天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第3章 : 乖離

鎖国の地

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◇◇◇

 ブライトヒル王国から旅立ったクライヤマ出身の少年ユウキと、ブライトヒル王国騎士団第一部隊長アインズ。

 二人は、ブライトヒル王国との友好国であるニューラグーン国へ赴き、その国土近辺に刺さる鎖を破壊した。

 巫女の冤罪を払う足がかりを残し、各地の文化見聞を望む少女ポリアを連れ、次なる目的地へと旅立った。その道中である。

「ウルスリーヴル?」

「ええ。そこが、次の目的地よ」

 アインズが手綱を握り、ユウキとポリアはブライトヒルの座席車に。

「と言うことは、まずはハーフェン港ですね」

「そうなるわね」

「港ってことは、島?」

「そうよ。まあその辺は、ポリアの方が詳しいかもしれないわね」

「えっと、では、簡単に……」

 荷物の中から筒状に丸められた地図を取り出す。それを広げ、ペンにインクを着けて解説が始まった。

「まず、ここがウルスリーヴルです」

 クライヤマから見て、極東に位置する島が丸で囲まれた。

 ブライトヒルやニューラグーン、クライヤマなどがある場所を大陸とするのなら、ウルスリーヴルは海に囲まれた島国となる。

「ここへ行くには、ハーフェン港で所定の手続きをしないとダメらしいです」

「……手続き?」

「はい。この国は今、国交をほとんど絶っているんです。なので、許可を得ていない船は入港も許されないかと」

「そうなんだ。ちょっと、クライヤマに似てるかもね」

「確かクライヤマも、周辺の国とはあまり関わってないんですよね⁈」

 ユウキの呟きに食いついたポリアは、新たな知識を得られるかもと、目を輝かせながら聞き返した。

「え、う、うん」

 彼女の圧に押されながら肯定の返事をした。

「あっ、ごめんなさい……。ウルスリーヴルは昔から、攻められたり同盟を持ち掛けられたりすることが多かったみたいです」

 気を取り直し、ポリアは説明を再開した。ユウキもまた姿勢を直し、聞き入る。

「ウルスリーヴルは資源が豊富だって聞いた事があるわね」

「そうなんです。それを目当てに他国が干渉するんだそうです。ただ彼らとしても、その資源は自分たちで使いたく、煩く感じて交流を絞っているんです」

「へえ……」

 それ即ち、鎖国状態であると。そんなウルスリーヴルへ入る唯一の手段が、ハーフェン港にて正規の手続きを行う事であった。

「ちなみにですけど」

 何か思い出したかのように、新たな解説を付け加える。

「ウルスリーヴルは戦争をしたくないらしいですが、防人と呼ばれる国防組織は、かなり強力だって聞いた事があります」

「なるほど、そうだったのね。だから……」

 過去において、ブライトヒルがウルスリーヴルを攻撃した事は無かった。強力だという「防人」を懸念しての事だったのだろう……と、アインズはそう考察した。

 加えて、国土面積だけを考えれば、ブライトヒルよりもウルスリーヴルの方が大国と言えてしまう。

「それと、特徴的な統治体制が採用されてます」

「特徴的?」

「聞いたことないわね」

 ウルスリーヴルの統治に関しては、アインズも知識を持っていない。

「はい。ウルスリーヴルでは、建国から今に至るまで、必ず女性が統治者になっているんです」

「そうだったのね」

「統治者って程じゃないけど、クライヤマも似たような感じだったな」

「クライヤマも代々地位を継いだ巫女様がいらっしゃいますもんね⁈」

「う、うん……」

──クライヤマの話になると凄いな

「あっ、つい……。あとは……島国ですから、食べ物は海産物が多いみたいですね」

「あら、それは楽しみね」

「……旅行?」

◇◇◇

 ──真っ白な神殿

「以上が、かの不埒者に関する報告で御座います」

 玉座に座するは、人の見た目をした妖しい女性。黒い衣服に身を包んで脚を組み、報告する従者を見下ろす。

「うん、うん」

 布面積の少ない羽衣からは、白く艶やかな身体が見え隠れする。その肌が黒と対になり、見事な美を演出している。

「カマイタチが殺られております。おそらくは、日の巫女の遣いかと」

「でもぉ、あいつは……日の巫女は死んだんでしょ?」

 見た目に反する幼稚な言葉遣いでもって、従者の言葉に応える。

「はい。しかし、月長石が壊されたとなると、彼奴は日長石を持っていると思われます」

「えぇ何ソレェ──」

 それまで小悪魔的な微笑みを浮かべていたその女性は、唐突に無の表情になり、声色も低くして続けた。

「──ウッザ」

 その落差に身震いしながらも、女性に次なる提案を促す。

「如何しましょう?」

「う~ん、ま、大丈夫でしょ」

「……と、仰いますと?」

「だって、君が何とかしてくれるんでしょ?」

「はっ、ご命令とあらば」

「ふふっ。じゃあお願いね? そいつを殺してくれたら……」

 彼女はまた情欲を煽る様な表情に戻り、下腹部から胸にかけて右の中指と人差し指でなぞる。

「ね? お願い、ジュアン」

ニヤリと、また妖艶な顔で言葉を返す。

 そんな主の容姿に密かに見とれつつ、ジュアンと呼ばれた彼は、勿論と食い気味に納得した。

「必ずや」

 立ち上がって女性に一礼し、従者は部屋を後にした。

 深い青色の装飾が入った鎧を身に付けた彼は、マントを翻して歩みながら思う。

──ああ、セレーネ様

──ボクは貴女様の奴隷

──必ずお役に立って

──ああ、ああ、セレーネ様!

「その為に……奴には死んで貰わなきゃ」

 首から提げた月長石の首飾りを手に持ち、その闇のような輝きを観察する。

「くくく……ふ、ふふっ、ふはははははっ!」

 彼の嗤いは、虚空と奈落へ消え行く。そんな事は気に留めず、一段一段、階段を降りる。

 神殿の下に位置する踊り場を含めて三つ目。それより下は、不自然に崩れ落ちた痕跡が見られた。

「ふん、カマイタチめ。セレーネ様より守護者の役割を賜りながら……腑抜けが」

──まぁ、いい

──元々、貴様らに期待などしてない

──セレーネ様のお役に立てるのはボクだけだ

 傲慢な思考に駆られながら、ジュアンは
現状最下層にある月長石に触れた。景色が歪む。

 次にジュアンが見たのは、美しく広がる平原。遠くの方には、綺麗な桜並木が見えた。

「次に奴はここへ来る。そう、セレーネ様は仰ったな」

 周辺を見渡し、街が見えた方向へ歩み始めた。その顔には、愛情に対する激しい飢えと、狂気が見て取れたのであった──。

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