に、トリシュヴェアの花崗岩が使われたと聞いたことがあります」

馭者をしながら、アインズは城を支える土台を指さして言った。

「そうなんか。実際に使われてんのを見るのは、初めてかもしれねぇ」

「他にも細かい所に使われているとか。まぁ、私も詳しくは分かりませんが」

「いやぁ、さっそく勉強になったぜ」

「それは何よりです」

◇◇◇

 ブライトヒルに入って暫く走ったところで、馬車が停止した。窓から外を見るポリア。すぐそこにブライトヒル王国城が見えた。続いて、アインズと門番の会話がユウキらの耳に飛び込んでくる。

「アインズよ。通れる?」

「おかえりなさいませ、アインズ様! もちろんでございます。お通りください」

「そっか、アインズさんって、隊長さんなんですよね! 騎士団の歴史なんかも知りたいなぁ!」

 ポリアの好奇心は、いつどこに向くか分からない。己の殻を破った彼女を止めることは、両親でさえ難しかったのだ。

「アインズ様だって! 様が付いてるよ、ユウキ殿!」

──貴女にも付いてましたよ

 ユウキの左隣に座る桜華。アインズの名に位の高い敬称が付いていることを笑いながら、彼の方を見て笑った。

「あはは……あ──」

 彼女の顔を見ながら愛想笑いを返すユウキだったが、桜華の背後──扉を開けて笑顔で立つアインズを発見してしまう。

「ごめんね~桜華」

「ひいっ?!」

「他国の国防組織の人間は、入城不可ですって」

「ええっ?! ごめんなさい嘘嘘! 騎士様! アインズ様! 美人隊長様ぁ!」

「分かればよろしい」

──怖っ

 ユウキと桜華は姿勢を戻し、視線をアインズの方へ。

「私は所定の場所に馬車を停めてくるから、ここで降りて待っててくれる?」

「了解です」

促されるがまま降車し、綺麗に舗装された石床へ。

「それと、ユウキくん」

「はい」

「前に使ってた部屋は覚えてる?」

「ええ……たぶん」

「まだ使えると思うから、タヂカラさんと一緒にそこで休憩しててね。何事も無ければ、すぐに迎えに行くから」

「わかりました」

 旅に出る前の記憶を必死に探る。居たことがあるとは言え、ほんの数日だ。迷ったら、大男と共に城内を練り歩くことになってしまう。

「それから、ポリアは私の隊長室に案内するわね」

「はい!」

「……私は?」

「三人一部屋か、芝生か?」

「ううんアインズ殿だぁ~い好きぃ~」

 守護者アマビエの如く体をウネウネさせながら、芝生は嫌だと媚びを売る。唇を変に尖らせて指をあて、瞼を盛んに開閉。

「……芝生ね」

「え、ごめんて」

しかし、虚構の愛に向けられる視線は冷ややかであった……。

◇◇◇

 ──ブライトヒル王国城、一室

 クライヤマから救助された少年が、目を覚ました部屋。久方ぶりに感じるベッドの柔らかさに感動しつつ、旅路での睡眠環境が、如何に劣悪であったかを再認識した。

「ええ、目を覚ました時にはもう、この部屋でした」

「起きたら知らねぇ所に居たなんて、大変な騒ぎだろうよ」

「まあでも、あの時の僕は……いや、なんでもないです」

 窓から見える景色は、当初とは様変わりしている。

 ニューラグーン方面。アインズに言われて初めて目にした巨大な無機は、もう無い。

──全破壊まで、もう少しか

逸る気持ちはあるものの、慌てたとてどうにもなりはしない。

──ジュアンとか、月の巫女とか

──気になる事は沢山あるけど

 次の敵が誰で、どのような戦闘になるのかは、彼にはまだ分からない。体を休める事も戦いの内であると。自身にそう言い聞かせた。

「ふあ~。気ぃ抜けたら眠くなってきたな」

「そうですね。僕も瞼が落ちそうですよ」

 しかし、世界を混乱させているバケモノと言う存在にとって、少年の心持ちなどは知ったことではない。いつ如何なる時であろうと、絶望を連れてやって来る。

「襲撃! 襲撃! 騎士団員各位、直ちに出撃!」

……微睡む暇もなく、壁の向こうから凶報が告げられたのである。

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