天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第3章 : 乖離

防人との共同作戦

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◇◇◇

 ──ウルスリーヴル国、南西

 地表と月を結ぶ鎖の破壊を目論む一行が入国した翌日。

 ユウキとアインズは、騎士団と似た役割を持つ防人の桜華を仲間に加えて鎖へ向かう。

 ポリアは戦いに参加させられない為、城で預かってもらうことに。

「今日の作戦はこう」

 天舞音から指示を受けてきた桜華が、二人にそれを伝達する。

「まず、防人、ユウキ殿たちと私、防人の並びで鎖に向けて進軍。着いたら防人が周囲を警戒。その間に鎖を調べるなり、壊すなりするよ」

 バケモノが分散しない島での調査は、おそらくニューラグーンの時よりも危険が伴う。

 天舞音が鎖の破壊に積極的な事もあり、かなり手厚い支援をしている。

「助かります。それで、鎖の破壊についてなんですけど……」

 桜華がユウキらと行動を共にするなら、月長石や鎖の守護者、例の神殿について話しておく必要があろう。

 理解してもらえるかは別にして、とりあえず一通りを説明……したのだが。

「あはははははっ、変な神殿に転移? ゴメンねユウキ殿。私、もう御伽噺で喜ぶような歳じゃないの」

「いや、本当ですって」

「戦い前の緊張をほぐそうとしてくれたんでしょ? あんがとね」

「ダメだ、全く聞いてない……」

──ま、実際に見れば解るか

 何を言っても信じてもらえなそうだと、伝達を諦めたユウキ。

「人の話を聞かないから、客と罪人を間違えるのよ」

そこへ、アインズが水を差す。

「うわ、しつこ!」

「いやぁ傷ついたわ~」

「あんまりネチっこいと、モテな──」

「……っ!」

──アインズさん?!

 無礼な発言をする桜華の両頬を、アインズは右手の親指とその他で掴んだ。恐ろしいことに、笑顔のまま。

「なにか?」

「ごご、ごべんだだい」

「ちょっと、仲良くしてくださいよ……? これから共闘するんですから」

「心配無いわ、仲良しだもの。ねえ?」

──どこが?!

「ユウキ殿、この人と旅してるの? ちょ~怖──わわっ! ごめんなさい嘘だってば! 嘘!」

 全く懲りる様子のない桜華。アインズが剣の柄を握ったところを見て、慌てふためいた。

──何なんだ、この人?

 防人の中でも、トップの位である桜華。そんな肩書きとのギャップに、ユウキはただただ混乱している。

──時々、丁寧じゃない言葉が出るし

──もしかして、元ごろつきとか?

──いや、まさかな

「んんっ! とにかく、さっきの作戦で行くから。よろしく!」

「よろしくお願いします、桜華さん」

「ええ、よろしく」

──よかった、ちゃんと協力できそう

「うんうん。親しき仲にも何とやら、だね」

「いやこっちのセリフよ」

──あれ、やっぱダメかも?!

◇◇◇

 最後尾の方から笛の音が聞こえた。作戦開始の合図だ。先頭の防人、十名ほどから順に進む。

「いよいよね」

「そうですね。またあの場所に飛ばされるかもしれないし、警戒しておかないと」

「ええ。安全な状態で転移するとは限らないしね」

 前回はたまたま、バケモノも何も居ない場所に行った。だが今回はどうだろう。

 カマイタチと戦ったフロア以下は、全て崩落した。いきなり守護者の目前に……なんて事もあり得る。

「ところでお二人さんは、なんで旅を? 鎖を壊して回ろうなんて、かなり突拍子も無い話だと思うんだけど」

 周囲を警戒しながらも、雑談と言った話し方でもって桜華は二人に問う。

「えっと、何処から話そうかな……」

 話の起点を決めかねている風を装うが、ユウキが迷っていたのは、自身の出身についてである。

 桜華を始めとしたウルスリーヴルの人々が、バケモノの出現やクライヤマについてどう考えているか分からないからだ。

——まあ、しょうがないか

「僕は……クライヤマの人間なんです」

 意を決して告白したユウキ。激しい緊張に苦しみながら、まずは桜華の反応を伺う。

「うんうん」

——あれ?

 何一つ驚く様子を見せない彼女。こうも落ち着いていられると、ユウキは逆に驚かされる。ニューラグーン国王のような反応を想像していたためである。

「クライヤマでは、日の巫女を信仰する形で生活が営まれてました」

「……ました?」

「ええ。ある時、不幸が続いて……巫女様は……」

 もう何度も話したことだが、やはり思い出すたびに、ユウキの心は悲しみで満ちる。涙を堪えながら、少年は続きの説明を再開した。

「ここからは何が起きたのか、僕も分かりません。目が覚めたら月が落ちて鎖が刺さり、クライヤマは月の影に覆われて、奴らの産地になってました。クライヤマの住人も、みんな殺されました」

「でも、ユウキ殿は生き残ったんでしょ?」

「はい。殺される直前、アインズさん率いるブライトヒルの騎士の方々が、助けてくれたので」

「へえ……え、率いるって、あなた、偉い人だったの⁈」

「王国騎士団第一部隊長、だけど?」

「そうなんだ……なんか、意外」

「あなたには世界で一番言われたくないわね」

——また始まった

 口論が激化する前にと、ユウキは二人を遮ってまた話を始める。

「で、助かった僕は、クライヤマに対する疑念を知ったんです」

「疑念?」

「……ええ。クライヤマの巫女がバケモノを生み出して、世界侵略を目論んでいる……巫女は邪神だって。あれ、ウルスリーヴルでは、そういう話は無いんですか?」

「あ~、まあ聞いたことはあるけどさ。天舞音様が仰ったように、ここでは、外界に興味が無い人も多いから」

「なるほど」

 知らぬが故に巫女やクライヤマを恐れる人。それはブライトヒルにも、ニューラグーンにも存在した大多数の人だ。

 対して、ここウルスリーヴルでは、知らないを極めた人が多いという。中途半端に知っているからこそ、憶測が生まれる。

 しかし、完全に知らなければ、憶測を創り上げるパーツすら持っていない事になる。

「けど、ブライトヒルでも、ニューラグーンでも、一部の人には理解してもらえたんです」

「なるほどね。じゃあ、巫女様の潔白を示そうってのが、ユウキ殿の目的?」

「はい。それと、もう一つ」

カマイタチの言葉を思い返す。

——巫女様の大切な月長石に触れた

「どこかに、日の巫女と対になる存在が居る……かもしれないんです」

「対に?」

「信じてもらえるかは分かりませんけど、言葉を話すバケモノが居るんです。そいつが、それらしいことを言っていました。確証はないですけど、もしそんなのが居るなら、僕は——」

「——復讐って事?」

「……え?」

 言葉を遮られたユウキは、桜華の声のトーンが、これまでと全く異なっていたことに驚いた。茶化そうという意思など、粉微塵ほども感じさせない声色であったのだ。

「その存在に、故郷を滅ぼされた報復をしたいの?」

「それは……」

「オススメはしない、かな……」

「まるで経験者みたいな言い方ね」

「……まあ、色々とね」

 桜華の視線はその場の誰にでもなく、どこか遠くに向いていた。そこへ、慌てた様子の防人がやって来た。
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