宣誓のその先へ

ねこかもめ

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第一章

【三話】貪食と喜悦。(3)

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《俺は結局・・・隊長の最期の命令すら・・・っ‼》

幽霊さん、もといガイストさんは悔しそうな様子だ。
何も出来ずに仲間を失った彼の気持ちを、俺は理解できた。きっとアイシャもそうだろう。だが、泣いている暇はない。調査班の隊長やガイストさん、その仲間たち、そしてヴァルム地方の危機を脱するためにも。その魔物を討たなければならない。

必ずだ。
相手が未知だろうと関係ない。

「魔特班ちょっと集合」

お姉ちゃんが集合の指示を出す。

「例の魔物が家畜の事件と関わっているかはまだ分からないわ。でも調査団の壊滅とは大いに関係があるようね。」
「そうですね」
「ならやることは一つよ。我々魔特班はこれより、当該魔物の討伐作戦を開始するわ。異論は?」
「ない」
「ありません」

ああ、やってやるさ。戦う。
俺はあの時、そう誓ったのだから。

「ありません」
「それじゃあ、作戦開始‼」
「「「おう‼」」」
《ありがとう・・・君たち。俺に手伝えることがあれば、遠慮なくいってくれ》
 
 戦うにはまず、情報が大切だ。サル型もオオカミ型も、クモ型も。どの魔物も行動パターンを知り、攻撃法を把握するだけで難易度が格段に下がる。まあ、昨日のクモ型のようなイレギュラーもあるわけだが。とにかく、アイシャがガイストさんから知る限りの情報を聞き出した。

まとめるとこうだ。
骨格はヒト型で、背中や腰回りから触手が生えている。
人間と同じような武器、剣と盾を持っている。
音もなく移動し、その移動が目視できないこともある。
そして特筆すべきなのは、その魔物が殺した生き物はきれいさっぱり消え去るといった特徴だ。

「きれいさっぱり消え去る、ね。」
「お姉ちゃん、それって」
「ええ。モルケライさんの言っていた内容に近いわね」
「すると、その魔物が日に日に家畜を減らしてるってことか」
「可能性は高いと思うわ」

だけどここで、俺には一つ疑問があった。

「アイシャ、ガイストさん以外に霊はいない?」
「うん。少なくとも見える範囲には居ないかな」

その魔物に殺されると、その者は消え去る。他に霊が見当たらない以上、霊魂すらその例外ではないはずだ。じゃあ、どうして。

《どうして俺は・・・霊として存在出来ているんだ?》
「もしかしたら、ガイストさんの遺体は残っているのかもしれません」
「辛いとは思うけど・・・あなたが亡くなった場所、分かる?」
《ああ、岩場の近くだな。確か地面が抉れている部分があって・・・そうだ、旗を立てた所のすぐ近くだ》
「岩場・・・。あれか?」
リーフさんが指さす方向に、確かに岩が沢山転がった場所がある。
「とりあえず行ってみるか?」
「ええ、そうね」
 
 リーフさんの瞬間移動で例の岩場へ。

「ここだな。間違いない」

岩場に着いた途端、目に入ったのは地面に転がっている剣。スタークさんの物だろう。少し高いところから見渡すと、旗も確認できる。

「うーん、確かに血痕一つないわね」
「隊長さんの霊も居ません」

あの仮説は正しそうだ。
となると、俺たちが依頼された事案の犯人も奴という事になる。

「じゃあ、残った疑問は後一つね」

なぜ、ガイストさんは霊魂として存在出来ているのかだ。

「ガイストさんが走っていったのは向こうの方だったな」

ここから王都の方向だ。そうか、助けを呼びに・・・。


しばらく必死に考えていると、彼に関するある説が浮かんだ。

「そうだ」

何かそれらしい事を思い付いたのかと、三人が俺を見た。

「もしかするとガイストさんは・・・」

そこまで言った瞬間のこと。
小さい林の木々から、大量の鳥が一斉に飛び立った。
思わずそっちに視線を向ける。鳥たちに少し遅れて、その近くにいた牛や羊たちが逃げるように走りだした。何事かは、何も言わずともその場の誰もが理解した。

「・・・お出ましか」

甲高い唸り声が聞こえた。

すると、最後尾を走っていた羊に何か黒い影が猛スピードで迫った。ヒト型。触手。武器。間違いなく記憶で見た魔物だった。見ると、羊はシャボン玉のようなものに包まれている。その玉は魔物の身体に吸い込まれていった。まるで「食う」ように。この「食い方」によって死体や血痕すら残されないわけか。しばらく魔物を観察していると、食う行為などどうでもよくなるような事象に遭遇した。

