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第3章 : 乖離
月の騎士・ジュアン
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早足で迫る男性が桜華に呼びかけた。
「桜華様!」
——様がついてる
「様ですって」
「どうしたの?」
——あ、無視した
「なにやら、鎖の方から此方へ向かう人影が」
「人影?」
「はい。丁度、そちらの殿方のような装備を身に着けています」
「え、僕?」
鎖を調べる前に、何やら厄介ごとが起きそうだと、ユウキは固唾を飲んだ。
「人影は一名ですが、如何しましょうか?」
「う~ん、状況からして只者じゃないもんね」
バケモノが闊歩する大地を一人で歩くなど、自殺行為もいいところだ。防人によって守られている範囲を一歩出れば、そこはもう、人間が肩で風を切れる場所ではない。
「分かった。天舞音様の作戦だけど、急遽変更。私たち三人で先頭を行くよ。防人は下がって、横に展開して大回りで鎖に先行してくれる?」
「御意!」
男性がもとの位置まで戻り、桜華の指示を伝達。防人の先頭集団は散り、後衛と合流した。二手に分かれて鎖への進軍を続けた。ユウキ、アインズ、桜華の三人はそのまま進む。
——あれか
見晴らしがよくなった先に、確かに人影が一つ見えた。距離にして百メートルほどだ。
「本当に、普通の騎士に見えるわね」
だんだんと距離が縮まり、詳細の観察が可能になってきた。見た目はやはり、普通の男性。年はユウキと同じく十八歳程度に見える。
暖色系の装飾が入ったユウキの装備品とは対極に、深い青などの寒色系が目立つ。相手もユウキらを見てか、まっすぐ向かってくる。
「あの~殿方? こんな所で何を?」
十メートルほどまで近付き、桜華が問うた。
「え、あんた誰?」
「ひどっ⁈」
「あ、お前らは知ってるぞ」
桜華から外れた彼の視線は、次にユウキとアインズを捉えた。悪意は感じられないが、まっすぐで鋭い。
不審に思った二人は、いつでも剣を抜けるように気持ちを整理する。
「やっぱり来たか。セレーネ様が仰った通りだ」
——セレーネ?
——それこそ誰だ?
「どうだい? 鎖を斬った感想は?」
「……私たちを一方的に知ってるみたいだけど、何者?」
「質問に答えろよ、邪神の遣い」
「……っ! 邪神って、何のことです?」
「はははっ、とぼけちゃって。お前、日の巫女の遣いなんだろ?」
「何を——」
「その日長石を見ればわかる」
ユウキの首にかかった首飾りを指さし、そう言った。そんな彼の首元にも飾りが見える。
ただし日長石ではなく、闇のような輝きを放つ無気味な宝玉だ。二人はそれに見覚えがあった。
「で、どうなんだよ」
すなわちこの人物は、己と対立する存在であろうと、ユウキは察する。
「……まあ、爽快だったかな」
「あっそう。んで、ここの鎖も壊そうってわけ?」
「もちろん」
「何のために?」
「日の巫女は無実だって、世界に——」
「嘘つくなよ」
「……え?」
「お前はただ、復讐したいんだろう?」
「……っ!」
復讐。リオが殺されたから、殺り返す。ユウキは己の心を疑った。潔白の証明という尊い目的で旅をしているつもりだった。
しかし、どうだろう。誰かがリオの死にかかわっているのだとしたら。何者かの意図したことだとしたら。
それでも、復讐ではないのだと、胸を張って言えるだろうか。彼はそう、己に問いかける。
「安心しろよ、ボクも同じだ」
「……?」
「セレーネ様を永いこと封じてきた邪神と、その遺志を継ぐ者が憎い。あの方の手となり足となり、ボクはユウキ、お前に報復するんだ」
——復讐
——復讐?
——本当にそうか?
