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第4章 : 責務
指導者への信頼
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◇◇◇
──トリシュヴェア国
ウルスリーヴル国、ハーフェン港から何日かの旅路を経て三本目の鎖が刺さるトリシュヴェア国に到着。
野宿の回数はニューラグーン国とハーフェン港間を優に超え、最多を更新した。
「もう体がバキバキですよ」
「ええ、布団でゆっくりしたいわね」
「何よ、こんくらいで情けない」
「桜華さんは平気なんですか?」
「ま、二年の牢屋に比べたらね」
「ああ……」
「二人も入ってみる?」
「結構よ」
「僕も遠慮します……」
国の入口を示しているのであろう石版があり、十分ほど進むと、馬宿を発見した。そこへ一時馬を預ける。
彼らの馬以外は重種で、花崗岩などの石材を運び出すためのものだ。
「家が見当たらないですね」
馬宿から暫く歩いているものの、一向に生活の気配が感じられない。あるのは砂地と岩ばかりである。
「ええ。もしかして、バケモノに──」
「家ならさっきからありますよ」
正解なら絶望的な事を述べようとしたアインズ。しかし、彼女の言葉はトリシュヴェア国の文化にも詳しいポリアが遮った。
「どこに?」
「えっと……」
己らが来た方向や、これから進む方向を見回して指さす。
「あれとか、あれとか。その奥のもそうです」
「僕には積み上がった岩にしか見えないよ……?」
「はい、それが家です!」
この国では木材よりも石材の方が遥かに入手しやすい材料だ。故にこそ、ブライトヒルやニューラグーン、ウルスリーヴルとは建築様式が大きく異なる。
多種多様なサイズの岩を組み合わせ、見事なドーム型を作り上げて家としている。知らぬ人からすれば、ただ岩が置いてある様にしか見えないのも無理はない。
「そうなんだ……」
「良かった。情報収集は問題無さそうね。ここに関してはどうやって指導者の方に会おうか皆目見当もつかなかったから、ポリアが居てくれて助かったわよ」
「そう言えば、ニューラグーンの時はどうされたんですか?」
「あそこはお城が見えてたから、直に訪問したのよ」
「なるほ──」
「ウルスリーヴルは言わなくて良いからね!」
「……せっかく忘れてたのに」
──自分で掘り返しちゃったよ桜華さん
◇◇◇
三手に分かれ、トリシュヴェア国の指導者について情報収集を始める。ユウキ、アインズ、桜華の三つだ。ポリアはアインズに着いて歩く。
「ごめんください」
岩のドームには、雪洞の様な入口が用意されている。中には花菖蒲の飾りやカモシカの毛皮を使った絨毯、水瓶が置いてある。
外から見て人の気配を感じたユウキは何か情報を聞き出そうと訪ねた。
「はい?」
現れた女性は、砂で汚れた顔のままユウキの前に躍り出た。
少年が明らかに自国の民ではない事を察した彼女は、まさか賊ではあるまいなと家の中への進路を塞ぐように立つ。
「突然ごめんなさい。僕は……旅の者でして、その道中でここトリシュヴェア国に辿り着いたのですが……」
「はあ……?」
「国の指導者の方にお会いしたく……。お城はどちらに?」
「この国に、城なんてありませんよ」
「……無い? 指導者は?」
「リーダーなら居ますよ。英雄の孫、タヂカラです。何処に居るかは私も分かりません」
意図せず「英雄の孫」という追加情報を得た事に驚きながら、更に引き出さんと粘る。
「英雄と言うのは?」
「……タヂカラのお爺さんが、トリシュヴェア建国の父なんです」
──もしかして、ポリアが言ってたやつか?
「それって、ど──昔の反乱と関係が?」
「ええ。かつて奴隷だったタカミが反乱を起こして英雄となり……あの、なぜそんなことを?」
外から呼びかける少年の声を聞いた彼女は、家事をやりかけたまま顔を出した。無駄話などしている暇は無いと、その意思を込めてユウキに聞き返した。
「ああ、ごめんなさい。ただの興味です」
「そうですか……」
「しつこいですが、居場所の目処もつきませんか?」
「さあ? 私は知りませんよ、あんな奴。もういいですか?」
女性は国のリーダーたるタヂカラをあんな奴と称し、ユウキに鋭い目線を送る。
それと同時に、何処の誰かも分からない野郎に使ってやる時間は無いと、一切の遠慮もなしに問うた。
──潮時かな
「ええ、お邪魔しました」
「ではお気を付けて」
申し訳程度の挨拶と共に、彼女は家の中へと戻った。
「……あんな奴、か」
今しがた話を聞いた女性は、己の国の指導者を信頼していなかった。
その態度を見たユウキの脳裏にはまたリオの姿が浮かび上がる。
「リオ……君は確かに信頼されてたよね」
クライヤマでは、日の巫女の言葉が全てであった。天気から意思決定まで、誰も彼もがリオの言葉に重きを置いていた。
「なのに、どうしてあんな……」
ある時から、リオの言葉は時折外れるようになった。良しと言えば悪く、晴れと言えば雨が降った。
そんな事が続き、さらに頻度を増した奇矯により巫女信仰が崩壊した結果、かの惨状に至ったのだ。
「君の言葉は、想像を絶する程……重かったんだね」
日の巫女にしか成し得ない占いでクライヤマの命運は左右される。その結果を伝えるリオの言葉には、大きな大きな責任が伴うのだ。
「勝手に責任を負わせておいて……そんなの、理不尽じゃないか」
そもそも、リオはなぜ日の巫女に就任したのか。答えは憎いほど安直で、先代の娘だからだ。すなわち世襲である。
