24 / 140
第2章:破壊
逆転の紅炎
しおりを挟む
◇◇◇
《抵抗をするな。これは罰である》
戦闘中、ふと知性的な言葉が聞こえ、二人はカマイタチへ視線をやる。今度はあの不協和音である。
《巫女様の大切な月長石に触れた。あまつさえ破壊を目論みた。貴様達は万死に値する》
「巫女様……? 罰……?」
《左様》
「……罰か。それはこっちのセリフだよ」
《何故》
カマイタチの言葉を聞いたユウキの中に、ある推論が生まれた。
──巫女様
──巫女様の大切な月長石
それは明らかに、リオの事ではない。彼女が大切にしていたのは月長石ではなく、日長石だからだ。それに、こんなバケモノたちに「巫女様」と呼ばれる筋合いは、彼女には無い。
──つまり、リオと対になる存在がいる?
──太陽の加護が弱まったのは、そいつのせいなのでは?
「お前らが……」
確証は無い。だが何も分からない現状において、それなりに納得し得る説が誕生した。
クライヤマもリオも悪くない。そう信じて止まない彼にとって、己の心を裏付ける強力な説だ。
「お前らがあの子を殺したからだ!」
《なるほど、貴様は日の──》
「サン・フラメン!」
少年の剣が再度、炎を帯びる。先程までよりも幾分か強さをまして燃ゆる。
《なるほど。これは太陽の……日の巫女の力であるか。貴様を排除する理由が一つ増えた》
──力任せに振らない
──重心を動かして足腰で支える
──脇をしめる
師の教えを思い出しながら、敵の方へと駆ける。
──真っ直ぐ相手を見る
──自分の攻撃の、その後まで見通す!
更に距離を詰める。もう互いに手の届く距離だ。
「くらえ、バケモノ!」
突きのチャンスを見定めるアインズを背に、斬撃を見舞うタイミングを吟味する。
──まだ
が、見計らっているのは互いのようで、見合うだけの時間が続く。
──まだ堪えるんだ
先制攻撃は主導権を取りやすく、有利になりやすい。しかし、此度の敵——カマイタチはひと味違う。
先に攻撃を仕掛ければ瞬時に風と化し、先刻のような、つむじ風攻撃を受ける事になるだろう。故にこそ少年は、カウンターを狙っているのだ。
──まだ、まだ
《シャアアア!》
──っ!
ユウキが危惧していた可能性、風と化しての先制攻撃が来た。
──今!
危惧していたという事は、想定外ではないのだと。そんな様子で、少年は更に前へと進む。カマイタチが離散した位置を過ぎると、真後ろへ急転換。
生成し始めたつむじ風を確認し──
「サン……プロミネンス!」
サン・フラメンの炎を帯びたまま、敢えて空を斬る。勢いよく、剣に付いた血を払うかの様な動作にて、そう叫んだ。
《グギャッア⁈》
炎は剣から独立し、真っ直ぐにつむじ風の種へと飛んでいく。
《ギャアアアアアアア!》
やがて、炎を巻き込んで渦が巻く。つむじ風の発生は瞬時には止まらず、炎柱となった。
──効いたかな?
自身の身体に太陽の力が入り込んできたカマイタチは、悲鳴とともに、堪らず実体を顕にした。それも、厄介なユウキに顔を向けて、である。
「終わりだよ、カマイタチ」
「ブリッツ・ピアス!」
ユウキはこの攻撃の前、アインズに背を向けて走った。そこから更に走り、カマイタチを超えて振り返った。
その少年に向かって顕現した敵は無論、冷静さを欠いた状態でアインズに背を向けた事になる。
《グ!?》
尻尾による迎撃も虚しく、彼女の突きが腰まで貫く。
──足が崩れた、今しか無い!
到来した最大のチャンスを捉え、少年の剣は再び炎を帯びる。
「サン・フラメン!」
《──日の巫女の、力……》
顔面に大形な傷を負い、喉を焼かれたカマイタチは、不協和音にて言葉を放つ。
《放っては──》
「とどめ!」
動きが鈍った敵の右側にまわりこみ、剣を縦に振り上げ——その時の獣の眼差しは怨嗟の様であり、畏怖の様でもあった──硬い皮膚を切り裂いて首を落とした。
「やったわね」
「ええ、これで一息──」
「……つけないみたいね!」
何かの音が聞こえて背後を観察したアインズは、先程自分らが登ってきた階段が崩れていくのを発見した。
磨かれた綺麗なタイルが、まるで嘘であるかのように砂となって落ちていく。
神殿の下が何なのかは不明だが、地面が見えない以上、落ちていい場所でないのは明らかだ。
「ユウキくん、掴まって!」
「はい!」
──ああ、またアレか!
