会社で起きるつまらない話

羽柴吉高

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窓際族ならぬ便所族

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【会社の給湯室】

経理部の斉藤多夢恵(さいとう たむえ)は、今日も給湯室でコーヒーを淹れながら、一人会話を始めた。

読者は「一人会話? 独り言じゃないの?」と思うかもしれないが、ちょっと違う。
多夢恵は、まるで誰かと会話をしているかのように、相槌を打ち、話を展開させる。

たとえば、近所のホームレスのおばさんも、最初は「このパンか…あまり美味しくないんだよねぇ」などの独り言を言っていた。しかし、最近では精神のバランスが崩れてきたのか、

「この間、転倒して手を痛めてね」
「それは大変だったわね、それで今はどうなの?」
「おかげで今はいいんだけど、歳を重ねるとなおりが遅いね」
「そうねぇ」

と、一人で会話を成立させるようになった。

精神が病むと仕方がないのかもしれない。
多夢恵の一人会話もまた、経理部全員にとって日常のBGMのようなものだった。

「にいさんや、ねえさんや、昨日、取引先のおにぎり太郎さんから電話があったのよ」
「どうしたのそれから?」

一人会話を繰り広げる多夢恵だが、その話の中身には、耳をそばだてたくなるほどの毒がある。

【フラッシュバック:昨日の出来事】

会社の電話が鳴る。

受付担当の多夢恵が受話器を取った。

「はい、こちら〇〇株式会社、経理部の斉藤です」

「開発部の垂岡(たれおか)さんをお願いできますか?」

電話の主は、取引先のおにぎり太郎だった。

(タレちゃんは、20分前にトイレに入ったばかりよ。少なく見積もっても、あと40分は出てこない。でもまさか、『うんこたれてます』なんて言えるわけないし…)

表向きには笑顔を保ちつつ、多夢恵は冷静に切り返す。

「申し訳ありません。垂岡は今、タバコ休憩中です」

「そうですか。じゃあ、戻ったらお電話ください」

-40分後-

再び電話が鳴る。

「まだタバコですか? 随分長いですね。いったい何本吸っているんでしょうか?」

多夢恵は心の中で叫んだ。
(タレちゃん、もういい加減にしてほしいね!)

実は、垂岡には日課があった。
午前2時間、午後2時間、会社のトイレにこもるのだ。
そして、それ以外の時間はX(旧Twitter)と株価情報のチェックだけ。特に何もやらない。

(ここがコンビニかスーパーなら、タレちゃんなんか即解雇よ。でも、ここは普通の会社? いや、こんなモンスター社員がのさばるなんて、普通の会社じゃないね…!)

【多夢恵は垂岡に意見】

多夢恵は意を決して、垂岡に詰め寄った。

「タレちゃん、あんた、会社で2時間もうんこたれるなんて、非常識だと思わないの?」

垂岡は平然としている。

「いやいや、2時間もうんこはたれてないよ」

「じゃあ、トイレで何をしてるのよ?」

「まあ、いろいろだな。仕事もしているよ。自分のスマホで電話もするし受けるし、それに最近痴呆症気味でな。この間なんて、トイレから出るのを忘れて、5分の予定が2時間になっちまった。それに、トイレの中で迷子になることもあってさ」

「そんなわけあるか!」

垂岡は不気味に笑った。

「ヒ、ヒ、ヒ、タレ、タレ!」

※猫が「ニャー」、犬が「ワン」と鳴くように、垂岡の鳴き声は「タレ、タレ」だった。

【営業部の孤児男に相談】

多夢恵は会社で一番おしゃべりな営業部の孤児男(こじお)に相談することにした。

「おれも社会を害する獣だけど、垂岡は俺なんぞ目じゃないね。田村さん、社獣ハンターって聞いたことない? なんでもSNSで連絡すると、会社を蝕む害獣を退治してくれるそうだよ」

「ここはもう社獣ハンターに頼るしかないわね」

【会社:11時の攻防】

いつものようにトイレから出てきた垂岡。
その前に颯爽と現れたのは、社獣ハンター・近藤美樹だった。

「社獣ハンター! 参上!」

「なんだ、お前!」

「垂岡垂男、貴様のうんこ製造所を破壊しに来た! 1日2時間のタレ作業は異常だろうキック!」

美樹のキックが垂岡の腹(うんこ製造所)に炸裂。

「うああああ、腹が痛い!」

野次馬たちも拍手喝采。

「すっきりした!」

「社獣ハンター、やっぱ頼れるな」

【その後】

垂岡は会社で1時間の長トイレができなくなったが、新たな手口を編み出した。

「5分ずつ何度もトイレに行く」というゲリラ戦法に切り替えたのだ。

だが、それを察知した社獣ハンター美樹は、新たな指令を下した。

「トイレの使用回数を記録し、一定回数を超えたら上司に報告せよ!」

多夢恵:「ついに、タレちゃんも終焉ね…」
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