天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第2章:破壊

凝縮した夜空

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「さあ、着いたわよ」

「うう……死ぬかと思った……」

 至近距離で見る鎖は、さらに巨大だ。一つ一つのパーツがユウキの倍以上の大きさを誇る。

 地に刺さる部分は剣のようになっていて、いったいどれ程の深さまで地を抉っているのかは、安易な推測を許さない。

「えっと……」

──こんなデカいの、どうやって……

 現状、このあまりにも巨大な鎖を破壊する方法は全く思い付かずにいた。

「大砲でも一門借りてくるべきだったかしら」

 アインズの言葉は誇張などではなく、むしろ、この巨大な構造物を破壊するに際しては、現実的に手段になり得る。

「仕方ない……一か八かね」

 数歩下がった彼女は、鎖に向けて亜光速の突き攻撃を繰り出した。が、二人の聴覚を刺激したのはやはり、剣が弾かれる音であった。

「ダメね。君の力はどう?」

「やってみます」

 こうしている間にも、四班のメンバーが命を懸けて戦っている。いくら強い騎士であるとは言え、その正体は人間である。

 体力が無尽蔵に湧いて出るわけではない。なるべく早い解決が望まれる。

──また力を貸してね、リオ!

 少年は日長石に祈り、剣を構える。深呼吸をし、目を見開いた。

「サン・フラメン!」

 唱えると、彼の持つ剣の刃が炎を纏った。猛然としていて、同時に優しい暖かさを持った炎である。

 少年はそれを振りかざし、師の教えに背いて全力で叩き付けた。

「うっ! 硬いっ!」

 それでも、結果は同じであった。どうやら人間の攻撃ごときで壊せる存在ではないようだ。無論それは、ユウキもアインズも、見た時から分かっていたわけだが。

「……掘るしかない?」

「これだけの土を、ですか……?」

 ここに刺さっている鎖を支えているのは土だ。やろうと思えば掘り起こせるはずだが、月を固定するほどの強度である以上、想像を絶する深さであることは間違いない。

「どうしたら……」

「少し観察してみましょうか」

 無理やり破壊するのは困難との結論に至ったアインズが、武器を腰に戻して鎖をよく調べ始めた。少年も彼女に倣い、しゃがんで鎖の根本付近を注視する。

──ん?

 冷静に調べると、異変は簡単に見つかった。

「アインズさん、これ何でしょう?」

「どれ?」

「ここ、なんか隙間ありません?」

 巨大な鎖と地面に刺さる剣のような構造との境目。剣でいうガードの部分に当たる位置を、ぐるっと一周囲うパーツだ。

 奇妙な模様が刻まれた、縦五十センチ程の部品である。そこに、ユウキは隙間を発見した。報告を受けたアインズは、彼が調べていた方に回って確認する。

「あら、本当ね」

 彼女の小指がギリギリ入らない程度の隙間が見られる。

「剣なら入りそうね」

「確かに」

 携えた剣を抜き、隙間に当ててみるアインズ。

「うん、いけそう」

 自身の計画が実現できそうだと判断した彼女は、切っ先を地面に向け、ガードを横から無理やり隙間にねじ込んだ。

「どうするんです?」

「ちょっと離れてて。私の蹴りがご褒美だって言うなら、そこに居ても良いわよ」

「えっ⁈」

 数歩下がったアインズ。それを見て急いで離れるユウキ。助走をつけ走り込む。恐ろしく綺麗なフォームの飛び蹴りがかまされ、それをくらった剣が鎖の部品に衝撃を伝える。

見事、部品は力を受けて歪んだ。

「やったわね」

「ワイルド過ぎる……」

「何か?」

「いえ! 非常に可憐な蹴りだったと思います!」

「よろしい」

剣を拾い上げ、鎖の様子を伺う。

「もう少しですね」

「ええ。ユウキ君、そっちは頼むわ」

「了解」

 広がった隙間に再び剣を差し込み、押し込む。ユウキはアインズと逆方向に同じ事をする。

「同時に押しましょうか」

「そうですね。タイミングは任せます」

「了解よ。せーのっ!」

少しばかり歪みが広がった。

「もう一回よ、せーのっ!」

 バキッ! と、歪みが限界を迎えた部品が半分に割れて地面へ落ちた。が、安堵や達成感を味わう前に、二人はソレを見てしまった。

「……なに、これ?」

「なんだか、吸い込まれそうですね」

 そこにあったのは、拳大の石だ。本体は青白く、不規則な形をしている。

 輝きはこの世のモノとは思えず、ユウキはそれを満足に表現する言葉を知らなかった。

 強いて言葉にするのなら──夜空を凝縮した様、となる。

 光を放っているにも関わらず、明るさよりも暗さの方が目立つ。そんな、摩訶不思議な石である。

「もしかして、これを破壊すれば……?」

「かもしれないわね」

 アインズは脚に括られた短剣を抜き、逆手に持って不気味な石を突いた。

──その刹那

 周辺数メートルに渡って景色が歪み、まるで渦のようになる。範囲内の全てが石に吸い込まれるようであり、近くに居た二人も例外では無かった。

「なな、なんだ⁈」

「す、吸われるわ……っ!」

「アインズさん!」

 段々と聞こえる音が遠のく。終いには景色そのものも暗くなり、二人はまるで存在しなかったこのように吸い込まれてしまった──。
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