会社で起きるつまらない話

羽柴吉高

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オフィスの階段に幽霊が出る?!

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【月曜日 会社の給湯室】
給湯室では、いつものように経理部の斉藤多夢恵(たむら たむえ)が一人会話を始めていた。

読者は「一人会話? 独り言じゃないの?」と思うかもしれないが、ちょっと違う。
多夢恵は、まるで誰かと会話をしているかのように話すのだ。

たとえば、近所のホームレスのおばさんも、最初は「このパンか…あまり美味しくないんだよねぇ」などの独り言を言っていた。しかし、最近ではかなり精神が病んできたのか、

「この間、転倒して手を痛めてね」
「それは大変だったわね、それで今はどうなの?」
「おかげで今はいいんだけど、歳を重ねるとなおりが遅いね」
「そうねぇ」

と、一人で会話を成立させている。

精神が病むと仕方がないのかもしれない。

そんな彼女が、給湯室でまた一人会話を始める。

「にいさんや! ねえさんや!」
「最近、土日に会社の階段で幽霊が出るんだって…」
「え、幽霊? それも土日だけなの?」
「そうらしいよ。私は土日休みだから見たことないけど」
「ということは、月曜日から金曜日はどこかで潜んでいて、土日に出てくるのね」
「なんか、それは怖い!」

静まり返った朝のオフィスに、多夢恵の独特な一人芝居が響き渡る。

近くの机で書類を整理していた美樹は、聞こえないふりをしながらも内心興味を惹かれていた。

『幽霊、か…。これは見逃せない案件だな。幽霊が現れるのは夜か。土日ね…』

美樹は、会社に潜む謎の生物「害獣」を退治する秘密のハンターである。
日中はただの事務社員として振る舞っているが、その正体を知る者はいない。

---

【土曜日 夜】
土曜日の夜、美樹は会社に忍び込んだ。
廊下の蛍光灯がちらつき、誰もいないはずのオフィスには不気味な静寂が漂っていた。

しかし、部屋の一つに明かりが灯っていることに気づく。
「なんだ?」

ドアをそっと開けると、IT担当の忌野ごん(いまわの ごん)がパソコンに向かって何か作業をしていた。
ゴリラそっくりの容姿を持つ彼は、口を開くといつものように「うー、うぅー」と唸るだけだ。

「ごんちゃん、まだ仕事してるのか。というか、何か見た?」
「うー、うぅー」
「聞くだけ無駄だったな…」

ごんが頼りにならないと判断した美樹は、階段の見回りを続けることにした。

それからまもなく、静まり返ったオフィスに何かの足音が響いた。
ペタペタと不規則に階段を上り下りする音だ。

『来たな!』

美樹は物音のする階段へ向かった。
そして、階段の踊り場に差し掛かったところで、ジャージ姿の人影が目に入る。

「会社に住み着く化け物! 正体を暴いてやる!」
声を上げながら、その影に飛びかかった。

「近藤さん、僕です! 営業部の大口誠(おおぐち まこと)です!」

取り押さえた先には、営業部の大口誠がいた。
彼は汗だくの姿で立ち上がり、申し訳なさそうに頭を下げる。

「大口君、こんな夜中に何をしているの?」

大口は疲れ切った表情で答えた。

「先週、一週間ほど会社を休んだんです。そしたら上司の上司が…」

---

【フラッシュバック 上司のパワハラ】

「お前は病弱だから休みが多いんだ! 俺が鍛えてやる! 大日本千葉山岳倶楽部で鍛え直せ!」

大口は自分の意に反して「鍛えてください」と申し出た。

それから幾日も経たないうちに、また休んだ。

「すいません…僕を…大日本千葉山岳倶楽部に入れてください。」

「お前みたいな奴を山岳倶楽部が受け入れるわけないだろ!」

上司は立ち上がると、ブラインドを少し開け広げ、目を細くする。

「代わりに池袋のサンシャイン60を一日中、上り下りして報告しろ!」

「えっー」

---

【幽霊の正体】

サンシャイン60は有料で階段を一定期間登ることができる。

「サンシャイン60は有料でしたし、僕は節約生活でそれどころじゃなくて…この階段を登り降りしているんです。」

「つまり、幽霊の正体は君だったってわけか。しかも理由が上司のパワハラ?」

「そんなの知るか!」

美樹は思わず声を荒げた。
しかし、話の筋が通じてしまった以上、大口を責めるのも難しい。
仕方なく階段を後にすることにした。

---

【再び静寂の夜】

しかし、会社の開発室から微かな光が漏れているのを見逃さなかった。

『まだ何かいるか?』

そっと覗き込むと、またしてもごんがキーボードを叩きながら「うー、うぅー」と唸っているだけだった。

美樹は肩をすくめてオフィスを後にした。幽霊騒ぎは解決したが、会社に住み着く害獣はたくさんいる。

---

【後日談】
翌週、給湯室で再び多夢恵の一人会話が聞こえてきた。

「にいさんや! ねえさんや!」
「また幽霊の噂が立ってるんだって…」
「え、また? まさか今度は本物?」

美樹は軽くため息をつきながらコーヒーを淹れ、心の中で呟いた。

『さて、次は本物の幽霊か、それともまた別の害獣か。どっちにしても忙しくなりそうだな…。』

オフィスの騒動はまだまだ終わりそうにない
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