天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第4章 : 責務

鎖の守護者・オオタケマル

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◇◇◇

 ──真っ白な神殿

 月長石に触れて冷たさを感じたユウキであったが、目覚めた彼は、それとは対極の温かさを感じた。ただし丸みは無く、ゴツゴツとした勇ましいものである。

──なんだ?

 いつも通りであれば、冷たい地べたに転がるか座るかして目覚める。しかし今回は違った。冷たくないし、何やら周期的な揺れを感じた。

「ここは……?」

「あ、おはよう、ユウキ殿」

「お目覚めね」

 左右から旅の仲間の声が聞こえた。脳が次第に覚醒し、それから数秒後には己が置かれた状況を理解したユウキ。

「すみませんタヂカラさん、ここからは自分で」

「おうよ」

 トリシュヴェア国の大男、タヂカラに背負われていたのだ。降りて鎧や剣などの装備品が揃っている事を確認し、今度は自分の足で歩む。

「聞いたぜボウズ、お前さんの戦績」

「戦績?」

「ああ。ブライトヒルでもニューラグーンでも、ウルスリーヴルでも大活躍だったってな」

「大活躍なんて、そんな……」

「ちっちぇ体で、なかなかやるじゃねえか」

──そりゃ、貴方から見たらみんなちっちゃいでしょうよ

「僕は何も出来ませんよ。ただリ──日の巫女が与えてくれた力を振るっているだけです」

「そうか……。その、なんだ。もうちょい詳しく聞かせてくんねぇか? ボウズの旅の目的をよ」

──やっぱり、みんな思う事は同じなんだ

 ユウキがクライヤマ唯一の生存者である事。鎖の破壊を目的として旅をしている事。日の巫女の力を受け継いでいる事。

 それらは誰の目にも明らかな事実でしかなく、ただ現実を言葉に起こしただけに過ぎない。

──僕が命を張る理由

──そこまでする理由

 クライヤマの代表として鎖を壊して廻る、その気概の出処は何なのか、と。

「どうして、みんなの為にそこまでしようと思えるんだ?」

「僕は……」

──みんなの為?

──クライヤマの為?

──いいや

「それは違いますよ、タヂカラさん」

「違う?」

「ええ。僕はそんな──っ!?」

 タヂカラの問に答えようとしたユウキだったが、突如として響いた雷鳴により、それは保留に。見ると、もう踊り場がすぐ目の前に迫っていた。

「話をしている暇は無さそうね」

 雷鳴に加え激しい風が吹いている。湿った空気が漂っており、今にも雨が降りそうだ。そんな嵐を思わせる雰囲気の中を進むと、ソレは姿を見せた。

「こいつは……」

「こいつが、鎖の守護者です」

《いかにも。我は鎖の守護者、オオタケマル》

 タヂカラと同等以上の体格のバケモノだ。皮膚は筋肉で膨れ上がり、それでいて全身を甲冑で保護している。ボサボサな白髪と赤い肌が警戒感を強める。

 また、額から上に伸びた角がその姿を恐ろしいものとしている。牙をむき出し、常に眉間にシワを寄せる。

《巫女様に歯向かおうとは、愚かな。今ここで悪しき者共を滅する!》

「黙れ、バケモノ」

敵のセリフを聞いたユウキは、切っ先をオオタケマルに向けて続けた。

「日の巫女の意志を以て、僕はお前たちを斬る!」

 ユウキの昂りに併せて剣が炎を帯びる。アインズらに対しては暖かく──

《……なんと不愉快な。その様な下劣な力を、巫女様に近付ける訳にはいかぬ!》

──来るっ!

《グオオオオオオオオオッ!》

 オオタケマルが咆哮を一つ。過去の経験から何かしらの不調を探る一行だが、特に気付く事は無い。今回のバケモノは小細工を使わないのだろうと察しがついた。

「これはまた、厄介そうね」

耳を刺激する轟音が止んだ頃、オオタケマルの両腕には小さな竜巻がまとわりついていた。

──なるほど、自己強化するタイプか

「行くぞ!」

炎を纏ったままの剣を振り上げて斬りかかった。

《グオッ!》

「手で止めた……!」

《し、しかし、これはっ!》

 ユウキの攻撃を受け止めたバケモノは、しかし、余りの不愉快さにその手を離して後退った。

──敵はリオの力を極端に嫌ってる

──でも、分が悪いのは僕の方だな

 オオタケマルは、その身を甲冑で覆っている。生身の部分であればユウキの攻撃は通るであろうが、防具に対しては絶望的だ。

「ブリッツ・ピア──」

《フン!》

「──?!」

 突き刺しを狙ったアインズだが、亜光速移動の途中で右に進路を逸らした。一瞬後にアインズが居たであろう場所に、鋭い落雷が刺さる。

「よく避けたねアインズ殿」

「……咄嗟によ。なかなか面倒な敵ね」

ブリッツ・ピアスは確かにスピードに優れる。カマイタチ戦のように、不意を突けば対象者は何も抵抗できない。しかし、大きな弱点が存在する。

「直線はダメそうだわ」

 攻撃の進路が単純なのだ。それ故に、初動を見切れば迎撃も可能だ。己の弱点を把握していたが故に落雷を察知出来たが、このままでは防戦一方である。

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