天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第5章:選択

帰還の前夜

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◇◇◇

 ——ブライトヒル王国近郊、平野

 トリシュヴェアを発ち、二回目の夕暮れ。あたりが暗くなる前に、ユウキ一ら旅の行は野営の準備にかかる。馬車を停めて馬を癒し、火を起こす。

「薪の準備、できました」

「ええ、ありがとう」

 荷物の中から火打石と打金を取り出し、ほぐした繊維状の植物に火花を落とす。わずか数回の挑戦で火種ができ、そこへ息を吹きかける。大きくなった炎に、少しずつ薪をくべていく。

「野宿も慣れたものね」

「そうですね。もう、何回目か分からないですし」

「悔しいけど、アインズ殿の料理美味しいんだよね~。悔しいけど」

「よかった。食材が一人分浮いたわね」

「わわっ、ごめんって!」

「ははは……」

——ずいぶん賑やかになったな

 思い返してみれば、最初はユウキとアインズの二人だけだった旅のメンバー。良くも悪くも静かで、二人は火を囲んで穏やかに話をしたものである。

 だが今は違う。ポリア、桜華、タヂカラと仲間が増え、騒がしいほど賑わった。これはユウキにとって、寂しさの解消とともに、己の実績を保証するものでもあった。

「つまり、ニューラグーンやブライトヒルのような体制のことです!」

「ほう、そいつが王制ってやつか! さすがポリア大先生、分かりやしぃ説明だ!」

「えへへ~」

 仲間ができた。護る者ができた。賛同してくれる者ができた。慕ってくれる者ができた。

 冷たい岩戸に背中を預け、バケモノを前にして、己は何て事を考えていたのだろうか。ユウキはふと、あのような思考が頭から消えていたことに気付いた。

「ねえねえ。二人だけの時は、どんな感じだったの?」

「別に、今と変わらないわよ」

「最初の夜でしたね、剣を教えてくれたのは」

「そうだったわね。あの時に比べれば、ずいぶん腕を上げたんじゃない?」

——なんだか恥ずかしいな

 剣を持つことで精いっぱい。上手く武器を支えられず、逆に振り回されていた。アインズに向かって全力で放った攻撃は、一歩たりとも動くことなく止められた。

 幾度かの戦いを経て、その当時よりは強くなれたのではないかと、ユウキは自信をもった。

「んじゃ、私と斬りあってみる?」

「……いえ、遠慮します」

——勝てるわけがないんだよな……

 だからと言って、上には上がいることも理解している。ブライトヒル王国騎士団の第一部隊長や、ウルスリーヴルの国防を担う防人の頭には及ばない。いくら剣の扱いが上達したとて、経験が圧倒的に不足しているのだ。

——それに、やっぱり僕は一人じゃ何もできない

——バケモノを倒せるのも、鎖を斬れるのも、全部、リオの助けがあってこそだ

「ああ、一つ思い出したわ」

——ん?

「ブライトヒルを出た次の日の朝、重大事件が——」

「うわあああああ! なんですかそれ僕知らないです! 夢か何かじゃないですかね?!」

 見てはいけないものを見たという、どちらかといえばユウキにとっての大事件があった。

 朝日を反射して輝く水面と、川岸に丸めて置かれた衣服、そして例のモノが、ユウキの脳裏にフラッシュバックする。

「え、何それ気になるんだけど」

「気にするような事じゃないです」

「あれ? 知らないんじゃなかったのかしら?」

「いいじゃないですか、もう! お互い忘れましょうって!」

……暗くなった平原に、ユウキの絶叫だけが響き渡った。
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