鎖に急接近する為にとった手法、ブリッツ・ピアスを利用した亜光速移動である。
カマイタチと戦った踊り場を抜け、次の階層に続く階段へ。
「危なかったわね」
「うわぁ……」
未知なる敵と戦った大舞台は、妖しく明滅する砂となり奈落へと消えた。
◇◇◇
崩落を眺めながら、瞬きを一つ。
「……あら?」
「戻って来た……?」
次に目を開けた時、ユウキとアインズは平野に立っていた。鎖を破壊する為にやって来た、ニューラグーン国近郊に広がる緑の大地である。
太陽は、真南から少し西に傾いている。
「そうだ、鎖は⁈」
感嘆している場合ではない。主目的であるそれの様子を見る。
「さっきとは、まるで様子が違うわね?」
放たれていた夜空の様な輝きは無く、ただ青白い鉱物が設置されているのみ。
「そっか、鎖の守護者を倒したから」
「なるほど、ね……っ!」
脚に括った短剣を抜き、再度、破壊を試みるも、やはりアインズの攻撃は通らない。
「確か、月長石って言ってましたよね」
「ええ」
カマイタチは言った。
《月長石を如何と知り触れた?》
日長石と相対する名前の石である事から、少々安直であると思いつつ、少年の中で仮説がたった。
「僕なら、壊せるかも」
アインズが一歩下がったのを確認し、少年が再び剣を構える。
「サン・フラメン!」
炎を帯びた剣を、月長石めがけて振り下ろした。
──いける!
攻撃を受けた石は、みるみるヒビ割れていく。大木の枝のように多方面に別れ、やがて、一周したヒビが裏側で邂逅する。
ピシッとガラスの破壊音に酷似した音が聞こえ、月長石は見事に砕け散った。
「やった!」
「やるじゃない」
月長石が割れると、呼応して鎖が朽ち始めた。かの神殿と同じように砂となり、太陽光を受けて煌めきながら風に乗って散っていく。
「……確信しました」
「……」
「これは、僕の使命だ」
「繋がったわね……命が」
「リオの命を──意志を、僕が継げるって事ですね」
「……」
自身の言った意図とは異なる解釈の返答であったが、アインズは
──まぁ、いいわ
と、明るい空を眺める。
月長石のあった場所を起点に、鎖が次々と崩壊していく。やがて月表面まで達し、これにて鎖が一本、破壊された。
──やったよ、リオ
日長石を手に持ち、陽光にかざす。彼女がよくやっていた動作をなぞり、その輝きを観察する。
「あれ……?」
ふと、手触りに違和感を覚えた。
「どうかしたの?」
「あ、いえ……」
──ずっと剣を握ってたから、感覚がおかしくなったんだな
ユウキは少し……ほんの少し、石が小さくなったように感じた。
《抵抗をするな。これは罰である》
戦闘中、ふと知性的な言葉が聞こえ、二人はカマイタチへ視線をやる。今度はあの不協和音である。
《巫女様の大切な月長石に触れた。あまつさえ破壊を目論みた。貴様達は万死に値する》
「巫女様……? 罰……?」
《左様》
「……罰か。それはこっちのセリフだよ」
《何故》
カマイタチの言葉を聞いたユウキの中に、ある推論が生まれた。
──巫女様
──巫女様の大切な月長石
それは明らかに、リオの事ではない。彼女が大切にしていたのは月長石ではなく、日長石だからだ。それに、こんなバケモノたちに「巫女様」と呼ばれる筋合いは、彼女には無い。
──つまり、リオと対になる存在がいる?
──太陽の加護が弱まったのは、そいつのせいなのでは?
「お前らが……」
確証は無い。だが何も分からない現状において、それなりに納得し得る説が誕生した。
クライヤマもリオも悪くない。そう信じて止まない彼にとって、己の心を裏付ける強力な説だ。
「お前らがあの子を殺したからだ!」
《なるほど、貴様は日の──》
「サン・フラメン!」
少年の剣が再度、炎を帯びる。先程までよりも幾分か強さをまして燃ゆる。
《なるほど。これは太陽の……日の巫女の力であるか。貴様を排除する理由が一つ増えた》
──力任せに振らない
──重心を動かして足腰で支える
──脇をしめる
師の教えを思い出しながら、敵の方へと駆ける。
──真っ直ぐ相手を見る
──自分の攻撃の、その後まで見通す!
更に距離を詰める。もう互いに手の届く距離だ。
「くらえ、バケモノ!」
突きのチャンスを見定めるアインズを背に、斬撃を見舞うタイミングを吟味する。
──まだ
が、見計らっているのは互いのようで、見合うだけの時間が続く。
──まだ堪えるんだ
先制攻撃は主導権を取りやすく、有利になりやすい。しかし、此度の敵——カマイタチはひと味違う。
先に攻撃を仕掛ければ瞬時に風と化し、先刻のような、つむじ風攻撃を受ける事になるだろう。故にこそ少年は、カウンターを狙っているのだ。
──まだ、まだ
《シャアアア!》
──っ!
ユウキが危惧していた可能性、風と化しての先制攻撃が来た。
──今!
