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第2章:破壊
ニューラグーン騎士団第四班
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◇◇◇
——翌日
軽く朝食を済ませ、指定された時間に王城へ。気温は高くも低くもなく、過ごしやすい。それでいて空は完全な快晴で、陽光が眩しい。
これから昼にかけて気温が上がるのだろうと、そう推測するのは難しくない。
「貴女がブライトヒルの?」
近付くアインズを見たニューラグーンの男性騎士が訊いた。彼の視線はアインズの顔から、腰に携えた剣や、装備した鎧へと動いた。
質問への回答を待たずして、結論は出ているのだろう。
「ええ。ブライトヒル王国騎士団のアインズと申します」
「……えっと、ユウキです」
「おお、やっぱり。我々は、ニューラグーンの騎士団、四班の者です」
そうだろうな、と。名乗らずとも、互いの正体に関しては察しがついていた。
すなわちこれは、形式的な挨拶のようなものであり、同時に、会話のきっかけとしてあえて訊くものでもあった。
「私は四班の班長をやっております、ブラントと申します」
街から城へやってきたユウキらから見て、最も手前側にいた騎士が名乗った。
大柄の男性で、アインズはともかく、ユウキでも顔を合わせるには首を少し上に傾ける必要がある。身長に比例してガタイも大きく、背中には大剣が装備されている。
——うわ、デカ。あんなの持ったら腕がちぎれそうだよ……
「班長代理のケスラーっす。よろしく~」
ブラントの背後からひょこっと現れた、チャラチャラした男性騎士が名乗った。オレンジ色の短髪で、右側は刈り上げていて、反り込みが入っている。
見た目は街のごろつきと言ったところだが、しかし、班長代理という立場である以上、騎士としての実力は高いのだろうと思われる。腰の左側に短めの剣を二本装備しているのが見て取れる。
そんなケスラーに続いて、他のメンバーも順番に名乗りを上げた。ミュラー、ヴィンター、アレク、ヒルデ、ユリアである。
最後の二名は女性騎士だ。ユリアはアインズと同年齢で、ヒルデはその二年先輩である。
「ところでアインズさん」
ケスラーが何用かでアインズに話しかける。その表情から、この後の事ではなさそうだが……。
「美人さんっすね。今度、食事に——」
「さて、ぼちぼち出ましょうかブラントさん」
「ええ。あまり、のんびりして居られませんからね」
「おっと無視キメられた~」
「もう」
アインズに対して口説きを試みるケスラーに、ヒルデが両手を腰に当ててあきれたように言う。
「やめてください。ニューラグーンの恥ですよ」
「ええ⁈ 口悪ぅ!」
そんな言葉が飛び交うが、喧嘩という雰囲気ではない。誰も止めない事から、日常茶飯事なのだろうとユウキは考えた。
——ああ、普段からこういう人らなんだ
揉める二人を見て、ユリアが笑っているのを発見したユウキ。少し見ていると、彼の視線に気が付いたユリアが小声で話しかけた。
「ユウキ君も、ブライトヒルの騎士なの?」
棘が一切なく、優しい声をしている。挙動が小さく、まるで動物の様なおっとりしたイメージを与える。
「いえ。僕はただの民間人ですよ。訳あって、この旅に出てます」
「そうなんだ。私ね、半年くらい前に騎士になったばっかりなんだ。だから、まだほとんど民間人なの」
「……民間人は、そんな恐ろしいものは携えませんよ」
彼女の腰に、鎖でつながれた小さい鎌が二本あるのを見たユウキ。ツヴァイの大鎌とは幾分か異なる怖さを感じた。
「ふふふ」
「……」
——怒らせると一番怖いタイプだ、この人
◇◇◇
軽い交流を済ませた四班のメンバーとユウキら。三台の馬車に分かれ、鎖の刺さった場所へ向かう。
うち一台は、他とは違う国の紋章と装飾が施されている。その特異な馬車に乗る二人——ユウキとアインズは、激しい緊張感に襲われていた。
