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第2章:破壊
夢へ向かって
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◇◇◇
──ポリア宅前
二人の旅に同行したいと言う少女、ポリアの自宅へ。馬車を停めて馬を落ち着かせ、玄関扉をノックする。
「ああ、ユウキさん。ごめんなさいね、あの娘ってば荷物が多くて」
「荷物?」
「い、今、行きます……っ!」
廊下の奥から聞こえてきた声に気付き、様子を伺う。
「ほんとだ、凄い荷物……」
大きな鞄を背負い、それに加え、大きな風呂敷包みを両手で運んでいる。
──鈍器か何か?
「なるべく身軽で行きなさいとは言ったんですけど、文化系の本と帳面を沢山持っていくんだって聞かなくて」
「なるほど……」
「ふふっ、勉強熱心で良いじゃないですか」
いつの間にかユウキの背後にいたアインズが感心した。かく言うユウキも、その勤勉さには恐れ入っていた。
クライヤマにも一定の教育は存在したが、彼はあまり得意としていなかった。
「持つよ」
「す、すみません、ありがとうございます」
ポリアから風呂敷包みを受け取り──
「重っ!」
これを持って自室から降りてきた事に、少し敬意を表した。
先程貰ったニューラグーンの座席車まで運び、戸を開けて待機していたアインズに引き渡す。
アインズが持ちやすいように、結び目を差し出す。
「重いですよ」
「ええ」
荷物を受け取ったアインズは、右手で結び目を持って左側の座席に乗せた。
──か、片手⁈
「そっちも乗せちゃいましょうか」
ポリアが背負っている鞄も、かなりの重量に見える。
そんな物を持っていては別れの挨拶に集中できまいと、アインズが気を利かせた。
「では、お願いします」
「うん、覚悟は出来た!」
少女から鞄を受け取った。地につけて汚してしまわぬよう、少年もまた気を遣って必死に持ち上げる。それを、先程と同様にしてアインズへ渡す。
「一応、重いですからね」
「ええ」
彼女はまた右手で受け取り、座席へ。
──片手!
「これで全部かしら?」
「はい、ありがとうございます!」
ユウキらに礼を言い、母親の方へ振り返った。両名とも寂しげな表情を浮かべている。
「じゃあ、行ってくるね」
「ええ。行ってらっしゃい、ポリア」
アインズが母親に一礼し、馬の手綱を握った。寂寞と興奮が入り乱れたまま、ポリアはニューラグーンの座席車へ。
戸を閉めた後も、繰り返し母親に手を振っている。
「では、出発しますね」
「ええ。くどいようですが、娘を頼みます」
どうしてポリアの母親は、ここまで自分らを信頼するのだろうか。ふと疑問に感じたユウキ。
それを察してか、母親は少年に小さな声で言った。
「ポリアは、クライヤマの事を勉強していて、皆が間違った認識をしているのだと私や父に力説してくれたんです」
「……そうだったんですね」
「それにあの娘、あなたを見て嬉しそうにしていました。ふふっ。普段は大人しいポリアが、あんなに興奮して何かを話すなんて」
そう語る母親の表情は、寂しさよりも嬉しさが勝っているように見える。
一人娘が長期の旅に出ることは、無論、寂しい上に心配だろう。
しかしポリアの両親は、彼女のあまりの熱心さに心打たれ、迷いを払拭して此度の了承に至った。
——中等学校が終ったら進学するものだ
——みんな同じ決められた事を勉強するんだ
——世論がそうなら妄信的に主張するんだ
そう言った数々の拘束を破壊して見せたポリアが、遂に己の殻さえも壊して旅に出たいと申し出た。
その成長が、彼女らにとっては何よりも嬉しかったのだ。
「……じゃあ、そろそろ。必ず、無事で返しますから」
「ええ。よろしくお願いします」
ユウキも馬車──ブライトヒルの紋章が入った座席車に乗り込んだ。
ゆっくりと動き出し、次第に距離が大きくなっていく。少女はまだ、手を振り続けていた。
「家族……親……か」
微笑ましい親子の姿を見て、ユウキは呟いた。
彼の言葉を聞いてか、手綱を握るアインズの手には強い力が込められていた——。
──────────────
第2章 破壊 完
──ポリア宅前
二人の旅に同行したいと言う少女、ポリアの自宅へ。馬車を停めて馬を落ち着かせ、玄関扉をノックする。
「ああ、ユウキさん。ごめんなさいね、あの娘ってば荷物が多くて」
「荷物?」
「い、今、行きます……っ!」
廊下の奥から聞こえてきた声に気付き、様子を伺う。
「ほんとだ、凄い荷物……」
大きな鞄を背負い、それに加え、大きな風呂敷包みを両手で運んでいる。
──鈍器か何か?
