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呪われた鏡の正体…幽霊探偵が暴く戦慄の真実!
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伊田裕美:幽霊探偵、旅行ルポライター、ショートカットの黒髪を持ち、知的な印象を与える黒のスーツに身を包んでいた。端正な顔立ちと鋭い眼差しが特徴で、どこか探偵のような雰囲気を漂わせていた。
伝兵衛:旅行雑誌編集長。
村田蔵六:陰陽師で湯川寺(とうせんじ)の住職、幽霊探偵の相談相手。
岩崎郁子:大学生、バンドにんにきむすめのリーダー・リードギター担当。
猪俣富子:大学生、ドラム担当。
宇野ゆみ:大学背、ベース担当。
第1章:消えた郁子と謎の鏡
岩崎郁子は普通の大学生だった。ただし、その美貌を除けば。
ジューシーフルーツの奥野敦子を思わせる端正な顔立ち。細身の体に、長い指。彼女はバンドのリーダーであり、リードギターを担当していた。指先が奏でる旋律は人々を魅了した。
郁子は毎日、大学へ向かう通学路の途中にある古物商の前を通り過ぎていた。店先には雑然と並べられた品々があり、その中に1つ目を引くものがあった。
鏡。
妙に古びていた。縁の装飾は細やかだが、一部欠け、黒ずんだ錆が浮いている。鏡面にはかすかな歪みがあり、覗き込むと何かが映り込んでいるように感じた。
郁子はなぜかこの鏡に心惹かれた。理由は分からない。ただ、何度も通るうちに次第にこの鏡を手に入れなければならないという衝動が膨らんでいった。
そしてある日、購入を決めた。
家に持ち帰り、自室の壁に立てかけた。
その日から郁子の周囲で奇妙な出来事が起こり始めた。
最初は些細なことだった。
鏡の前に立つと時間がずれるような感覚に襲われた。自分の動きよりも鏡の中の自分が少し遅れている。あるいは微妙に違う表情をしているような気がした。
次第にそれは無視できない異変へと変わっていった。
ある夜、郁子は鏡の中の自分が微笑んでいるのを見た。実際には笑っていないのに。
それは郁子の生活を侵食し始めた。
バンドの演奏中、突然ギターを放り出して帰ってしまう。仲間たちが止めても無表情のまま言葉を発することなく立ち去る。
ある日、大学の講義中に奇妙な行動を取った。授業が始まると同時に郁子は立ち上がり、教室の隅へ歩いていった。壁に向かって何かを囁いている。教授が注意しても彼女は止まらない。クラスメイトが耳を澄ませると、それは言葉ではなく、ただの音だった。誰かと交信するかのように。
別の日には友人の部屋を訪れ、何の前触れもなくクローゼットの中に入り込んだ。しばらくして友人が声をかけると扉を少しだけ開けて「ここ、すごく落ち着く」と囁いた。友人が笑いながら冗談を言おうとした瞬間、クローゼットの中から鏡を引きずるような音が響いた。そこには何もないはずだったのに。
それでも郁子は普段通りに振る舞おうとした。しかし、何かが確実に彼女を変えていた。
そしてある日。岩崎郁子は姿を消した。
第2章:第2の被害者
バンド仲間の猪俣富子は郁子のことが心配でたまらなかった。富子は太っていて、バンドではドラムを担当していた。明るく面倒見がよい性格で、バンドのまとめ役でもあった。郁子が突然いなくなってから、何度も連絡を試みたが、電話もメッセージも返ってこない。「おかしいよね」バンド仲間と話し合い、富子が直接郁子の部屋を訪ねることになった。
アパートの前に立ち、何度もインターホンを押した。しかし応答はなかった。鍵はかかっている。仕方なく、富子は管理人に頼んで部屋を開けてもらうことにした。
管理人は渋い顔をしながらも「万が一があるからな」と言って鍵を開けてくれた。ドアを押し開けると、部屋の中は静まり返っていた。誰もいない。だが、何かが違った。「変な感じ」
富子はつぶやいた。郁子の部屋はいつも整理整頓されていたはずなのに、妙に空気が重い。何より異様に寒い。エアコンはついていないのに、まるで冷気が漂っているようだった。
ふと視線の先に鏡があった。
大きな古びた鏡。