バケモノとの戦闘経験はあるものの、四班の中から一人でも死傷者を出せば、疑いが膨れ上がることは間違いない。
「見えて来たわね」
「……でっかいですね」
ブライトヒル王国城から見た時も巨大に見えた無機質なそれは、ここまで近付くと、逆に現実感を喪失する。あまりのスケールに、夢なのではないかという錯覚が起こる。
距離にして約一キロメートルと言ったところで降車し、ここからは徒歩で接近する。
これと言った特徴のない平野で、足元にはくるぶし程までの低い草々が茂るのみ。
一見すると最高の景色なのだが、降車してからわずか数分で、奴らの姿が見え始めた。
「動物……ではなさそうだな」
この場にいる誰も、人間と同様の歩き方をする生き物を知らない。
「各位、戦闘態勢」
ブラントが命じると、四班の騎士たちが武器を手に取った。
「知っての通り、我が国の騎士団は一度奴らに敗北を喫している。気を抜くなよ」
「班長、目標は?」
ケスラーが訊く。
「まずは、ブライトヒルのお二人が鎖に近付けるように敵を減らす」
「りょーかい、掃除ですね」
「お二人は我々を気にせず鎖へ直行してください。敵は決して近付かせません」
「分かりました。すみません、こんな事に付き合わせてしまって」
「……構いませんよ。鎖の事を少しでも知れるなら、我々としても本望ですし。よし、進軍開始だ!」
ブラントの言葉をきっかけとして、四班のメンバーが走り出した。遅れること数秒、アインズも剣を抜き、ユウキに向かって言う。
「あの人たちが開けてくれた道を真っ直ぐ突き進んで、言われた通り鎖へ直行するわよ。いい?」
「はい!」
「うん、いい返事ね。じゃあ、行くわよ!」
ユウキも剣を抜いて鎖へと向かう。
右側に三人、左側に四人の騎士が散開しており、それぞれ闊歩するバケモノに奇襲をかけている。ユウキとアインズは七人を横目に見ながら、その間を突き進む。
今のところバケモノの妨害は無く、このまま行けばあと一分ほどで鎖に到着するだろう。想像の何倍も強固な守備に驚きながら、なおも進撃を続ける。
ニューラグーンの騎士団の中で、大隊から独立している一班から五班は、成績優良者の集まりである。
幾度もの戦いを生き残る、もしくは、それに匹敵すると判断された騎士が所属している。
その中でも四班は頭一つ飛び出ているとされており、以前ニューラグーンの騎士団が返り討ちにされた鎖調査において、一人の負傷者も出さなかった唯一の班であった。
「来たっ!」
アインズと、その背中を追うユウキ。二人の距離は五メートル程あるが、そこへ小型のバケモノが割り込む。四班の防壁を跳躍によって突破した個体であった。
少年はスピードを落とし、跳んで襲い来る敵を迎撃する心構えを決めた。
両手で持った剣を構え──
「止まらないで!」
「……っ!」
そんな彼に進めと声をかけたのは、四班の新人騎士ユリアであった。彼女を信じて構えた剣を戻し、再度スピードを上げて疾走する。
《ギャギャギャッ!》
勝利を確信したバケモノが奇声を上げる。ユウキの拍動はいっそう速くなったが、しかし、それは杞憂であった。
《グギッ?!》
バケモノの身体に細い鎖が巻き付く。その終点にある小さな鎌の刃先が、見事にバケモノの顔面を捉えた。
「ありがとう、ユリアさん!」
礼の言葉が聞こえたかどうかは不明だが、ユウキはアインズを追う事を優先。だが、少年は騎士でも何でもない民間人。
騎士であるアインズの体力についていけるはずが無く、距離は詰まらない。必死に追いかける少年だったが、今度は逆に、アインズのスピードが落ちているように見えた。
「ユウキくん、私に掴まって!」
「え?」
鎖までは残り十数メートル程度。しかしその進路には中型のバケモノが立ち塞がっている。四班は皆、敵の対処に追われている様子だ。
「一気に抜けるわよ!」
「りょ、了解!」
アインズの思考を察したユウキは、右手を伸ばして彼女の左肩へ。
「目を瞑って、歯を食いしばっておいてね」
「はい」
