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第3章 : 乖離
夕日に向かって
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◇◇◇
更に一年が経過。それなりに戦力を蓄えた大蛇は、来たるべき時のために、スサノオの活動拠点を探していた。
復讐の時が迫る。宝を盗まれたことが憎いのではない。それに際して家族や友達、大切な命を奪われたことに対する憤りである。
桜華と小町は、育ての親である神主を含め、家族のようであった者たちが全員殺されている。このリベンジはもはや、彼女らの生きる理由でもあった。
「これまでの報告をまとめると、奴らのアジト候補は三か所に絞れるの」
屋根裏に集まった八人の幹部。皆、小町が広げたウルスリーヴル国内の地図に注目する。
彼女は筆に薄く墨をつけ、スサノオの拠点と思しき場所に丸印をつける。
「ここと、ここと……ここね」
一つは、ウルスリーヴル城から見て北部。大蛇が居るのは南側であるため、真反対と言う事になる。
一つは、南東部。ここは未だ開発が進んでおらず、街はあるが同時に森もある地域だ。組織の姿を隠すにはちょうど良い場所だと言える。
「……南東、ね」
桜華と小町の居た神社は、ここ南側と南東部の境にある。
そして最後に、西側である。ここには港があって、鎖国体制をとっているウルスリーヴルが唯一、外とのやり取りを行う場所だ。
「う~ん、結構バラけてるんだね」
鍛冶屋の息子が言う。
「そうだね。ここから特定するには、もっと調査しないと」
「一番現実的なのは港だよね」
相変わらずだらしなく胡坐をかいた幹部の少女、桜華が言った。
スサノオは盗賊の集団である。盗った品はどうするか。無論、鑑賞して楽しんでいるわけではないだろう。
港から国外に出して売りさばいていると考えるのが妥当ではないかと、桜華は推測している。
「そうね。そっちを重点的に調べた方が良さそう」
少し考え、小町が調査方針を指示する。
「各幹部を隊長として、大蛇を八班に分ける。四班は港を、北と南東を残りの二班ずつ手分けして調査するよ。班分けは私らで考えておいて、次回連絡するから」
「え、私も考えるの」
「……当然でしょ? んじゃ、そういう事で。質問とか無ければ、今日はこれで解散にしようか」
「小町さん、一個、訊きたいんだけど」
幹部の一人、骨董屋の娘が質疑の為に挙手をした。
「ん?」
「これから本格的にスサノオを調べるって事だけど、もし勘付かれて攻撃されたら、どうすればいいの?」
もっともな疑問であった。大蛇の幹部と言えど、ここに居るのは皆、戦う事に関しては素人である。
対して相手は盗賊で、殺しという行為に慣れた集団だ。戦闘になった場合、どちらに軍配が上がるかは考えるまでも無い。
「うん、それも大蛇の課題だよね。武器は揃ってきたけど、肝心の使い手が育ってない。かく言う私も、大した使い手じゃないし……」
「でしょ? 一方的に潰されてお終い……って未来しか見えないよ」
「う~ん。せめて、最低限戦えるだけの基礎剣術は身に着けたいよね」
「じゃあ、ウチの道場でも使います?」
そう提案したのは、道場の姉弟の姉である。それなりに大きな道場の子らだ。
「それもいいけど、怪しくない? 一気に三十人も門下生になりたがったらさ」
「……まあ、確かに」
「場所はいいのよね、そこらの河川敷でも使えば。問題は剣を教える人が——」
師範が居ない。ただ我流で剣を振るい続けても、天才でもない限り成長速度や到達点はたかが知れている。
——困ったなぁ
——どこかに居ないかな
——大蛇に関して怪しむことなく
——大人数に剣を教えてくれる人
——どこかに……どこかに……
「あ」
何かひらめいた小町は、大蛇創設の仲間である桜華を見る。
「……な、なにっ⁈」
まさかな、と。どうして小町が自分を見たのか、自身の解釈が間違っていることを祈るばかりの桜華。
だがやはり、家族同然の彼女らは思考も似ているようだ。
