天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第3章 : 乖離

鎖の守護者・アマビエ

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◇◇◇

 ──真っ白な神殿

 少年が目を覚ますと、そこはやはり神殿であった。御伽噺などではなく現実そのものである。

 階段に座った状態で目覚めたユウキは、尻が痛いことに気付いて立ち上がる。

「そうだ、二人は……?」

 次のフロアへと続く方向を見ると、手前に桜華、その少し奥にアインズの姿が彼の目に映った。彼女らはまだ眠っている。

「桜華さん、起きてください桜華さん」

「ん~何よ小町うっさいなぁ……」

──口悪っ!

「僕です、ユウキですよ……。起きてください」

「……ああ、ユウキ殿おはよう」

「おはようございます」

 右手で目を擦りながら立ち上がり、大胆な欠伸を一つ。ん~と唸って背中をのばし、周辺を観察した桜華はようやく異変に気が付いた。

「ここは?」

「例の神殿ですよ。この先に鎖の守護者ってのが居て、そいつを倒せば鎖を壊せます」

「へぇ、まさか本当にあるなんて……」

 ユウキの冗談ではなかったのだと、彼女はようやく理解した。

◇◇◇

 アインズも起こし、三人で階段を上がって行く。ジュアンとの戦闘に続く負担がユウキを襲う。

 一方、ひっきりなしに辺りを観察する桜華。神殿のデザインは、どちらかと言えばブライトヒルの雰囲気に近い。ウルスリーヴルの建築とは大きく異なるそれに興味があるためだ。

「着いたわよ」

「わ、結構広いんだね」

 登った先には踊り場がある。桜華の感想通り、三人とバケモノが暴れるには十分なスペースだ。

「台座は……やっぱりありますね」

「あれって、さっきの石──月長石ってやつ?」

「気を付けてください。ここからが本題ですよ」

 台座に近付くと、にわかに眩しさを感じるようになった。何事かと見回している内、それは次第に強烈になっていき──

「……おでましですね」

 解消されたかと思ったのも束の間、台座のあった位置に三人とも見た事のないバケモノが座する。

 半人半魚の見た目をしており、地にも届く勢いの長髪と不気味に蠢く三本の尾ビレがある。

 上半身は人のそれであるが、腕の先にはナイフのような鋭い爪が見られる。

「あんたが鎖の守護者ね?」

「あはは、アインズ殿、バケモノに話──」

《いかにも。余は鎖の守護者アマビエ》

「えぇ……」

《鎖の破壊を目論み、巫女様に仇なす者を排除する》

 各々が武器を構える。敵は尾ビレを器用に使い、地面を滑るように移動する。

──カマイタチみたいに何かしてきたら厄介だな

 前回の守護者戦では、アインズに視野狭窄の症状が見られた。同じような事をされたら面倒なことになる故、ユウキはそうなる前に決着をつけようと動く。

──先制攻撃!

「サン・フラメン!」

 太陽の炎を帯びた少年の剣は、いとも簡単にアマビエの胴を捉えた。

《……》

 これと言った抵抗は無く、敵は二つになって離れた。上半身が右に落ち、下半身が左に倒れる。

 斬った本人でさえ驚く呆気なさで唖然とする。剣を納めようとした彼だが、しかし、そう簡単には終わらないようである。

「ユウキ殿下がって!」

「……っ!」

 落ちたはずの上半身が一人でに動き、爪を振り回す。ギリギリで刻まれずに済んだ少年は思わず二人の元まで退避。

「普通なら勝ってたけど、こいつはそういう訳にはいかないようね」

「それにほら、増えたよ」

「……まじですか」

 上半身からは下半身が、下半身からは上半身が各々再生し、バケモノは二体になった。

 攻撃手段の殆どが斬撃であるこのメンバーにとって、この上ないほど鬱陶しい性質だ。

《ピャアアアアアアアア!》

「うっ──!」

二匹のアマビエが咆哮を一つ。

──まずい!