「行くわよ。ブリッツ・ピアス!」
亜光速の突きを利用した、擬似的な瞬間移動である。通せん坊のバケモノを貫き、勢い衰えず、そのまま鎖へ到着した。
——翌日
軽く朝食を済ませ、指定された時間に王城へ。気温は高くも低くもなく、過ごしやすい。それでいて空は完全な快晴で、陽光が眩しい。
これから昼にかけて気温が上がるのだろうと、そう推測するのは難しくない。
「貴女がブライトヒルの?」
近付くアインズを見たニューラグーンの男性騎士が訊いた。彼の視線はアインズの顔から、腰に携えた剣や、装備した鎧へと動いた。
質問への回答を待たずして、結論は出ているのだろう。
「ええ。ブライトヒル王国騎士団のアインズと申します」
「……えっと、ユウキです」
「おお、やっぱり。我々は、ニューラグーンの騎士団、四班の者です」
そうだろうな、と。名乗らずとも、互いの正体に関しては察しがついていた。
すなわちこれは、形式的な挨拶のようなものであり、同時に、会話のきっかけとしてあえて訊くものでもあった。
「私は四班の班長をやっております、ブラントと申します」
街から城へやってきたユウキらから見て、最も手前側にいた騎士が名乗った。
大柄の男性で、アインズはともかく、ユウキでも顔を合わせるには首を少し上に傾ける必要がある。身長に比例してガタイも大きく、背中には大剣が装備されている。
——うわ、デカ。あんなの持ったら腕がちぎれそうだよ……
「班長代理のケスラーっす。よろしく~」
ブラントの背後からひょこっと現れた、チャラチャラした男性騎士が名乗った。オレンジ色の短髪で、右側は刈り上げていて、反り込みが入っている。
見た目は街のごろつきと言ったところだが、しかし、班長代理という立場である以上、騎士としての実力は高いのだろうと思われる。腰の左側に短めの剣を二本装備しているのが見て取れる。
そんなケスラーに続いて、他のメンバーも順番に名乗りを上げた。ミュラー、ヴィンター、アレク、ヒルデ、ユリアである。
最後の二名は女性騎士だ。ユリアはアインズと同年齢で、ヒルデはその二年先輩である。
「ところでアインズさん」
ケスラーが何用かでアインズに話しかける。その表情から、この後の事ではなさそうだが……。
「美人さんっすね。今度、食事に——」
「さて、ぼちぼち出ましょうかブラントさん」
「ええ。あまり、のんびりして居られませんからね」
「おっと無視キメられた~」
「もう」
アインズに対して口説きを試みるケスラーに、ヒルデが両手を腰に当ててあきれたように言う。
「やめてください。ニューラグーンの恥ですよ」
「ええ⁈ 口悪ぅ!」
そんな言葉が飛び交うが、喧嘩という雰囲気ではない。誰も止めない事から、日常茶飯事なのだろうとユウキは考えた。
——ああ、普段からこういう人らなんだ
揉める二人を見て、ユリアが笑っているのを発見したユウキ。少し見ていると、彼の視線に気が付いたユリアが小声で話しかけた。
「ユウキ君も、ブライトヒルの騎士なの?」
棘が一切なく、優しい声をしている。挙動が小さく、まるで動物の様なおっとりしたイメージを与える。
「いえ。僕はただの民間人ですよ。訳あって、この旅に出てます」
「そうなんだ。私ね、半年くらい前に騎士になったばっかりなんだ。だから、まだほとんど民間人なの」
「……民間人は、そんな恐ろしいものは携えませんよ」
彼女の腰に、鎖でつながれた小さい鎌が二本あるのを見たユウキ。ツヴァイの大鎌とは幾分か異なる怖さを感じた。
「ふふふ」
「……」
——怒らせると一番怖いタイプだ、この人
◇◇◇
軽い交流を済ませた四班のメンバーとユウキら。三台の馬車に分かれ、鎖の刺さった場所へ向かう。
うち一台は、他とは違う国の紋章と装飾が施されている。その特異な馬車に乗る二人——ユウキとアインズは、激しい緊張感に襲われていた。
バケモノとの戦闘経験はあるものの、四班の中から一人でも死傷者を出せば、疑いが膨れ上がることは間違いない。
「見えて来たわね」