《ニン・・・ゲン・・・》
「な、なに⁈」
「・・・喋った?」

人間。俺たちを発見したこの魔物は、確実にそう言った。話したのだ。魔物が、人間が認識できる言語で。騎士はあらゆる魔物の生態報告書を読まされ、頭に叩き込まれる。その中に、人類の言語を話すものは一種類たりとも存在しない。単なる新種、というわけではなさそうだ。まぁそもそも、魔物が家畜を食ったと言う時点で、こいつはただの魔物じゃないのだが。

「来るわよ!」

それに驚いている暇はない。相手は憲兵をいともたやすく葬った魔物。気を抜くことは死につながるだろう。四方向に散開し、様子を見る。確かに足音一つしない。
 
ほんの一瞬。
瞬きをするほんの僅かな時間に、魔物は俺のすぐ目の前へ。首を掴もうと腕を伸ばしてきた。まずい、隊長がやられた攻撃だ。冷汗が滴る。間一髪で身をかがめて回避。そのまま膝のバネを使って斬る。しかしこれは、素早いバックステップ回避によって剣先が微かに触れた程度に。

——やっぱり、強い‼

体勢を崩し、手足が地面についた。魔物はその隙を見逃さず、俺に剣を振りかざす。剣を持ち直す時間はない。

——反射だ

そう、俺には戦闘に向いた能力がある。今まで何度も敵を葬るのに使ってきた能力が。俺は剣撃を左腕で受け、その力を返してやった。魔物は怯み一歩後退る。その間に剣を拾い上げ、追撃を試みた。だが敵も馬鹿ではない。攻撃はさせまいと、盾で打撃を繰り出す。それも反射してやったが、大した影響は無いようだ。

盾をどうにかしなければ。腕にダメージを蓄積させれば、ガードを剥がせるかもしれない。そう考えた俺は、普段はあまり使わない強引な攻撃に出た。敵に攻撃を当てれば、必ず反作用が働く。その反作用は俺が受ける力だ。つまり反射できる。こうすることで、実質二倍の攻撃力が出せる。

——相手の攻撃を待って反射。訓練と同じだ。落ち着け。落ち着け。

魔物の剣撃。反射。盾を攻撃。
魔物の剣撃。反射。盾を攻撃。
魔物の剣撃。反射。盾を攻撃。

繰り返しているうちに、段々と精神が安定してきた。
しかし繰り返したが故、敵も学習したようだ。

——し、しまった!

安心していた俺は、盾による不意打ちを受けた。反射も間に合わなかった。もろに攻撃を受けてしまった俺は、何メートルか後ろまでとばされた。冷静に受け身をとり、胴体へのダメージは最小限に。剣を拾い上げ、再び立ち向かおうとした時。新たな問題に直面した。

——っ‼

不意打ちを受けた右腕が激しく痛む。これはまずい。剣を握る力さえ入らない。これをチャンスと捉えた魔物は、剣を振り上げながら俺の方へ。例えこれを弾いても、間違いなく追撃をくらうだろう。走って逃げてもすぐに追いつかれるのは間違いない。

——き、斬られる!

拍動は激しいのに、心臓が止まりそうだ。

肝が冷えた。

どうする?

一か八か反射するか?

いや、それとも・・・。

でも何かしなければどっちにしろ・・・!
 
その時。金属音と共に俺への攻撃は防がれ。魔物の盾は、奴の腕ごと地面に落ちた。

「よう、珍しく苦戦してるようだな」
「ユウ!腕、大丈夫⁈」

ああ、そうか。
次どうするか、より。
能力なんかより。

——何よりも。

一番大事なことを忘れてた。俺は、一人じゃなかった。

「リーフさん、アイシャ!」

そうだ。俺たちは四人で魔特班なんだ。

「リーフさん、こいつは私が食い止めます!早くユウをお姉ちゃんの所に!」
「分かった。気を付けろよ」
「ごめん、アイシャ」
「ステーキで良いよ」

この娘はこんな時まで相変わらず、か。返事をするまもなく、俺はリーフさんの瞬間移動でお姉ちゃんのもとへ。

「随分と派手にやったわね」
「もう痛すぎて痛くないです」

あまりの痛みに、なんとかとか言う成分が脳から出ているんだろう。

「それじゃあ治すから、少し待ってね」

お姉ちゃんが俺の右腕に触れる。数秒経つと、緑色のオーラがお姉ちゃんと患部を包んだ。そして次の瞬間には、もう痛みは無くいつも通りに腕が動いた。これがお姉ちゃんの能力だ。怪我と、お姉ちゃんが理解している病気を治す。癒し効果や浄化なんかも出来るらしい。