ユウキは何度も自問自答する。自分自身の行動原理は何なのか。この男やカマイタチが存在をほのめかす者。それに対して恨みがあったから、こうして動いているのかと。
改めて心の根幹に問いただす。死にたいという思いを押し殺したのはなぜだ。なぜ、お前はまだ生きる道を選んだのだと。
「違う。僕は、お前とは違う」
——僕の決意は、報復なんかじゃない
戦おうと。旅に出ようと。そう決めるに至った理由は、彼——ジュアンが言うような仕返しではなかったはずだ。
ブライトヒルで目覚め、日長石を取り戻す際に知った事。世界には、自身の想い人であるリオを、邪神だと信じてやまない人が多数存在しているという事実。
それが、悔しくて悔しくてたまらなかったから。バケモノに殺される人々を、離れた場所から見ている事しか出来ない自分に、嫌気がさしたから。
——だから僕は、この旅に出たんだ
——断じて、復讐なんかじゃない
もっと尊く、純なものであると。
「僕の目的は、そんなんじゃない!」
「ははっ、強がりやがって。ま、何だっていいさ。どうせ——」
腰に携えた剣を抜くジュアン。グッと腕に力を込めると、刀身が月長石に酷似した闇のような光に覆われた。
それはまさしく、ユウキのサン・フラメンと対極といった様相である。
「——ここで終わるんだからな!」
「桜華様!」
——様がついてる
「様ですって」
「どうしたの?」
——あ、無視した
「なにやら、鎖の方から此方へ向かう人影が」
「人影?」
「はい。丁度、そちらの殿方のような装備を身に着けています」
「え、僕?」
鎖を調べる前に、何やら厄介ごとが起きそうだと、ユウキは固唾を飲んだ。
「人影は一名ですが、如何しましょうか?」
「う~ん、状況からして只者じゃないもんね」
バケモノが闊歩する大地を一人で歩くなど、自殺行為もいいところだ。防人によって守られている範囲を一歩出れば、そこはもう、人間が肩で風を切れる場所ではない。
「分かった。天舞音様の作戦だけど、急遽変更。私たち三人で先頭を行くよ。防人は下がって、横に展開して大回りで鎖に先行してくれる?」
「御意!」
男性がもとの位置まで戻り、桜華の指示を伝達。防人の先頭集団は散り、後衛と合流した。二手に分かれて鎖への進軍を続けた。ユウキ、アインズ、桜華の三人はそのまま進む。
——あれか
見晴らしがよくなった先に、確かに人影が一つ見えた。距離にして百メートルほどだ。
「本当に、普通の騎士に見えるわね」
だんだんと距離が縮まり、詳細の観察が可能になってきた。見た目はやはり、普通の男性。年はユウキと同じく十八歳程度に見える。
暖色系の装飾が入ったユウキの装備品とは対極に、深い青などの寒色系が目立つ。相手もユウキらを見てか、まっすぐ向かってくる。
「あの~殿方? こんな所で何を?」
十メートルほどまで近付き、桜華が問うた。
「え、あんた誰?」
「ひどっ⁈」
「あ、お前らは知ってるぞ」
桜華から外れた彼の視線は、次にユウキとアインズを捉えた。悪意は感じられないが、まっすぐで鋭い。
不審に思った二人は、いつでも剣を抜けるように気持ちを整理する。
「やっぱり来たか。セレーネ様が仰った通りだ」
——セレーネ?
——それこそ誰だ?
「どうだい? 鎖を斬った感想は?」
「……私たちを一方的に知ってるみたいだけど、何者?」
「質問に答えろよ、邪神の遣い」
「……っ! 邪神って、何のことです?」
「はははっ、とぼけちゃって。お前、日の巫女の遣いなんだろ?」
「何を——」
「その日長石を見ればわかる」
ユウキの首にかかった首飾りを指さし、そう言った。そんな彼の首元にも飾りが見える。
ただし日長石ではなく、闇のような輝きを放つ無気味な宝玉だ。二人はそれに見覚えがあった。
「で、どうなんだよ」
すなわちこの人物は、己と対立する存在であろうと、ユウキは察する。
「……まあ、爽快だったかな」
「あっそう。んで、ここの鎖も壊そうってわけ?」
「もちろん」
「何のために?」
「日の巫女は無実だって、世界に——」
「嘘つくなよ」
「……え?」
「お前はただ、復讐したいんだろう?」
「……っ!」
復讐。リオが殺されたから、殺り返す。ユウキは己の心を疑った。潔白の証明という尊い目的で旅をしているつもりだった。
しかし、どうだろう。誰かがリオの死にかかわっているのだとしたら。何者かの意図したことだとしたら。
それでも、復讐ではないのだと、胸を張って言えるだろうか。彼はそう、己に問いかける。
「安心しろよ、ボクも同じだ」
「……?」
「セレーネ様を永いこと封じてきた邪神と、その遺志を継ぐ者が憎い。あの方の手となり足となり、ボクはユウキ、お前に報復するんだ」
——復讐
——復讐?
——本当にそうか?
ユウキは何度も自問自答する。自分自身の行動原理は何なのか。この男やカマイタチが存在をほのめかす者。それに対して恨みがあったから、こうして動いているのかと。
改めて心の根幹に問いただす。死にたいという思いを押し殺したのはなぜだ。なぜ、お前はまだ生きる道を選んだのだと。
「違う。僕は、お前とは違う」
——僕の決意は、報復なんかじゃない
戦おうと。旅に出ようと。そう決めるに至った理由は、彼——ジュアンが言うような仕返しではなかったはずだ。
ブライトヒルで目覚め、日長石を取り戻す際に知った事。世界には、自身の想い人であるリオを、邪神だと信じてやまない人が多数存在しているという事実。
それが、悔しくて悔しくてたまらなかったから。バケモノに殺される人々を、離れた場所から見ている事しか出来ない自分に、嫌気がさしたから。
——だから僕は、この旅に出たんだ
——断じて、復讐なんかじゃない
もっと尊く、純なものであると。
「僕の目的は、そんなんじゃない!」
「ははっ、強がりやがって。ま、何だっていいさ。どうせ——」
腰に携えた剣を抜くジュアン。グッと腕に力を込めると、刀身が月長石に酷似した闇のような光に覆われた。
それはまさしく、ユウキのサン・フラメンと対極といった様相である。
「——ここで終わるんだからな!」
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