「……でっかいですね」
ブライトヒル王国城から見た時も巨大に見えた無機質なそれは、ここまで近付くと、逆に現実感を喪失する。あまりのスケールに、夢なのではないかという錯覚が起こる。
距離にして約一キロメートルと言ったところで降車し、ここからは徒歩で接近する。
これと言った特徴のない平野で、足元にはくるぶし程までの低い草々が茂るのみ。
一見すると最高の景色なのだが、降車してからわずか数分で、奴らの姿が見え始めた。
「動物……ではなさそうだな」
この場にいる誰も、人間と同様の歩き方をする生き物を知らない。
「各位、戦闘態勢」
ブラントが命じると、四班の騎士たちが武器を手に取った。
「知っての通り、我が国の騎士団は一度奴らに敗北を喫している。気を抜くなよ」
「班長、目標は?」
ケスラーが訊く。
「まずは、ブライトヒルのお二人が鎖に近付けるように敵を減らす」
「りょーかい、掃除ですね」
「お二人は我々を気にせず鎖へ直行してください。敵は決して近付かせません」
「分かりました。すみません、こんな事に付き合わせてしまって」
「……構いませんよ。鎖の事を少しでも知れるなら、我々としても本望ですし。よし、進軍開始だ!」
ブラントの言葉をきっかけとして、四班のメンバーが走り出した。遅れること数秒、アインズも剣を抜き、ユウキに向かって言う。
「あの人たちが開けてくれた道を真っ直ぐ突き進んで、言われた通り鎖へ直行するわよ。いい?」
「はい!」
「うん、いい返事ね。じゃあ、行くわよ!」
ユウキも剣を抜いて鎖へと向かう。
右側に三人、左側に四人の騎士が散開しており、それぞれ闊歩するバケモノに奇襲をかけている。ユウキとアインズは七人を横目に見ながら、その間を突き進む。
今のところバケモノの妨害は無く、このまま行けばあと一分ほどで鎖に到着するだろう。想像の何倍も強固な守備に驚きながら、なおも進撃を続ける。
ニューラグーンの騎士団の中で、大隊から独立している一班から五班は、成績優良者の集まりである。
幾度もの戦いを生き残る、もしくは、それに匹敵すると判断された騎士が所属している。
その中でも四班は頭一つ飛び出ているとされており、以前ニューラグーンの騎士団が返り討ちにされた鎖調査において、一人の負傷者も出さなかった唯一の班であった。
「来たっ!」
アインズと、その背中を追うユウキ。二人の距離は五メートル程あるが、そこへ小型のバケモノが割り込む。四班の防壁を跳躍によって突破した個体であった。
少年はスピードを落とし、跳んで襲い来る敵を迎撃する心構えを決めた。
両手で持った剣を構え──
「止まらないで!」
「……っ!」
そんな彼に進めと声をかけたのは、四班の新人騎士ユリアであった。彼女を信じて構えた剣を戻し、再度スピードを上げて疾走する。
《ギャギャギャッ!》
勝利を確信したバケモノが奇声を上げる。ユウキの拍動はいっそう速くなったが、しかし、それは杞憂であった。
《グギッ?!》
バケモノの身体に細い鎖が巻き付く。その終点にある小さな鎌の刃先が、見事にバケモノの顔面を捉えた。
「ありがとう、ユリアさん!」
礼の言葉が聞こえたかどうかは不明だが、ユウキはアインズを追う事を優先。だが、少年は騎士でも何でもない民間人。
騎士であるアインズの体力についていけるはずが無く、距離は詰まらない。必死に追いかける少年だったが、今度は逆に、アインズのスピードが落ちているように見えた。
「ユウキくん、私に掴まって!」
「え?」
鎖までは残り十数メートル程度。しかしその進路には中型のバケモノが立ち塞がっている。四班は皆、敵の対処に追われている様子だ。
「一気に抜けるわよ!」
「りょ、了解!」
アインズの思考を察したユウキは、右手を伸ばして彼女の左肩へ。
「目を瞑って、歯を食いしばっておいてね」
「はい」
「行くわよ。ブリッツ・ピアス!」
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