「助かりました」
「他に怪我はない?」
「はい。腕だけです」
「そう、じゃあ急ぎましょう」
「よし、掴まれ」

再び瞬間移動で魔物のもとへ。
さっき切り落とされた腕からは、背中の物と同形の触手が生えていた。組織の再生で体力を消耗したのか、例の甲高い声を発しながらこちらを警戒している。

「アイシャ!怪我は無いか?」
「うん。なんとか、ね」

怪我は無くとも、かなり息が上がっている様子。昨日のオオカミ型との戦いでは余裕の表情を見せた彼女でも、こいつが相手ではそうもいかない。それだけ、この魔物の攻撃が激しいという事を物語っている。

「ユウ。お前の能力なら、剣撃は弾けるんだろ?」
「はい」
「なら、触手は気にせず突っ込むんだ」
「援護は任せて」

俺一人で勝てなくても。

俺たちなら。

「了解。行きますよ!」

こちらを睨む魔物。そんな視線は無視して正面から突っ込む。反射する能力の存在を学習したこいつは、なかなか攻撃をしてこない。だけど、こっちから強引に攻撃をすれば。奴は動くか、防御せざるを得ない。もしくは触手か?

——さあ、どうする‼

答えは触手。

腕のそれを俺に突き刺そうとする。さっきまでの俺なら回避していただろう。だけど今は違う。危機感や恐怖よりも。戦意が。高揚感が。遥かに勝っている。視界はクリア。体はいう事を聞き、反応速度は限界を超えてきた。故に、この触手は・・・!

——右に弾く‼

進行の邪魔にならないよう、右へ。刹那、俺の右側を走っていたお姉ちゃんによって切断。ついに俺の剣撃が届く範囲まで来た。魔物は触手を伸ばし、自身の体を覆った。それでも問答無用で近づき、一撃。だがこれは空を斬った。お得意のバックステップだ。その反動を利用して前に跳び、剣で突いてきた。奴はもう自暴自棄だ。

——もらった!

勢いを付ければ付けるほど、弾き返された時の衝撃は大きい。

大きな隙が出来た。

「そっちの腕も貰う‼」

剣を持っていた腕も地へ。そして、再生する前。ほとんど丸腰となった魔物は、アイシャとリーフさんによって体を護っていた触手をも斬り落とされた。

勝利したかと思ったのも束の間。今までにないほど大きな奇声をあげた。眼は血走り。口からは唾が溢れ。その表情はまるで怒り狂った鬼のようだ。何より問題なのは、無数の泡をあちらこちらへ飛ばしたこと。鳥、牛、羊、昆虫。何でもかんでもお構いなく体に取り込んでいる。この行動はやはり動物でいう「捕食」のようだ。他者からエネルギーを得、体の再生を図っているのだろう。

「くそ、これじゃ近付けない!」

調査班のことから察するに、俺たち人間とてその対象だ。泡に当たるわけにはいかない。

「こりゃあまずいな」
「ええ、全快されたらさすがに厳しいわよ」
「だけどこれじゃあ・・・!」

鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。

放たれた無数の泡は、同じく無数の生物を攫って来ては取り込まれていく。俺とアイシャが斬った腕も。リーフさんやお姉ちゃんが斬った触手も。剣も。盾も。全てが再生していく。それでも止まらぬ捕食。

鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。鳥、牛、羊。

いったい何分が経過しただろう。先ほどまで鳴り響いていた動物たちの断末魔や魔物の奇声は、嘘のように消えた。

「・・・おさまったか」
「でも、様子が変」

アイシャの言う通り、確かに魔物の様子が変だ。

「フラフラしてるわね」
「ですね。それに、なんだか・・・っ‼」

これは、ヤバい。早めに気が付いてよかった!

「まずい!リーフさん!岩場の影まで逃げましょう!あいつ、徐々に膨張してます!」
「ああ確かにこりゃあ洒落にならねえな!掴まれ!」
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