天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第4章 : 責務

指導者・タヂカラ

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 彼女の名を強く叫ぶと、景色は再びトリシュヴェアの渓谷に。自身を包み込む黒いオーラと、剣を振り上げたジュアンの姿がユウキの目に映る。

「とどめだ!」

「……っ! 負けるかあああああっ!」

 日長石の輝きは更に増幅し少年を包み込む。彼が深く息を吸うと同時に、眩い光もまた体内へと吸収されて行く。

「なにっ?!」

 光の爆発が起きる。炸裂は鬼気迫る表情で襲い来るジュアンに目眩しをする以外にも、重要な仕事をした。月長石のオーラを全て払ったのである。

「くそ、小賢しい真似しやが──っ?!」

 数秒ほどで目を回復したジュアンだが、次に映った景色は絶望であり、見えない方が幾分かマシであったとさえ感じさせた。

「何だよ、何なんだよ、それ!?」

 これは本当にユウキかと。炎のような赤や黄、橙に、不規則に変色し逆だった髪。真っ直ぐで鋭い眼差し。そして何より、常に全身から噴出する日長石のオーラがジュアンに不安感を与えた。

「ジュアン。もう、大人しく帰った方がいい」

「あ……?」

「君じゃ、僕とリオの力には……勝てない」

「黙れ!」

 ジュアンは恐怖した。セレーネより与えられた月長石と自身が織り成す力は、何者にも劣らない絶対的なものだと信じていたからだ。

「くたばれ!」

 異形の左拳を強く握り、全力を持ってユウキの顔面へ打ち付けた。

「……え?」

が、少年は表情も変えず微動だにしない。

「ふざけんな! ふざけんな!」

 現状を認めることが出来ず、何度も顔、胸、腹へ拳を叩きつける。

「こいつ、本物かよ……。畜生……畜生!」

 恨み言を叫びながら剣に力を纏わせて斬りかかる。彼の力が日の力に弱いなら、逆もその筈であると。

しかし──

「……な、何?」

 気付いた時には、剣は彼の手を離れてちに落ちていた。一切の動作を認知出来なかったジュアンは再度恐怖した。

「くそ、く──」

 急ぎ剣を拾おうとしたジュアンだったが、その行為は激痛によって妨げられた。

「ぐあああああっ?!」

 右腕が落ちた。大量に出血する患部を押さえ、相手を睨む。相変わらず表情一つ変えずに立つユウキ。中腰で苦しむジュアンを見下ろしていた。

「もう止めなよ」

「うるせえ!」

 左手の爪を尖らせ、ユウキの喉元を狙う。しかし、やはりその攻撃は届かない。

「うぐぁぁぁっ!」

 腕の次は胴。左腰から右肩にかけて大きな傷が出来た。

「く、くそ……ったれが!」

 後ろによろめきながら、ジュアンはなんとか踏ん張って立つ。気を抜けば視界は回転するだろう。必死に耐えながら指笛を吹いた彼は、その場から姿を消した。

「うっ!」

 ユウキもまた膝をついた。姿は元の少年に戻り、オーラの噴出は止まっている。

「何だったんだ、今の……?」

 胸の辺りを手で押える。変身が解けてからジュアンの攻撃によるダメージに襲われたのだ。

「……っ?!」

 動けずにうずくまっていると、谷の上から物音が聞こえた。

「バケモノ……?」

近郊に鎖が刺さっている以上、似た境遇の他国同様、バケモノが群れていても不思議ではない。

「まずい、動け……ない……」

 しばらくすると、音の正体が見えてきた。バケモノなどではなく、もっと無機質な存在だ。

──い、岩っ?!

 ユウキとジュアンが戦った衝撃は想像以上に大きく、周辺のあらゆるものを震わせた。その煽りを受けた岩が転がり、崖の上から落下してきたのだ。

 このままではユウキは潰されるであろう。しかしどう足掻いても、彼の体は動こうとしない。ダメージと変身の負荷に縛り付けられている為だ。

──まずい

──潰される?!

……が、目を瞑ってしまった彼を岩が潰すことは無かった。代わりに雄叫びがユウキの聴覚を刺激する。

「おらあああああああああ!」

「……?!」

 恐る恐る目を開くと、大柄な男性の姿が目に入った。たった一人で転がる大岩を止めている。

「うおりゃあああああああっ!」

 勢いを失った岩。それを平面に落とし、一息つく。

「ふう」

──と、止めた……?

 あろうことか、男性は大岩を一人で受け止めたのである。

「ボウズ、無事か?」

「……いえ、あんまり」

「はっはっは! 正直だな!」

 差し伸べられた手を頼りにユウキは立ち上がる。足も胴体も全て痛むが、なんとか踏ん張った。

「ここの人間じゃねえな? こんなとこで何してんだ?」

「ええ、僕はユウキと言います。訳あって旅をしてまして……。この国のことを調べようと、さまよってました」

「旅人にしちゃあ……ま、いっか。俺はタヂカラってんだ。形式上、ここの頭ってことになってる」

「あなたがタヂカラさん?!」

 探し求めた人物。トリシュヴェア国のリーダーを務める男性と出逢った。

──運が良いんだか悪いんだか

「そうだが……?」

「良かったです。あなたを探して旅の仲間と散開してたところなんです」

「そうだったんか。悪ぃな、不在にすることが多くて」

「いえ。良ければ、一緒に石版まで行きませんか? そこに集合する事になってるので」

「ああ、構わねぇぞ」

「では──痛っ!」

 歩き出そうとしたユウキは、しかし、ジュアンから受けたダメージによって再び膝を地につく。

「……しょうがねぇボウズだな」

ほらよ、と言いながら自身の背中を右手の親指で示す。

「す、すみません……」

 この調子では何日かかるか分からないと察したユウキは、彼の言葉に甘えることに。タヂカラに背負われたまま、仲間の元へ向かって来た道を引き返していった。
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