リオには生まれながらにして重い責務があったのだ。そんな不条理に対して歯を食いしばりながら、ユウキはさらに岩地の奥へと進んで行く。
──トリシュヴェア国
ウルスリーヴル国、ハーフェン港から何日かの旅路を経て三本目の鎖が刺さるトリシュヴェア国に到着。
野宿の回数はニューラグーン国とハーフェン港間を優に超え、最多を更新した。
「もう体がバキバキですよ」
「ええ、布団でゆっくりしたいわね」
「何よ、こんくらいで情けない」
「桜華さんは平気なんですか?」
「ま、二年の牢屋に比べたらね」
「ああ……」
「二人も入ってみる?」
「結構よ」
「僕も遠慮します……」
国の入口を示しているのであろう石版があり、十分ほど進むと、馬宿を発見した。そこへ一時馬を預ける。
彼らの馬以外は重種で、花崗岩などの石材を運び出すためのものだ。
「家が見当たらないですね」
馬宿から暫く歩いているものの、一向に生活の気配が感じられない。あるのは砂地と岩ばかりである。
「ええ。もしかして、バケモノに──」
「家ならさっきからありますよ」
正解なら絶望的な事を述べようとしたアインズ。しかし、彼女の言葉はトリシュヴェア国の文化にも詳しいポリアが遮った。
「どこに?」
「えっと……」
己らが来た方向や、これから進む方向を見回して指さす。
「あれとか、あれとか。その奥のもそうです」
「僕には積み上がった岩にしか見えないよ……?」
「はい、それが家です!」
この国では木材よりも石材の方が遥かに入手しやすい材料だ。故にこそ、ブライトヒルやニューラグーン、ウルスリーヴルとは建築様式が大きく異なる。
多種多様なサイズの岩を組み合わせ、見事なドーム型を作り上げて家としている。知らぬ人からすれば、ただ岩が置いてある様にしか見えないのも無理はない。
「そうなんだ……」
「良かった。情報収集は問題無さそうね。ここに関してはどうやって指導者の方に会おうか皆目見当もつかなかったから、ポリアが居てくれて助かったわよ」
「そう言えば、ニューラグーンの時はどうされたんですか?」
「あそこはお城が見えてたから、直に訪問したのよ」
「なるほ──」
「ウルスリーヴルは言わなくて良いからね!」
「……せっかく忘れてたのに」
──自分で掘り返しちゃったよ桜華さん
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三手に分かれ、トリシュヴェア国の指導者について情報収集を始める。ユウキ、アインズ、桜華の三つだ。ポリアはアインズに着いて歩く。
「ごめんください」
岩のドームには、雪洞の様な入口が用意されている。中には花菖蒲の飾りやカモシカの毛皮を使った絨毯、水瓶が置いてある。
外から見て人の気配を感じたユウキは何か情報を聞き出そうと訪ねた。
「はい?」
現れた女性は、砂で汚れた顔のままユウキの前に躍り出た。
少年が明らかに自国の民ではない事を察した彼女は、まさか賊ではあるまいなと家の中への進路を塞ぐように立つ。
「突然ごめんなさい。僕は……旅の者でして、その道中でここトリシュヴェア国に辿り着いたのですが……」
「はあ……?」
「国の指導者の方にお会いしたく……。お城はどちらに?」
「この国に、城なんてありませんよ」
「……無い? 指導者は?」
「リーダーなら居ますよ。英雄の孫、タヂカラです。何処に居るかは私も分かりません」
意図せず「英雄の孫」という追加情報を得た事に驚きながら、更に引き出さんと粘る。
「英雄と言うのは?」
「……タヂカラのお爺さんが、トリシュヴェア建国の父なんです」
──もしかして、ポリアが言ってたやつか?
「それって、ど──昔の反乱と関係が?」
「ええ。かつて奴隷だったタカミが反乱を起こして英雄となり……あの、なぜそんなことを?」
外から呼びかける少年の声を聞いた彼女は、家事をやりかけたまま顔を出した。無駄話などしている暇は無いと、その意思を込めてユウキに聞き返した。
「ああ、ごめんなさい。ただの興味です」
「そうですか……」
「しつこいですが、居場所の目処もつきませんか?」
「さあ? 私は知りませんよ、あんな奴。もういいですか?」
女性は国のリーダーたるタヂカラをあんな奴と称し、ユウキに鋭い目線を送る。
それと同時に、何処の誰かも分からない野郎に使ってやる時間は無いと、一切の遠慮もなしに問うた。
──潮時かな
「ええ、お邪魔しました」
「ではお気を付けて」
申し訳程度の挨拶と共に、彼女は家の中へと戻った。
「……あんな奴、か」
今しがた話を聞いた女性は、己の国の指導者を信頼していなかった。
その態度を見たユウキの脳裏にはまたリオの姿が浮かび上がる。
「リオ……君は確かに信頼されてたよね」
クライヤマでは、日の巫女の言葉が全てであった。天気から意思決定まで、誰も彼もがリオの言葉に重きを置いていた。
「なのに、どうしてあんな……」
ある時から、リオの言葉は時折外れるようになった。良しと言えば悪く、晴れと言えば雨が降った。
そんな事が続き、さらに頻度を増した奇矯により巫女信仰が崩壊した結果、かの惨状に至ったのだ。
「君の言葉は、想像を絶する程……重かったんだね」
日の巫女にしか成し得ない占いでクライヤマの命運は左右される。その結果を伝えるリオの言葉には、大きな大きな責任が伴うのだ。
「勝手に責任を負わせておいて……そんなの、理不尽じゃないか」
そもそも、リオはなぜ日の巫女に就任したのか。答えは憎いほど安直で、先代の娘だからだ。すなわち世襲である。
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