富子は知らず知らずのうちに、その前へと歩み寄った。
鏡の中の自分が映る。少し歪んでいる気がした。いや、鏡自体が歪んでいるのかもしれない。近づくほどに、吸い込まれそうな感覚に襲われる。「なんか変だな」
違和感を覚えながらも、富子はしばらく鏡を見つめていた。
その日、富子はバンド仲間の元へ戻らなかった。
第3章:幽霊探偵・伊田裕美登場
翌日、バンドの仲間たちは相談することを決めた。誰に相談すべきか議論した結果、SNSで話題になっている幽霊探偵・伊田裕美に頼ることになった。バンドを代表してベース担当の宇野ゆみが向かうことになった。
宇野ゆみは痩せていて背が高い。無口で、普段はあまり感情を表に出さないタイプだったが、この件に関しては動かずにはいられなかった。
ゆみは旅行雑誌のオフィスを訪ね、伊田裕美と対面した。「岩崎郁子が消えました。昨日は猪俣富子も行方不明になりました。私たちのバンドメンバーです」
裕美は静かに頷き、話を聞いていたが、その横から編集長の伝兵衛が口を出した。「それなら警察に行ったら?」
ゆみは少し間を置き、「警察に行っても無駄です。事件として扱ってくれません」と答えた。伝兵衛は「そりゃそうか」と苦笑いした後、裕美に向かって言った。「裕美!余計なことに関わるな」
裕美はまっすぐ伝兵衛を見据え、「困っている人がいたら捨ててはおけません!」とはっきりと言い放った。伝兵衛はため息をつきながら肩をすくめ、それ以上は何も言わなかった。裕美はゆみに「とにかく現場を見ましょう」と言い、すぐに郁子の部屋へ向かうことを決めた。
アパートに着くと、管理人が険しい顔で出てきた。「昨日、太った人が来たが、何も言わずに帰ってしまった。人騒がせだよ」と不機嫌そうに文句を言う。裕美は軽くうなずきながら、管理人に部屋の鍵を開けてもらう。部屋に入ると、異様な空気が漂っていた。温度が低く、静かすぎる。何かがここにいる。
裕美はゆみに「もう帰っていい」と告げた。「ここは私に任せて」ゆみは戸惑ったが、裕美の真剣な表情を見て頷き、部屋を後にした。裕美は管理人に頼み、その部屋で一晩過ごすことにした。
夜が更け、部屋は静寂に包まれた。時計の針が午前二時を指す頃、異変が起きた。鏡の中に影が揺れ、ゆっくりと黒い手が現れた。それはするすると伸び、裕美の首を絞めようとした。息が詰まる。視界が暗くなる。
その瞬間、裕美は懐から「たむならの鏡」を取り出した。鏡が光を放ち、目の前の鏡とぶつかる。互いに強烈な光を放ち、空間全体が震えるような衝撃が走る。
大きな音とともに、両方の鏡が揺れ、激しく光を放った後、静寂が戻った。勝負は互角に終わった。
第4章:鏡の正体を暴け
次の日、裕美は陰陽師の村田蔵六を訪ねた。「たむならの鏡と同じ霊力を持つ鏡か。しかし、それが何なのかはまだわからんな」
大学のキャンパスに行き、裕美はゆみに声をかけた。「最近、郁子さんは鏡について何か言っていなかった?」
「『近所の古物商でアンティークな鏡を買った』って言ってました」
古物商の店は路地裏にあった。扉を開けると、埃っぽい空気と線香の香りが漂ってきた。店内には骨董品が並んでいた。裕美と蔵六が奥へ進むと、痩せ細った老人が座っていた。「ここで売られた鏡について聞きたいのですが」
老人は目を細め、考え込んだ。「あの鏡のことか。ある日突然、棚に置かれておった。不思議なことにな、誰が持ち込んだわけでもない。それに気づいたら、すぐに買い手がついた」
「黒髪の若い女性ですね」裕美が言った。
「そうじゃ。黒髪の娘じゃったな。白いワンピースを着ておった。アンティークな鏡を手に取って、じっと見つめておった。そして、迷うことなくそれを買っていったよ」
それ以上、老人は何も知らなかった。裕美と蔵六は店を後にする。結局、鏡の正体はわからないままだった。ただ、郁子が行方不明になる直前にそのアンティークな鏡を買ったこと。そして、その鏡が勝手にこの店に現れ、郁子に手渡されたことだけが確かだった。まるで、その鏡に意思があるかのように。
第5章:幽霊探偵対鏡霊
