天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第2章:破壊

新たな同行者

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◇◇◇

 翌朝。襲撃を乗り越えたニューラグーン国の朝は、普段よりも騒がしいものであった。

 鎧を身に付けた騎士たちが練り歩き、被害状況を調査している。

宿の契約を延長したユウキとアインズはそこで夜を明かした。


 もう一度お礼が言いたいと、ユウキはニューラグーンに住む少女であるポリアの家を訪ねた。

「……そうですか、あの娘がそんな事を」

 襲撃が収まった後、城の医務室から自宅へ届けられたポリアは、その間に於いても眠り続けた。

 昨晩の交流があったため、ポリアの母親は恩を返すと言って、二人を居間に上げる事は躊躇わなかった。

「はい。命を助けられた訳ですから、僕から何か恩返しがしたいのですが……」

 救命の礼になるような返礼が思い付かずに居た。

──お金は僕らも大して無いし

──欲しい物?

──食べたいもの?

──ダメだ、軽過ぎる

「ポリアさん、普段何か言ってませんか?」

「あの娘は……その……」

 あるにはある、と言った様子の母親。少年は、それを教えてくれと言う意思を込めて首を傾げる。

「旅をしたい、と」

「……旅?」

「ええ。世界中の文化が好きらしく、見て回りたいと言って聞かなくて」

「旅か……」

 チラッとアインズに視線を向ける。彼女は「う~ん」と数秒考え込み、やがて母親に問うた。

「お母様は、それについてどうお考えなのですか?」

「私は……」

 視線を逸らし、斜め下を見て言葉を詰まらせながら返答する。

「娘がやりたい事をやらせてあげたい。そう言う気持ちはあります。けど、やっぱり一人で旅立たせるのは心配で……」

──まあ、そうだろうな

 母親の言葉に同感のユウキではあったが、ポリアが倒れる直前に言った事が心に残っていた。

──私を、一緒に

 それはアインズも同様で、今の母親の話と合わせれば、ポリアはユウキと自身の行脚に同行したいと考えているのだろうと、容易に察しがついた。

「あ、噂をすれば……」

 二階から降りてくる足音が聞こえた。ポリアがゆっくりと階段を一段ずつ踏む。

 どうして家に居るのか。どうやって帰宅したのか。様々な疑問を抱えながらの歩行であった。

「おはよう、ポリア」

 居間の戸を開いた少女に、母親が朝の挨拶を投げかけた。

「おはよ……え?」

 人数が多い事に気付いたポリアは、まだ眠い目をこする。

「ど、どうして家に?!」

「昨日、あなたをお城から運んでくれたのよ」

「そ、そうなんですか! ありがとうございます!」

「いえいえ、僕の方こそ、ありがとうね」

「ポリアにお礼がしたくて、わざわざ来てくださったのよ」

「お礼なんて、そんな」

一気に目が覚め、スキップ気味に母親の横の空席へ。

「昨晩、私たちに何か言いかけたわよね?」

「あっ、え、えっと……それは……」

 また昨日の緊張を思い出してしまった。しかし同時に、言うと決心した事も思い返した。

 背筋を伸ばし、両手を膝に置いた。まっすぐに客人の方を向いて言葉を放った。

「私を、お二人の旅に同行させてください!」

 頭を下げるポリア。ユウキはアインズを見て返事を伺う。

──私は構わないわよ

 との意思を込めて彼女は微笑みながら頷き、母親へ視線を送る。ユウキとアインズが何と言おうと、最終判断は彼女に委ねられる。

「……約束を、してください」

 迷った挙句、俯いていた母親は二人の目を見て言った。

「娘の無事を、約束してください」

「ええ、もちろん」

「この命に換えても、ポリアさんをお守りします」

「分かりました。では、娘を……お願いします」

「ありがとう、お母さん」

「勉強しに行くんだからね。遊んでばっかりじゃダメよ?」

「分かってるよ……」

 家族に笑顔が戻ったところで、アインズが現実的な話を持ちかける。

「それでは、お互い準備が色々ありますし、我々は一度失礼します」

 荷物の準備などと言った簡単な話ではない。学校をしばらく休む手続きが一番の関所だろう。

 ユウキらにも、それなりの準備がある。次の目的地までの食料や水が必須だ。ポリアと別れ、いったん宿へ戻ることにした。

「護る物ができたわね」

「ですね」

 個人的な理由で始まった旅は、ポリアの同行によってユウキだけのものではなくなった。

 ここからは彼女を預かる責任が生じる。その緊張がまた、ユウキを鼓舞するのであった──。

◇◇◇

 その翌日。もろもろの準備を終えた二人は、最後に再び王城へ。二人が不在の間に、宿に手紙が届けられていた為だ。

 差出人はニューラグーン国王であり、四班を含めて簡単な送別をしたいとの事である。前回とは違い、晴れ晴れとした気分で廊下を進む。

「こちらです」

 案内人に指示された部屋へ。取っ手を押して扉を開く。

「ああ、ご足労頂きありがとうございます。どうぞ、こちらへ」

「この度は、大変お世話になりました」

 先導のアインズが王の姿を確認して言った。彼の周囲には見知った顔──四班の面々が立っている。

「お世話になりました。本当に」

「こちらこそ。お二人の功績で、我が国に蔓延する不安や不満は次第に解けるでしょう。本当に、ありがとうございます」

 城へ至る道中においても、東に異物は確認できなかった。

「突然お呼び立てして申し訳ない。本日は、お礼をしたく、機会を頂きました」

「お礼なんてそんな」

「いやいや、お二人がニューラグーンの騎士なら、即時昇進させるレベルのお話ですよ」

幾ばくかの言葉を交え、話は本題へ。

「さて、あまりお引き留めも出来ませんでしょうから、早速お礼の品をお渡ししますよ」

「すみません」

 入ったばかりの部屋を出て、城の裏口から外へ。手入れされた芝生の庭が広がっている。

「こちらを、お二人に贈らせてください」

「こ、こんな立派なものを?」

「すごい……」

 王が示したのは、ニューラグーンの紋章が刻まれた馬車の座席車一台であった。ブライトヒルの物に引けを取らない絢爛な逸品である。

「お役に立てましたら、何よりです」

──ちょうど良かった

 同行者が一人増える予定の二人にとって、これほどマッチした贈り物は無い。危うく、野宿の際に床か地面で寝る除け者が生まれるところであった。

◇◇◇

「よし、これで引けるっすよ」

 ブライトヒルの馬車に牽引させる形で接続が完了。見送りを兼ねて作業を手伝った四班に、再三の礼を言う。

「何から何までありがとうございます」

「いえいえ~、お気になさらず」

「……では、また会いましょう」

「そうですね」

「ええ、ぜひ」

「アインズさん、今度食事に──」

「では、これにて失礼します」

「とほほ……」

「またね、ユウキ君」

「はい、ユリアさん。また」

 各々手を振るなど、別れの挨拶を交わした。アインズが馬を走らせる。

 馬車はゆっくりと動き出し、王や四班の面々が遠くなってゆく。別れを惜しむような彼らの表情に、ユウキは温かさを感じた。

 初対面とは違う、確かな信頼が感じられたのであった。
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