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しおりを挟む寒い…瑞稀がそう思って目が覚めた頃、既に太陽は高く昇り切っていた。
体を起こそうとしたが、体中あちこちに痛みが走る。その上、鉛の様に重かった。
なんとか上体を起こすと、足の間から何かが伝わり落ちてシーツを濡らす。
それが何か、瑞稀には分かる。
瑞稀の体中から血の気が引いた。
寒さと相まって、震えが止まらなくなる…だが、今更どうこうしても遅過ぎるのも分かっていた。
とりあえず落ち着かなければ…と壁伝いで浴室に向かう。
軽くシャワーを浴び、浴室から出てスマホを手に取る。
既に日付はお正月も過ぎ、渚からの連絡が10件、最後のメッセージにはこれ以上連絡がつかないなら警察に連絡をすると言うもので、慌てて連絡を入れた。
迎えに行くと言われたが、やらなければならない事があるのでそれを断る。
契約は、完了したのだ。
喬一からは1通メッセージが来ていた。
正月に帰らなかったので、2、3日家に帰る、と。ただそれだけのメッセージだ。
瑞稀はスマホを仕舞い込み、部屋を見渡す。
どんなにしんどくても、やり切らなければならない…
冷蔵庫にある物を適当に口に放り込み、なんとか体を動かして家中くまなく掃除すると、瑞稀が初めてこの部屋に来た状態に戻す。
まるで、この部屋には誰もいなかったかのように、自分の痕跡を消していった。
全てが済んだ頃は日も暮れていた。
早く帰りたい、家へ…その思いで家路に急ぐ。
この帰りの道のりを、きっと生涯忘れられない…瑞稀はそんな事を考えながら電車に揺られた。
忘れたくても、忘れられないだろう…
玄関を開け、灯りを点ける。
そして思い切り空気を吸い込んだ。
慣れ親しんだ、雑踏の中にある古い家の匂い…
やっと終わった…
そう思うと、瑞稀は玄関へ倒れ込む。
固く冷たい床さえ、居心地が良い。
このまま寝ても構わない、そう思った。
どの位そうしていたかは分からない。
突然玄関の鍵がガチャガチャと回され、勢い良く引き戸が開く。
「っ瑞稀!」
渚の声で、瑞稀は薄らと目を開けた。
「どうした!?」
渚が慌てて瑞稀の顔色を覗く。
血相を変えて慌てる渚がなんだか可笑しくて、瑞稀はふっと笑みが漏れた。
「なんでも無い…ちょっと疲れただけ…」
瑞稀の様子に未だ落ち着かない渚は、それでも笑みを浮かべる瑞稀に、少しだけ安堵する。
「おかえり、瑞稀…」
「ただいま、渚ちゃん」
帰って来た、やっと、終わったんだ…
瑞稀の体から力が抜けていく。
「お餅、今年もついたけど…。お雑煮食べる?」
今その話…?と余計可笑しくなってきて瑞稀は肩を震わせるながら笑った。
「…うん、食べる」
瑞稀は力が抜けた体にもう一度力を込めて、起き上がった。
キィーッ…と古い床が軋んだ音がする。
渚が差し出した手を、瑞稀はしっかり掴む。
瑞稀が渚に話したい事は山程あった。
だが、その前に、渚のお雑煮で満たされてからにしよう。
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