「居るじゃん、教えてくれる人。大蛇が誇る剣豪、美少女剣士様がここに!」
「こんな時ばっか……。まあ良いけど、私のは完全に我流だから、基礎剣術なんて分かんないよ?」
「桜華さん、それは大丈夫です」
基礎が学べないという問題に対し、道場の娘が解決策を提案する。
「ウチの道場に、基本剣術の指南書がいくらでもあるので。お父さんに頼んでいくつか借りてみます」
「そっか。じゃあ、お願いしようかな。ついでに私も勉強しちゃお」
「あれ、美少女剣士様も修行が必要なの?」
「秀才美少女剣士を目指して、ね」
「あ……うん……。じゃあその指南書、次回までに用意できる?」
「はい、なんとかします」
「了解。じゃあ次回は、班分けと分担、剣の修行についてね」
その日の幹部会は解散。各々が自宅またはアジトへ戻る。
「じゃ、また明日」
六人の幹部を見送ったのち、桜華もまた立ち上がる。杖のように使っていた刀を腰に携え、あくびと伸びをして階段へ。
桜華と彼女の部下たちは、以前とは別の場所にアジトを構えた。防人に突撃されてしまった以上、同じ場所には留まれない。
「ねえ、小町」
「うん?」
「前、アジトに来た防人の女覚えてる?」
「え? まあ。やけに高貴な人でしょ?」
「うん。正直、小町たちが来なかったら、勝てる見込みも無かった」
「……」
「そんな人が、スサノオの名前を聞いて言葉を詰まらせたの」
「そうだったね」
「私たちで、本当に倒せるのかなって」
「……珍しいね、桜華が弱音吐くなんて」
「だってそうでしょ? 現実的に——」
「ここまで来たら、止まれないよ。大蛇にはもう、退路は無い」
「そう……だよね」
「そのために、桜華には師範をやってもらうんだから。頼むよ? 美少女剣士様」
「小町に言われると、変に自信出るな~。よっしゃ、大蛇全員、天才剣士にしちゃおっかな」
「うん、その意気でお願い」
軽くハイタッチをして、桜華は一段ずつ階段を降りる。最後にもう一度、小町に手を振って集会所を後にした。
日が沈み始めている。暗くなる前にと、彼女は足早にアジトへ戻っていった……。
更に一年が経過。それなりに戦力を蓄えた大蛇は、来たるべき時のために、スサノオの活動拠点を探していた。
復讐の時が迫る。宝を盗まれたことが憎いのではない。それに際して家族や友達、大切な命を奪われたことに対する憤りである。
桜華と小町は、育ての親である神主を含め、家族のようであった者たちが全員殺されている。このリベンジはもはや、彼女らの生きる理由でもあった。
「これまでの報告をまとめると、奴らのアジト候補は三か所に絞れるの」
屋根裏に集まった八人の幹部。皆、小町が広げたウルスリーヴル国内の地図に注目する。
彼女は筆に薄く墨をつけ、スサノオの拠点と思しき場所に丸印をつける。
「ここと、ここと……ここね」
一つは、ウルスリーヴル城から見て北部。大蛇が居るのは南側であるため、真反対と言う事になる。
一つは、南東部。ここは未だ開発が進んでおらず、街はあるが同時に森もある地域だ。組織の姿を隠すにはちょうど良い場所だと言える。
「……南東、ね」
桜華と小町の居た神社は、ここ南側と南東部の境にある。
そして最後に、西側である。ここには港があって、鎖国体制をとっているウルスリーヴルが唯一、外とのやり取りを行う場所だ。
「う~ん、結構バラけてるんだね」
鍛冶屋の息子が言う。
「そうだね。ここから特定するには、もっと調査しないと」
「一番現実的なのは港だよね」
相変わらずだらしなく胡坐をかいた幹部の少女、桜華が言った。
スサノオは盗賊の集団である。盗った品はどうするか。無論、鑑賞して楽しんでいるわけではないだろう。
港から国外に出して売りさばいていると考えるのが妥当ではないかと、桜華は推測している。
「そうね。そっちを重点的に調べた方が良さそう」
少し考え、小町が調査方針を指示する。
「各幹部を隊長として、大蛇を八班に分ける。四班は港を、北と南東を残りの二班ずつ手分けして調査するよ。班分けは私らで考えておいて、次回連絡するから」