裕美と蔵六は郁子の部屋で静かに夜を待った。部屋の中は異様な静けさに包まれていた。時計の針が深夜を指す頃、空気が急に重くなった。
鏡が不気味にうねり、まるで生き物のように波打つ。次の瞬間、白く細い手が鏡の中から突き出された。それは何かを探るように宙をさまよい、やがてずるりと姿を現した。
鏡霊が現れた。
それは若い女の姿をしていた。長い黒髪が揺らめき、影のように薄暗い体が歪んで揺れる。目だけが異様に光り、狂気とも憎悪ともつかぬ表情を浮かべていた。
「来た!」裕美が息をのんだ瞬間、鏡霊が鋭い動きで襲いかかってきた。
裕美はとっさに後ろへ飛び退くが、鏡霊の動きは異様に素早い。冷たい指先が裕美の肩をかすめ、ぞっとするほどの冷気が体を駆け抜ける。
「甘いな!」蔵六が素早く印を結び、結界を張った。鏡霊は勢いを止められ、一瞬動きを鈍らせた。しかし、次の瞬間、凄まじい力で結界を破り、蔵六へ向かって手を振り下ろした。
「くっ…!」蔵六は後ろへ飛び退こうとしたが、鏡霊の手が彼を捕えた。次の瞬間、渦巻く影が蔵六の体を包み込み、鏡の中へと引きずり込む。
「蔵六さん!」裕美が叫ぶ。
鏡霊はゆっくりと振り返り、冷たい笑みを浮かべた。
「私は、腎臓病で寝床を離れることもできずに死んだ女の霊さ。毎日、恨み言を吐き続けたこの鏡に取り憑いたのさ。だから、自由に生きる若い娘が憎くて仕方がない。見てご覧、これが私の正体さ」
霊の顔は朧げで、人のようでありながら完全には形を成していない。瞳は異様に光り、不気味なほど深い闇を宿している。口元はわずかに歪み、苦悶とも微笑ともつかぬ表情を浮かべているが、その輪郭は時折揺らぎ、実体があるのかさえ不確かだった。
鏡霊はゆっくりと裕美に近づき、痩せた手を伸ばす。そして次の瞬間、鋭い力で首を締め上げた。
「う…っ!」
冷たい指が喉を締めつけ、呼吸ができない。視界がぼやけ、意識が遠のいていく。
その時、鏡の中に囚われた蔵六が必死に何かを伝えようとしていた。
「この鏡を壊せ!」
鏡の中から蔵六が身振りで訴えている。「そんなことをしたら、みんなはどうなる?」裕美は朦朧とする意識の中で思った。しかし、蔵六はさらに必死に「壊せ!壊せ!」と繰り返した。
裕美は最後の力を振り絞り、鏡霊の手を振りほどくと、床に落ちていた鏡を掴み上げた。そして、思い切り床に叩きつけた。
「ぎゃあああああ!」
鏡霊の絶叫が響き渡る。鏡は粉々に砕け、霊の体は霧のように溶けて消えていった。
その瞬間、鏡の中に囚われていた蔵六、郁子、そして富子が次々と解放された。
裕美は額の汗を拭い、安堵の息をつく。
「やった…の?」
郁子が呆然としながら鏡の破片を見つめる。蔵六も疲れたように肩を落としながら、鏡が完全に力を失ったことを確認した。
「終わったな」
裕美は皆と手を取り合い、ようやく訪れた勝利を噛みしめた。
第6章:エピローグ
それから数日後。
騒動の疲れも癒えぬまま、裕美はライブハウスの熱気に包まれていた。ステージの上ではバンド「にんにきむすめ」が激しいギターサウンドを響かせ、ボーカルの女性が叫ぶように歌い上げる。
裕美は最前列で腕を振り上げ、ビートに身を委ねていた。つい先日まで死闘を繰り広げていたことが嘘のように、音楽の渦に飲み込まれていく。
「最高だね!」裕美も笑いながら応じた。
照明が激しく点滅し、スモークが舞い上がる。ベースの音がズンと響き渡り、観客たちはさらに熱狂する。日常に戻ったことを実感しながらも、裕美の胸にはまだ微かな緊張が残っていた。
(幽霊との戦いは、これで終わったわけじゃない)
彼女はふと視線を横に向けた。
少し離れた場所で、蔵六が腕を組んでライブを眺めている。派手な音楽には興味がないようだが、それでもどこか楽しそうだった。
暗闇の中、ステージの照明が再び輝く。その光の中で、裕美は確かに感じていた。
鏡霊との戦いは終わった。しかし、これからも彼女の前には、新たな怪異が待ち受けているだろう。
だが、今はただ——ロックに身を任せよう。
幽霊探偵・裕美の戦いは、これからも続く。
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