天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第4章 : 責務

怪力の覚醒

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◇◇◇

──真っ白な神殿

 鎖の守護者オオタケマルの鎧を剥ぐのだと豪語したタヂカラ。取っ組み合いになり、次第に押され始めるも……

──力強い真っ赤なオーラ

──タヂカラさんにピッタリだ!

「うおりゃあああああああああっ!」

《なに?!》

 オーラが完全に彼を包みきった時、形勢は一瞬にして逆転。今度はオオタケマルの膝が曲がっていく。

《ば、ばかな!》

「お前をぶっ倒してトリシュヴェアを平和にする! そいつが俺の役目だ!」

《ぐおっ?!》

 渾身の頭突きを叩き込む。オオタケマルの兜が飛び地面に落ちた。再度頭突きをし、直にダメージを与える。

「おらぁっ!」

胸の中央に全力の拳をぶつける。

「凄い、甲冑にヒビが?!」

「どっちがバケモンだか……」

「どりゃああああっ!」

《な、なんと?!》

「やった!」

 強烈な打撃を受け続けた防壁が崩れ去った。それでもタヂカラの攻撃は止まない。赤い皮膚に打痕が重なっていく。

「ぐ……!」

 しかし長続きはせず、オーラは霧散していく。同時に体から力が抜け、タヂカラは両膝をついた。

《はぁ、はぁ、なんと言うことだ……。まさか、このような人間が居ようとは。しかし──》

「武器が!」

 オオタケマルの右手に、月長石のオーラが集約。やがて大きな棍棒を構成する。

《死ね!》

 それを振り上げ、タヂカラの脳天目掛けて振り下ろす。だが、もうユウキらの攻撃を妨げる手段は防御以外に無い。

「ブリッツ・ピアス!」

 タヂカラへの攻撃に注力していたオオタケマルは、迫りくる亜光速に反応できなかった。アインズの切っ先がバケモノの右わき腹に深々と刺さる。

——風が消えた!

 タヂカラの打撃とアインズの突き刺しによってダメージが蓄積し、オオタケマルは周囲の風を維持できなくなった。

《ええい、小賢しい!》

 刺した剣を抜いた直後のアインズに、棍棒が襲い来る。素手でタヂカラと同等以上の怪力を誇るオオタケマルが、武器を使った攻撃をしている。

 いくらブライトヒル王国の騎士であれ、防御が容易に崩れ去るであろうことは誰もが想像できた。

「アインズ殿どいて!」

 そんな危機に、一歩遅れて桜華が到着。彼女の行動を察したアインズは言われた通りに退く。

「そんな単純な攻撃!」

 桃色のオーラを放ちながら刀を抜く。振り下ろされる棍棒を払うように抜かれた刃は、光とともに無数の斬撃を生み出した。

 その一つは手首を捉えた。切り落とされた手首は棍棒ごと地に落ちる。

「ユウキ殿、あとは——」

「サン・フラメン!」

 少年はオオタケマルの背後から迫り、炎を帯びた剣でもって、右脇から左腰にかけて斜めに切り裂いた。

《バカ……な……グギギヤアアア!》

 断末魔をあげながら二つに分かれるバケモノ。アマビエのように再生する気配はなく、そのまま絶命した。

「やっぱり崩れるのね?!」

 その途端、上ってきた階段が下から順に砂塵と化す。膝をつくタヂカラの手を取り、ユウキはアインズの肩に触れた。桜華もまたアインズに触れる。

 準備が整ったことを確認したアインズは、亜光速で、次の階層へ向かう階段へと避難した……。

◇◇◇

 ──トリシュヴェア国

 なんとか崩壊から逃避したユウキら。目を開くと、景色は無機質な白から岩肌の目立つ大地へと変わっていた。未だ座する巨大な鎖の根元には、輝きを失った月長石が見られた。

「悪かったな。結局、助けられちまった」

「そんな、助けられたのは僕らの方ですよ」

「ええ。我々だけだったら、どうなっていた事やら……」

──さてと

 安心をしている場合ではないと、ユウキは鎖へ向き直る。

「サン・フラメン」

 日長石の力を帯びた剣を構え、それと同時に、少年はタヂカラに話の続きを始めた。

「タヂカラさん」

「なんだ?」

「僕は、貴方の様に大きな人間じゃないです。だから、クライヤマの皆の為だとか、そんな大きなものは持ち上げられません」

刃を頭上に持っていき、狙いを定める。

「だがボウズは──」

「僕が背負ったのは、日の巫女の……あの子の潔白を示すと言う責務だけです。決して大きくない、一人の少女だけなんですよ」

 クライヤマという小さな集落は、しかし、決して容易に背負えるほど小さな存在ではない。

「彼女が悪く言われない様に誤解を解く。それは、クライヤマ唯一の生き残りにして、個人としてのあの子を知る僕にしか出来ない事だから」

 集落一つに比べて、リオという少女一人を背負うのは幾分か容易い──否、リオを背負う事に対する意欲はもはや無限大に等しいのだ。

「僕が、やらなきゃいけないんです」

ユウキは剣を振り下ろし、刃が石を捉えた。

「ボウズ……」

 大きな鎖と背中を見ながら、タヂカラは目を見開いた。自身の事を大きな人間と表現した小さな少年が、大きく見えた為だ。

崩れ落ちる鎖。

ふと、タヂカラは呟いた。

「お前さん、かっけぇな……」

「……え?」

「その子のために、自分にしか出来ない事だから、自分がやる。かっけぇよ、ボウズ。いや──」

 ユウキの、リオの潔白証明に対する真っ直ぐな責任感を目の当たりにし、彼は心打たれていた。目を輝かせ、少年の両手を掴んで言い放つ。

「アニキ!」

「ア、ア、アニキ?!」

「ああ、アニキと呼ばせてくれ!」

「よかったね、弟分ができて」

「いやいや、おかしいですよ! ボウズでいいですボウズで!」

「いいじゃない。他人から尊敬されるなんて、簡単な事じゃないのよ?」

「アインズさんまで……」

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