危惧していたという事は、想定外ではないのだと。そんな様子で、少年は更に前へと進む。カマイタチが離散した位置を過ぎると、真後ろへ急転換。
生成し始めたつむじ風を確認し──
「サン……プロミネンス!」
サン・フラメンの炎を帯びたまま、敢えて空を斬る。勢いよく、剣に付いた血を払うかの様な動作にて、そう叫んだ。
《グギャッア⁈》
炎は剣から独立し、真っ直ぐにつむじ風の種へと飛んでいく。
《ギャアアアアアアア!》
やがて、炎を巻き込んで渦が巻く。つむじ風の発生は瞬時には止まらず、炎柱となった。
──効いたかな?
自身の身体に太陽の力が入り込んできたカマイタチは、悲鳴とともに、堪らず実体を顕にした。それも、厄介なユウキに顔を向けて、である。
「終わりだよ、カマイタチ」
「ブリッツ・ピアス!」
ユウキはこの攻撃の前、アインズに背を向けて走った。そこから更に走り、カマイタチを超えて振り返った。
その少年に向かって顕現した敵は無論、冷静さを欠いた状態でアインズに背を向けた事になる。
《グ!?》
尻尾による迎撃も虚しく、彼女の突きが腰まで貫く。
──足が崩れた、今しか無い!
到来した最大のチャンスを捉え、少年の剣は再び炎を帯びる。
「サン・フラメン!」
《──日の巫女の、力……》
顔面に大形な傷を負い、喉を焼かれたカマイタチは、不協和音にて言葉を放つ。
《放っては──》
「とどめ!」
動きが鈍った敵の右側にまわりこみ、剣を縦に振り上げ——その時の獣の眼差しは怨嗟の様であり、畏怖の様でもあった──硬い皮膚を切り裂いて首を落とした。
「やったわね」
「ええ、これで一息──」
「……つけないみたいね!」
何かの音が聞こえて背後を観察したアインズは、先程自分らが登ってきた階段が崩れていくのを発見した。
磨かれた綺麗なタイルが、まるで嘘であるかのように砂となって落ちていく。
神殿の下が何なのかは不明だが、地面が見えない以上、落ちていい場所でないのは明らかだ。
「ユウキくん、掴まって!」
「はい!」
──ああ、またアレか!
鎖に急接近する為にとった手法、ブリッツ・ピアスを利用した亜光速移動である。
カマイタチと戦った踊り場を抜け、次の階層に続く階段へ。
「危なかったわね」
「うわぁ……」
未知なる敵と戦った大舞台は、妖しく明滅する砂となり奈落へと消えた。
◇◇◇
崩落を眺めながら、瞬きを一つ。
「……あら?」
「戻って来た……?」
次に目を開けた時、ユウキとアインズは平野に立っていた。鎖を破壊する為にやって来た、ニューラグーン国近郊に広がる緑の大地である。
太陽は、真南から少し西に傾いている。
「そうだ、鎖は⁈」
感嘆している場合ではない。主目的であるそれの様子を見る。
「さっきとは、まるで様子が違うわね?」
放たれていた夜空の様な輝きは無く、ただ青白い鉱物が設置されているのみ。
「そっか、鎖の守護者を倒したから」
「なるほど、ね……っ!」
脚に括った短剣を抜き、再度、破壊を試みるも、やはりアインズの攻撃は通らない。
「確か、月長石って言ってましたよね」
「ええ」
カマイタチは言った。
《月長石を如何と知り触れた?》
日長石と相対する名前の石である事から、少々安直であると思いつつ、少年の中で仮説がたった。
「僕なら、壊せるかも」
アインズが一歩下がったのを確認し、少年が再び剣を構える。
「サン・フラメン!」
炎を帯びた剣を、月長石めがけて振り下ろした。
──いける!
攻撃を受けた石は、みるみるヒビ割れていく。大木の枝のように多方面に別れ、やがて、一周したヒビが裏側で邂逅する。
ピシッとガラスの破壊音に酷似した音が聞こえ、月長石は見事に砕け散った。
「やった!」
「やるじゃない」
月長石が割れると、呼応して鎖が朽ち始めた。かの神殿と同じように砂となり、太陽光を受けて煌めきながら風に乗って散っていく。
「……確信しました」
「……」
「これは、僕の使命だ」
「繋がったわね……命が」
「リオの命を──意志を、僕が継げるって事ですね」
「……」
自身の言った意図とは異なる解釈の返答であったが、アインズは
──まぁ、いいわ
と、明るい空を眺める。
月長石のあった場所を起点に、鎖が次々と崩壊していく。やがて月表面まで達し、これにて鎖が一本、破壊された。
──やったよ、リオ
日長石を手に持ち、陽光にかざす。彼女がよくやっていた動作をなぞり、その輝きを観察する。
「あれ……?」
ふと、手触りに違和感を覚えた。
「どうかしたの?」
「あ、いえ……」
──ずっと剣を握ってたから、感覚がおかしくなったんだな
ユウキは少し……ほんの少し、石が小さくなったように感じた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる