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第2章:破壊
意外な一面
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◇◇◇
ニューラグーン国へ向かう道中。ユウキとアインズは、旅の方針について話し合いを進める。
「今向かってるのは、クライヤマから見て北の鎖よ」
地図上で指を滑らせ、ユウキに向けて説明する。クライヤマを丸で囲み、そこから北へ。
「で、この辺りがニューラグーン国」
ここまではメーデンの説明で分かっていたユウキ。
「仮にそこの鎖を破壊したとして、次はどっちに行くのがいいですかね……?」
「そうねえ……。まあ、北、東、南と回って」
彼女はまた指で示しながら話す。クライヤマを中心に、時計回りに円を描くように進み——
「いったんブライトヒルに戻るのがいいかもね。体勢を立て直して、それから西側の鎖に向かいましょうか」
北、東、南、西。その順番で鎖を破壊して回る。そして——
「西を壊したら、いよいよクライヤマね」
「クライヤマ……」
ユウキにとって故郷であり、トラウマの地でもある集落。最後の鎖がその場所にある。
「これで晴れて全破壊ね。月は戻ってバケモノも消滅……なんて上手くいってくれればいいけれど」
「そうですね」
「じゃあ、そういう感じで進めましょうか」
大まかな方針は決定した。
すべて計画通りに進められるとは限らないが、次に何をするべきかが決まっているだけで、精神的な負担が大きく減少する。
不安定になりやすいこの状況では、非常に有用な心作りと言えよう。
「……ところで、そろそろ暗くなってきたわね」
「本当ですね。この辺りで一晩過ごしますか」
「ええ。ただ、もう少し西側に寄りましょうか」
「西へ?」
「ええ。近くにフュンオラージュって言う川があるのよ」
「なるほど」
水は何かと生活に欠かせない。長旅だと疎かになりがちな清潔さの維持や、そもそも飲み水の確保は大きな課題だ。
感染症や脱水は、旅の継続を妨げる。多少回り道であっても、水を確保することには多くの利点がある。
◇◇◇
——フュンオラージュ川、近傍
「よし、この辺りにしましょうか」
川を囲う様に生い茂った森が見える。その森の終わった辺り、川端からから十数メートルほどの地点。
「ですね」
馬車を停め、アインズが慣れた手つきでもって馬を落ち着かせる。その間に、ユウキは草むらへ。焚火に使えそうな枝や火口を探す。
「お、これならいけそう」
乾燥した枝や葉を拾い、拠点とする場所へ運ぶ。馬をなだめ終えたアインズが、食材を用意していた。
荷物が増えても困るが故、最低限ではあるものの、一食分にしては満足な量だ。
「おかえり。良い素材はあった?」
「結構ありましたよ」
両手に持った植物を地面に置く。
その内、綿のようになっているものを拾い上げ、左右の手で持って思いきり擦り合わせる。
すると、表皮が破れ、中身の綿が露になる。よく乾燥しているため、火口として使う事が可能だ。
「はい、火打石と打ち金よ」
「ありがとうございます」
二つを打ち付け、火花が綿に落ちるのを待つ。五回ほど打つと、いくつかが目的の場所に落ちてくれた。
火花の落ちた箇所が、赤く光っているのが分かる。消えてしまう前に、ゆっくりと息を吹きかける。やがて光は大きくなり、炎となった。
「あら、上手いものね」
「まあ、クライヤマでずっとやってたので」
ブライトヒルでの生活に比べると、クライヤマのそれは原始的であった。そこで生活してきたユウキにとって、これくらいは朝飯前であった。
◇◇◇
——夜
「……というのが、あの時、クライヤマで起きた事です」
具材が煮えるまでの間、クライヤマでの出来事を、経緯からアインズに話した。日の巫女という存在の説明から、彼女に助けられるところまでである。
「そう、そんなことがあったのね……」
「けど、アインズさんのおかげで僕はこうして生きてるので。改めて、ありがとうございます」
「いいのよ、お礼なんて。それよりゴメンなさい。暗い事ばかり訊いちゃったわね」
「いいんです。誰かに話せて、少し気が楽になりましたし」
焚火に薪を追加する。火があることで、野生動物や虫からの被害は防ぐことが出来る。
消えてしまったら大変な騒ぎだが、森が近いため、素材には困らないであろう。
「そろそろ良いかしらね」
金属の器を、棒を使って火からあげ、具材をフォークでつつく。スープの具材は野菜のみ。味も塩コショウだけのシンプルなものだ。
湯気が顔面を襲い、アインズは少し顔をそらす。野菜はどれも火が通っていそうだ。
「うん、もう食べられそうよ」
「では、いただきます」
「召し上がれ」
ユウキも彼女と同様に火からあげて、一口。
「美味しい……」
夜は少し冷える。そんな中で頂く野菜スープは、身体を芯から温めてくれるようであった。夕食はこのスープとパン、そして煮沸した水だ。
「アインズさん料理できるんですね」
「……どういう意味よ」
「え、いや。ただ褒てるだけですが……」
「ならいいけど」
この質素な食事が御馳走に感じるのは、味付けや火の通し具合といった、アインズの料理手腕のおかげなのだろう。
そんな想いで言葉を放ったユウキだったが……。
「熱っ!」
突然、野菜を口へ運んでいたアインズが叫んだ。
「……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。大丈夫よ、全然」
——その割には恐ろしく慎重な食べ方だな
口は災いのもと、という言葉がある。だから彼は、声には出さず食事を続けた。
「あっ、熱——なに、大丈夫よ」
『アインズはアレでおっちょこちょいな部分がある。その、なんだ。少し気にかけてやってくれ』
——ツヴァイさんが言ってたのってコレか?
◇◇◇
食事を終えた頃には、辺りは既に真っ暗だった。日は落ち、頼りになるのは焚火だけ。
使った食器などを片付け、お湯を沸かして飲み、一息つく二人。
「……」
見上げると、ほとんど満天の星空が見える。
「天候が荒れなくてよかったわね」
「ですね……。星、綺麗ですね」
「そうね」
ほとんどというのは言うまでも無く、月のせいだ。月が地表に近付いたため、その部分の空を拝むことは難しい。
空間に穴が開いていて、二人はまるで吸い込まれそうな感覚に陥った。そんな景色である。
「さて、もうお腹は休めたかしら?」
膝にポンと手を置き、唐突に、ユウキに向かって問うたアインズ。
「え? まあ、休めましたけど」
食事が終わり、気分も落ち着いた。
——後はゆっくり休んで夜を明かすのかな
そう思っていたユウキに対して提案されたのは
「よし。じゃあ、騎士のお姉さんが剣の手ほどきをしてあげる」
王国騎士団第一部隊長アインズによる、直々の訓練であった。
ニューラグーン国へ向かう道中。ユウキとアインズは、旅の方針について話し合いを進める。
「今向かってるのは、クライヤマから見て北の鎖よ」
地図上で指を滑らせ、ユウキに向けて説明する。クライヤマを丸で囲み、そこから北へ。
「で、この辺りがニューラグーン国」
ここまではメーデンの説明で分かっていたユウキ。
「仮にそこの鎖を破壊したとして、次はどっちに行くのがいいですかね……?」
「そうねえ……。まあ、北、東、南と回って」
彼女はまた指で示しながら話す。クライヤマを中心に、時計回りに円を描くように進み——
「いったんブライトヒルに戻るのがいいかもね。体勢を立て直して、それから西側の鎖に向かいましょうか」
北、東、南、西。その順番で鎖を破壊して回る。そして——
「西を壊したら、いよいよクライヤマね」
「クライヤマ……」
ユウキにとって故郷であり、トラウマの地でもある集落。最後の鎖がその場所にある。
「これで晴れて全破壊ね。月は戻ってバケモノも消滅……なんて上手くいってくれればいいけれど」
「そうですね」
「じゃあ、そういう感じで進めましょうか」
大まかな方針は決定した。
すべて計画通りに進められるとは限らないが、次に何をするべきかが決まっているだけで、精神的な負担が大きく減少する。
不安定になりやすいこの状況では、非常に有用な心作りと言えよう。
「……ところで、そろそろ暗くなってきたわね」
「本当ですね。この辺りで一晩過ごしますか」
「ええ。ただ、もう少し西側に寄りましょうか」
「西へ?」
「ええ。近くにフュンオラージュって言う川があるのよ」
「なるほど」
水は何かと生活に欠かせない。長旅だと疎かになりがちな清潔さの維持や、そもそも飲み水の確保は大きな課題だ。
感染症や脱水は、旅の継続を妨げる。多少回り道であっても、水を確保することには多くの利点がある。
◇◇◇
——フュンオラージュ川、近傍
「よし、この辺りにしましょうか」
川を囲う様に生い茂った森が見える。その森の終わった辺り、川端からから十数メートルほどの地点。
「ですね」
馬車を停め、アインズが慣れた手つきでもって馬を落ち着かせる。その間に、ユウキは草むらへ。焚火に使えそうな枝や火口を探す。
「お、これならいけそう」
乾燥した枝や葉を拾い、拠点とする場所へ運ぶ。馬をなだめ終えたアインズが、食材を用意していた。
荷物が増えても困るが故、最低限ではあるものの、一食分にしては満足な量だ。
「おかえり。良い素材はあった?」
「結構ありましたよ」
両手に持った植物を地面に置く。
その内、綿のようになっているものを拾い上げ、左右の手で持って思いきり擦り合わせる。
すると、表皮が破れ、中身の綿が露になる。よく乾燥しているため、火口として使う事が可能だ。