 カマイタチの咆哮を聴いた直後から、アインズに視野狭窄が見られた。であれば、今の声にも何かしらの効果があると見込まれる。

「斬るのがダメなら、ひたすら刺してやるわ」

そう言い、アインズは敵に切先を向け──

「ブリッツ・ピアス!」

 黄金のオーラと共に進み、亜光速の突き攻撃を仕掛ける。しかし、嫌な予感と言うのは得てしてよく当たるものである。

「きゃっ?!」

「アインズさん!」

 足がもつれたか、磨かれた床で滑ったか。攻撃が当たる前に彼女は地に倒れた。

「あれ……? なんで私──」

「ユウキ殿、アインズ殿ってドジなの?」

「え、えっと……」

 ブライトヒルの騎士、ツヴァイの言葉がユウキの脳内に蘇ったが、いやそれどころではないと冷静になる。

「大丈夫ですか?」

 アマビエの追撃が来る前に、ユウキはアインズの元へと駆け寄る。しかしそんな彼も──

「うわ?!」

次の瞬間には視界が反転していた。

「二人して何してんのよ……」

 などと言いつつ、敵による状態異常である事を察した桜華は動かずに敵を見る。

 ──来た!

 まだ片膝をついた状態のユウキへ、敵の爪が迫る。

「くそ!」

 受け止めざるを得ず、不利な体勢で防御。左右どちらかに振られれば、すぐさま倒される状況となった。

──まずい

──フラメンで逃げられるけど

 切断すると増える性質が彼をより苦しめる。しかも敵は二体いる。片方は桜華が対応しているものの、彼女も時折足がもつれている。

──足さえちゃんと動けば

──これ、運動失調ってやつか?

 彼もアインズも、何もドジで転んだのではない。足の運動機能が落ちているのだ。ユウキが防御体勢からなかなか抜け出せないのも、その一環であった。

「ユウキ君、私がそいつの腕をぶった斬るわ!」

「でもそれじゃ、敵が増えちゃいますよ」

「これは賭けだけど、吹っ飛んだ腕が再生する前に君のプロミネンスで燃やし尽くせないかしら?」

 その間もアマビエはユウキへの攻撃を緩めない。ただ受け止める事しか出来ず苦しくなってきた彼は、アインズの賭けに乗ってみようと決めた。

「分かりました、やってみます!」

「了解よ。はあああっ!」

 彼女はすぐに右から迫り、転びながらもアマビエの腕を斬り上げで切断した。

 敵は怯んでさがる。斬られた腕は宙を舞い地面へ向かった。

「サン・プロミネンス!!」

 少年が叫ぶと剣から炎が飛び出し、腕へと向かう。

《……ギャ?!》

「やった!」

 アインズの目論見通り、腕はそのまま焼失。だが、患部から瞬時に再生してしまう。ならばと、彼は本体へも炎を飛ばしてみる事に。

「サン・プロミネンス!」

《不愉快だ》

──不愉快なのはその不協和音だよ

 炎を帯びたアマビエ。上手くいけばカマイタチのように致命傷となるが……。

《ブキャアアアアッ!》

 敵は体を翻してそれを鎮火。サン・プロミネンスが致命傷になったのは、体を風に変えたり戻したり出来るというカマイタチの性質故である。

「くそ、ダメか……?」

 フラメンで斬れば増殖し、プロミネンスは効かず。加えて運動失調の効果は加速的に増しており、三人の足はその時の姿勢を維持するのが限界であった。

が、桜華は勝機を見出していた様子で──

「ダメじゃないよユウキ殿!」

「え?」

「つまり、暴れて鎮火できないくらい細切れになればいいんでしょ?!」

 腕だけの小パーツなら焼却出来た。桜華の言葉通り、アマビエの体が全て小パーツに別れれば、消し去ることが出来る訳だ。

「でも、再生される前にそんな」

 このバケモノ再生能力を有するし、増える。すなわち、一箇所ずつ斬っていられる程の猶予はない。

──同時に無数の斬撃を繰り出さない限りは

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