「なるべく身軽で行きなさいとは言ったんですけど、文化系の本と帳面を沢山持っていくんだって聞かなくて」
「なるほど……」
「ふふっ、勉強熱心で良いじゃないですか」
いつの間にかユウキの背後にいたアインズが感心した。かく言うユウキも、その勤勉さには恐れ入っていた。
クライヤマにも一定の教育は存在したが、彼はあまり得意としていなかった。
「持つよ」
「す、すみません、ありがとうございます」
ポリアから風呂敷包みを受け取り──
「重っ!」
これを持って自室から降りてきた事に、少し敬意を表した。
先程貰ったニューラグーンの座席車まで運び、戸を開けて待機していたアインズに引き渡す。
アインズが持ちやすいように、結び目を差し出す。
「重いですよ」
「ええ」
荷物を受け取ったアインズは、右手で結び目を持って左側の座席に乗せた。
──か、片手⁈
「そっちも乗せちゃいましょうか」
ポリアが背負っている鞄も、かなりの重量に見える。
そんな物を持っていては別れの挨拶に集中できまいと、アインズが気を利かせた。
「では、お願いします」
「うん、覚悟は出来た!」
少女から鞄を受け取った。地につけて汚してしまわぬよう、少年もまた気を遣って必死に持ち上げる。それを、先程と同様にしてアインズへ渡す。
「一応、重いですからね」
「ええ」
彼女はまた右手で受け取り、座席へ。
──片手!
「これで全部かしら?」
「はい、ありがとうございます!」
ユウキらに礼を言い、母親の方へ振り返った。両名とも寂しげな表情を浮かべている。
「じゃあ、行ってくるね」
「ええ。行ってらっしゃい、ポリア」
アインズが母親に一礼し、馬の手綱を握った。寂寞と興奮が入り乱れたまま、ポリアはニューラグーンの座席車へ。
戸を閉めた後も、繰り返し母親に手を振っている。
「では、出発しますね」
「ええ。くどいようですが、娘を頼みます」
どうしてポリアの母親は、ここまで自分らを信頼するのだろうか。ふと疑問に感じたユウキ。
それを察してか、母親は少年に小さな声で言った。
「ポリアは、クライヤマの事を勉強していて、皆が間違った認識をしているのだと私や父に力説してくれたんです」
「……そうだったんですね」
「それにあの娘、あなたを見て嬉しそうにしていました。ふふっ。普段は大人しいポリアが、あんなに興奮して何かを話すなんて」
そう語る母親の表情は、寂しさよりも嬉しさが勝っているように見える。
一人娘が長期の旅に出ることは、無論、寂しい上に心配だろう。
しかしポリアの両親は、彼女のあまりの熱心さに心打たれ、迷いを払拭して此度の了承に至った。
——中等学校が終ったら進学するものだ
——みんな同じ決められた事を勉強するんだ
——世論がそうなら妄信的に主張するんだ
そう言った数々の拘束を破壊して見せたポリアが、遂に己の殻さえも壊して旅に出たいと申し出た。
その成長が、彼女らにとっては何よりも嬉しかったのだ。
「……じゃあ、そろそろ。必ず、無事で返しますから」
「ええ。よろしくお願いします」
ユウキも馬車──ブライトヒルの紋章が入った座席車に乗り込んだ。
ゆっくりと動き出し、次第に距離が大きくなっていく。少女はまだ、手を振り続けていた。
「家族……親……か」
微笑ましい親子の姿を見て、ユウキは呟いた。
彼の言葉を聞いてか、手綱を握るアインズの手には強い力が込められていた——。
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第2章 破壊 完
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