「はい、火打石と打ち金よ」
「ありがとうございます」
二つを打ち付け、火花が綿に落ちるのを待つ。五回ほど打つと、いくつかが目的の場所に落ちてくれた。
火花の落ちた箇所が、赤く光っているのが分かる。消えてしまう前に、ゆっくりと息を吹きかける。やがて光は大きくなり、炎となった。
「あら、上手いものね」
「まあ、クライヤマでずっとやってたので」
ブライトヒルでの生活に比べると、クライヤマのそれは原始的であった。そこで生活してきたユウキにとって、これくらいは朝飯前であった。
◇◇◇
——夜
「……というのが、あの時、クライヤマで起きた事です」
具材が煮えるまでの間、クライヤマでの出来事を、経緯からアインズに話した。日の巫女という存在の説明から、彼女に助けられるところまでである。
「そう、そんなことがあったのね……」
「けど、アインズさんのおかげで僕はこうして生きてるので。改めて、ありがとうございます」
「いいのよ、お礼なんて。それよりゴメンなさい。暗い事ばかり訊いちゃったわね」
「いいんです。誰かに話せて、少し気が楽になりましたし」
焚火に薪を追加する。火があることで、野生動物や虫からの被害は防ぐことが出来る。
消えてしまったら大変な騒ぎだが、森が近いため、素材には困らないであろう。
「そろそろ良いかしらね」
金属の器を、棒を使って火からあげ、具材をフォークでつつく。スープの具材は野菜のみ。味も塩コショウだけのシンプルなものだ。
湯気が顔面を襲い、アインズは少し顔をそらす。野菜はどれも火が通っていそうだ。
「うん、もう食べられそうよ」
「では、いただきます」
「召し上がれ」
ユウキも彼女と同様に火からあげて、一口。
「美味しい……」
夜は少し冷える。そんな中で頂く野菜スープは、身体を芯から温めてくれるようであった。夕食はこのスープとパン、そして煮沸した水だ。
「アインズさん料理できるんですね」
「……どういう意味よ」
「え、いや。ただ褒てるだけですが……」
「ならいいけど」
この質素な食事が御馳走に感じるのは、味付けや火の通し具合といった、アインズの料理手腕のおかげなのだろう。
そんな想いで言葉を放ったユウキだったが……。
「熱っ!」
突然、野菜を口へ運んでいたアインズが叫んだ。
「……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。大丈夫よ、全然」
——その割には恐ろしく慎重な食べ方だな
口は災いのもと、という言葉がある。だから彼は、声には出さず食事を続けた。
「あっ、熱——なに、大丈夫よ」
『アインズはアレでおっちょこちょいな部分がある。その、なんだ。少し気にかけてやってくれ』
——ツヴァイさんが言ってたのってコレか?
◇◇◇
食事を終えた頃には、辺りは既に真っ暗だった。日は落ち、頼りになるのは焚火だけ。
使った食器などを片付け、お湯を沸かして飲み、一息つく二人。
「……」
見上げると、ほとんど満天の星空が見える。
「天候が荒れなくてよかったわね」
「ですね……。星、綺麗ですね」
「そうね」
ほとんどというのは言うまでも無く、月のせいだ。月が地表に近付いたため、その部分の空を拝むことは難しい。
空間に穴が開いていて、二人はまるで吸い込まれそうな感覚に陥った。そんな景色である。
「さて、もうお腹は休めたかしら?」
膝にポンと手を置き、唐突に、ユウキに向かって問うたアインズ。
「え? まあ、休めましたけど」
食事が終わり、気分も落ち着いた。
——後はゆっくり休んで夜を明かすのかな
そう思っていたユウキに対して提案されたのは
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