「え、私も考えるの」
「……当然でしょ? んじゃ、そういう事で。質問とか無ければ、今日はこれで解散にしようか」
「小町さん、一個、訊きたいんだけど」
幹部の一人、骨董屋の娘が質疑の為に挙手をした。
「ん?」
「これから本格的にスサノオを調べるって事だけど、もし勘付かれて攻撃されたら、どうすればいいの?」
もっともな疑問であった。大蛇の幹部と言えど、ここに居るのは皆、戦う事に関しては素人である。
対して相手は盗賊で、殺しという行為に慣れた集団だ。戦闘になった場合、どちらに軍配が上がるかは考えるまでも無い。
「うん、それも大蛇の課題だよね。武器は揃ってきたけど、肝心の使い手が育ってない。かく言う私も、大した使い手じゃないし……」
「でしょ? 一方的に潰されてお終い……って未来しか見えないよ」
「う~ん。せめて、最低限戦えるだけの基礎剣術は身に着けたいよね」
「じゃあ、ウチの道場でも使います?」
そう提案したのは、道場の姉弟の姉である。それなりに大きな道場の子らだ。
「それもいいけど、怪しくない? 一気に三十人も門下生になりたがったらさ」
「……まあ、確かに」
「場所はいいのよね、そこらの河川敷でも使えば。問題は剣を教える人が——」
師範が居ない。ただ我流で剣を振るい続けても、天才でもない限り成長速度や到達点はたかが知れている。
——困ったなぁ
——どこかに居ないかな
——大蛇に関して怪しむことなく
——大人数に剣を教えてくれる人
——どこかに……どこかに……
「あ」
何かひらめいた小町は、大蛇創設の仲間である桜華を見る。
「……な、なにっ⁈」
まさかな、と。どうして小町が自分を見たのか、自身の解釈が間違っていることを祈るばかりの桜華。
だがやはり、家族同然の彼女らは思考も似ているようだ。
「居るじゃん、教えてくれる人。大蛇が誇る剣豪、美少女剣士様がここに!」
「こんな時ばっか……。まあ良いけど、私のは完全に我流だから、基礎剣術なんて分かんないよ?」
「桜華さん、それは大丈夫です」
基礎が学べないという問題に対し、道場の娘が解決策を提案する。
「ウチの道場に、基本剣術の指南書がいくらでもあるので。お父さんに頼んでいくつか借りてみます」
「そっか。じゃあ、お願いしようかな。ついでに私も勉強しちゃお」
「あれ、美少女剣士様も修行が必要なの?」
「秀才美少女剣士を目指して、ね」
「あ……うん……。じゃあその指南書、次回までに用意できる?」
「はい、なんとかします」
「了解。じゃあ次回は、班分けと分担、剣の修行についてね」
その日の幹部会は解散。各々が自宅またはアジトへ戻る。
「じゃ、また明日」
六人の幹部を見送ったのち、桜華もまた立ち上がる。杖のように使っていた刀を腰に携え、あくびと伸びをして階段へ。
桜華と彼女の部下たちは、以前とは別の場所にアジトを構えた。防人に突撃されてしまった以上、同じ場所には留まれない。
「ねえ、小町」
「うん?」
「前、アジトに来た防人の女覚えてる?」
「え? まあ。やけに高貴な人でしょ?」
「うん。正直、小町たちが来なかったら、勝てる見込みも無かった」
「……」
「そんな人が、スサノオの名前を聞いて言葉を詰まらせたの」
「そうだったね」
「私たちで、本当に倒せるのかなって」
「……珍しいね、桜華が弱音吐くなんて」
「だってそうでしょ? 現実的に——」
「ここまで来たら、止まれないよ。大蛇にはもう、退路は無い」
「そう……だよね」
「そのために、桜華には師範をやってもらうんだから。頼むよ? 美少女剣士様」
「小町に言われると、変に自信出るな~。よっしゃ、大蛇全員、天才剣士にしちゃおっかな」
「うん、その意気でお願い」
軽くハイタッチをして、桜華は一段ずつ階段を降りる。最後にもう一度、小町に手を振って集会所を後にした。
日が沈み始めている。暗くなる前にと、彼女は足早にアジトへ戻っていった……。
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